⑤人工弁にはどんなタイプが?―2つありそれぞれ特徴が

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弁置換手術の際に使う人工弁には機械弁と生体弁があります。(弁形成ができればベストですが、それが成り立たない場合、人工弁が必要です。)

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◾️まず機械弁

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  Artificial valves機械弁(金属弁)は金属でできた人工弁で、100年以上も長持ちしますがワーファリンという血栓予防の薬を一生飲む必要があります。

そのため毎月病院へ行ってINR(アイエヌアール)という血液検査を受け、薬の量を調整するという手間がかかります。

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◾️そして生体弁

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生体弁(ウシやブタの組織を使った人工弁)は若い患者さんでは10年あまりしか弁がもちません。

たとえば10代では数年から7-8年しかもたないことが多々あります。


最近では高齢者では20年近くまで伸びつつあります。70代半ばでは20年持つでしょう。

生体弁はワーファリン(写真%e3%83%af%e3%83%bc%e3%83%95%e3%82%a1%e3%83%aa%e3%83%b33332001f1024左)を飲まず に済み、そのお陰で脳出血なども起こりにくくなります。

(注意:ワーファリンは名前はバファリン(写真右 Bayaspirin下、バイアスピリンという名前です)に 似ていますが違うお薬です。血が固まる蛋白を抑えます。バファリンは血小板という血がかたまる血球成分を作動させなくします)

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◾️自己心膜の弁やホモグラフトなどは

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また狭義の生体弁とは違いますが、自己心膜をもちいた弁再建が大動脈弁、僧帽弁とも進化しつつあります。自己心膜といえども本来の弁とは構造も質も違うため、基本的には弁形成ではなく弁置換つまり人工弁の一種と考えて差し支えないでしょう。

もし生体弁より高性能で長持ちすることが証明されれば、これからより多くの患者さんのお役に立てるかも知れません。ただここまでのところ手術後何年かするうちに感染性心内膜炎の発生が多い印象があり、注意も必要です。


同様に他人様の弁であるホモグラフトや、患者さんご自身の肺動脈弁を大動脈弁その他に活用するロス手術などもお役に立つことがあります。

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◾️機械弁と生体弁、どちらが良いの?

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機械弁と生体弁、どちらの系統の人工弁が良いかは患者さんの年齢、状長持ちする弁形成術がベストです。態、ライフスタイル仕事などを検討・相談してその患者さんにトータルで一番有利な人工弁を選んでいます。

 たとえば格闘技やラグビーなどの激しいスポーツをしたい方には弁形成手術が不可能な場合に生体弁

将来妊娠を希望される女性にも弁置換の必要がある場合は生体弁

デスクワークが主でスポーツはテニスやゴルフといった方の場合は機械弁、などですね。

もちろん弁形成ができる場合は形成を行います。あくまでも弁形成が成り立たない場合の話です。

しかし患者さんがご高齢たとえば70歳以上になれば、弁形成と生体弁の耐久性の差が若いひとほどではないため、形成が複雑で長時間かかるときなどには、安全を期して前向きに生体弁を入れることもあります。

要は個々の患者さんが一番得する選択をするわけです。
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そのため人工弁の選択については手術前に納得行くまで患者さんやご家族と相談するようにしています。

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◾️再手術のこと

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生体弁を比較的若い患者さんに使う場合の重要ポイントの一つはもしもの再手術をどれだけ安全なものにできるかということです

再手術はエキスパート外科医なら比較的短時間でかつ安全性も高い手術ができています。

私達は心膜その他の周囲組織を修復して手術を終えるため、将来の再手術のときにも癒着が少なく安全に手術が行いやすいという実績を持っています。

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メモ: 人工弁の将来: これには患者さん、手術前の患者さんはもとより、手術後の患者さんもご関心がおありかと思います。

機械弁、生体弁ともにこれから明るい未来が予想されています。

 

Ilm08_bd03009-s機械弁では、

上記のようにワーファリンを一生涯使わねばならないため、通院の手間がかかりますし、何か他臓器の手術や検査の際に、こまかい調整が必要で何かと気を遣います。

そこで欧米のように、自宅で簡便に血液検査ができる体制が実現すれば、より便利に、かつより安全にワーファリンが調整できるようになるでしょう。

さらにプラザキサに代表される新薬がもっと安定定着すれば、将来は機械弁の抗凝固療法としてこうした薬が使えるようになるかも知れません。

現時点ではまだ機械弁にたいしては安全性に劣るというデータがあり、保険もおりませんが、すでに心房細動などには使えるようになっています。安全性が確立すれば、毎月外来へ通って血液検査というのが昔話になるでしょう。

 

生体弁では、

その耐久性がさらに改善していくでしょう。そして近年話題のカテーテルで挿入する生体弁(TAVI、タビまたはTAVR)をもちいて胸を切らずに人工弁を入れるとか、それでなくても、以前に植え込んだ生体弁が壊れたときに、TAVIをその古い生体弁の中に埋め込む(バルブインバルブ)ことで再手術を回避することが期待されています。

すでにドイツなどでは普及していますが、日本でもこれから安全確立とともに徐々に広がるでしょう。


このように人工弁の未来は明るく、患者さんたちにも期待して頂ければ幸いです。

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ワーファリン情報サイト を参照

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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