【第二号】 冠動脈外科学会

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うっとおしい梅雨の季節ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか?

先週、熊本の学会(冠動脈外科学会)に行ってきました。

この学会は狭心症心筋梗塞などの外科手術を主にあつかう学会ですが、それに
関連した弁膜症やさまざまな病気も論じます。

そこで感じたのは、まだまだ患者さんへ治療(お薬やカテーテル治療そして手術)
の情報が行きわたっていないということです。これは経験豊富な心臓外科医が
一様に感じていたことです。

たとえばこの学会でも狭心症の治療を例に取れば、世界的に高い評価を受けて
いる研究でバイパス手術は重症冠動脈疾患の場合はカテーテル治療より成績が
良いということを示しているのに、そうしたものを頭から否定する内科の先生
もおられました。

私は外科医ですが、こどもの頃から痛いのは嫌いで、手術も避けることができる
ものなら避けるのが良いと思ってこれまでやって来ました。

しかし手術することで患者さんがより安全に長生きできるなら、手術の方が結局
患者さんにはやさしい治療であるとも言え、見かけのやさしさ、たとえば皮膚を
切らずにすむなどは、こと命の重さを考える限り、一番の重要事ではないと思い
ます。

実際、カテーテル治療を何度も何度も繰り返し、それからバイパス手術などに
来られた患者さんはこれまで多数ありますが、それなら最初から一回手術を
受けておけばもっと安全で快適だったのに、というご意見を頂いたこともあり
ます。

あるいはカテーテル治療で新型のステントと呼ばれる網状のものを冠動脈に
入れると強力な血栓予防薬を長期間飲む必要があり、そのために別の病気に
なったときに手術治療ができないなどの話を十分に理解しないままの患者さん
が少なくありません。

結果論でものを論ずる必要はありませんし、カテーテルの先生方もなるべく
少ない負担で一回で治してあげようと一生懸命治療して下さるケースが多い
です。

しかし中には一方的な説明で、カテーテルは患者さんにやさしい、外科手術は
怖いという刷り込みをされたケースも見受けられます。皮膚の創だけ見ればそう
思えるだけに罪深い刷り込みになっていることもあります。カテーテル治療が
適しない病気があるためです。

このようなことが起こる原因は、患者さんがまず内科(循環器内科)を受診され、
そのまま外科の意見や情報を得ないままカテーテル治療へと進むことがよく
ある、この構造にあります。

そうしますと患者さんの視点からは、まず幅広く内科と外科の意見を聴き、
場合によっては3者で相談するぐらいの姿勢が好ましいのではないかと思い
ます。とくに病気が重症のときにそれは役立つでしょう。賢明な患者さんは

ネットや人脈を使って情報を得て、相談に来られ、あるいはメールを送って

こられます。

外科の観点からはガイドラインを尊重し、手術すべき時は患者さんやご家族の
協力を得て敢然とやる、手術不要なときは経過を見る、要するに患者さんに
メリットのある適正な治療をする、これが大切で、幅広く相談することでその
正しい姿勢が守られるようになるでしょう。

患者さんが自らを守る、そうした姿勢の上に立つ幅広い視点を持つ医療、
これが今求められる冠動脈疾患というよりあらゆる領域での医療の姿では
ないかと思うこのごろです。

なお上記はある程度以上、進行した冠動脈疾患の話で、軽症の方は、毎日の
生活習慣の工夫やお薬による予防が第一です。バランス良い食べ物、適度な
運動、太り過ぎの予防、定期健診でコレステロールや糖尿病などをチェック、
必要なら的確なお薬、できるだけ禁煙、などなどいずれも努力の意義はあり
ます。その上で、必要時には早期診断早期治療は効くでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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