2009年12月19日 冠疾患学会にて

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(註:今回のブログは医師医療者向けになってしまいました。一般の方には判りづらいかも知れません。すみません。)

この12月18日と19日に大阪の国際会議場で開催された日本冠疾患学会に行ってきました。畏友・澤芳樹先生(大阪大学心臓血管外科教授)が外科系の会長で、内科系の会長は南都伸介先生(大阪大学先進心治療学教授)でした。

この学会は会長が内科系と外科系のそれぞれにおられることに示されるように、冠動脈疾患について内科と外科が協力して学ぶという、なかなか現代的な学会で、和気あいあいとしたアットホームな雰囲気が特長です。(写真は学会の帰途に取った中之島のイルミネーションです)

私が担当させて頂いたセッションは、「外科内科合同シンポジウム 世界の大規模スタディとその解釈・適応――ガイドラインを検証する」で、帝京大学循環器内科教授の一色高明先生と二人で座長(司会)をさせて頂きました。発表は帝京大学循環器内科、三井記念病院心臓血管外科、近畿大学循環器内科、日本大学板橋病院心臓外科、国立循環器センター心臓血管外科などの先生方がいつくかの小トピックスについて発表され、それに対してディスカッションをしました。東京大学名誉教授の高本眞一先生に特別発言を頂きました。大変なにぎわいを見ていますとイルミネーションはすでに冬の楽しみになった感があります

心臓関係の内科と外科の間で今一番話題になっているのは狭心症(冠動脈病変)の治療をカテーテルでおこなう(PCIと呼びます)か、手術で行う(バイパス手術と呼びます)かということです。カテーテルは内科の先生が行い、手術は外科医が行うため、いわば競合するような形になるからです。患者さんにとってどの治療法がベストかは大切なことなので、いくつもの研究がおこなわれています。その代表的なものがSYNTAX(シンタックス)研究です。

このSYNTAX研究ではヨーロッパで比較的重症の狭心症の治療を上記のPCIかバイパス手術で行い、その成績を比較しました。最近、術後2年までの結果が出ました。外科手術つまりバイパス手術の成績の良さが次第に明らかになって来ており、中でも重症冠動脈の場合バイパス手術のメリットがより鮮明になっていますが、内科の先生の中にはそれを無視する方があるという不満が外科側から出されました。

日本国内の臨床研究ではバイパス手術のほうがカテーテルPCIよりも成績が良いという結果が出ているのに、論文の結論ではそれがあいまいにされ、PCIに有利な文言を強調しているという不満も出されました。心臓外科医が患者さんのためになる治療をしてもそれが無視されているという残念さが随所に感じられました。

現代のEBM(証拠に基づく医学・医療)を支えるのはRCT(無作為臨床研究)つまり比較する治療法をランダムに使い分けて公平かつ正確・科学的な比較をする研究なのですが、このRCTにも弱点があることもあらためて指摘されました。私が以前から提唱しているように(このHPの冒頭のページをご参照下さい)。つまり重症はランダム化しづらいためどうしても軽症でデータをとることになり、軽症では2つの治療法の差がでにくいわけです。シンポジウムではこれらに加え、RCTでは通常の医療より丁寧になりがちで、通常の成績より良い結果が出て通常の医療の現実を反映していないという一面も指摘されました。

私が理想と思うのは、PCIとバイパス手術の特長を活かした使い分けや併用を内科外科で協力して行える医療ですが、まだまだ努力が必要なようです。循環器医療の全体像が見え、公正かつ科学的に判断するような立場の方ができればと思います。

重症心不全(虚血性心筋症)に対する左室形成術の効果を研究したStich研究(スティッチ研究、欧米の多施設が参加)では左室形成術の効果がないという結論であったため、これを検証し、左室形成術の効果があまり出ない軽症例が多すぎるという、Stich研究の弱点が指摘されました。私が以前から東京の須磨久善先生らと一緒に学会などで指摘して来たことをさらに具体的に示して戴き、うれしく思いました。このような不完全な研究のために、左室形成術で助かるはずの患者さんがその恩恵を受けられなくなるのは残念ですので、今後も啓蒙活動をして行こうとい思いました。

それやこれやで有意義で内容あるシンポジウムでしたが、時間が足りず、ディスカッションが十分できなかったのは残念でした。今後の学会などでさらに深めて行ければと思いつつ、シンポジウムを締めさせて頂きました。日本冠疾患学会の特長がよく見えるシンポジウムだったと思います。(皆さんに感謝!)

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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