心房細動はどう怖い?―ある種のがんより悪性とも言われます【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️心房細動はどのように怖い病気なのですか?

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僧帽弁あるいは大動脈弁や狭心症などの患者さんではしばしば不整脈とくに心房細動が合併します。

心房細動にな心房細動そのもので命を落とすことは少ないのですが、二次的な脳梗塞などが起これば大変なことになってしまいますってしまうと心臓の力が落ちます。野球のバッティングに例えれば、バックスイングが消えたような形になるからです。

しかも血栓が心臓内にできてこれが血流に乗って脳に流れると脳梗塞(脳卒中)になってしまいます。

こうなると片手片足が動かなくなるとか、顔が歪み話ができなくなるとか、歩けなくなったり尿や便が垂れ流しになるとか、運が悪ければ命を落としてしまうのです。

このように心房細動は恐ろしい病気です。

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◾️心房細動で脳梗塞になりやすいのは?

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心房細動はそれ自体でも脳梗塞を起こしやすいのですが、心房細動が時々起こる状態のときはとくに脳梗塞はよく起こります。

野球の長島さんやサッカーのオシムさん、かつての総理大臣の小渕さんはこうして脳梗塞に襲われたと言われています。突然起こる病気のため、準備期間もなく、多数の関係者に迷惑がかかり、社会的にも大きな打撃・損失となりやすいのです。

心房細動の怖さは一般にはあまり知られていませんでしたが、ある種のがんより悪いというデータもあり、油断はできません。

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Maze ATS心房細動ではベーター遮断剤などのお薬で心拍数をコントロールし、かつワーファリンやDOACというお薬で血栓を予防すれば何とかなるという意見もありますが、心房細動があると長期の死亡率が2倍近く上がってしまうという報告もあり、それは心不全がある患者さんの場合一層顕著と言われています。要注意です。

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◾️心房細動の治療、外科手術の貢献は

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心房細動の治療はまずベーター遮断剤その他のお薬ですが、それが効かない時にはカテーテルアブレーションが選択肢になります。

カテーテル治療が効かない時や、僧帽弁・大動脈弁や冠動脈バイパス手術が併せて必要なときには、心房細動も一緒に手術で治すことができます。 

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メイズ手術 (Maze手術)という心臓の中の電気信号を整える手術を行って治します。右上図はその模式図(米国製!)です。ようするにメイズ(迷路)のようにたくさん切るか冷凍凝固するのです。

有害な電気信号が流れないように左心房内では肺静脈隔離と僧帽弁峡部の処置などを加えます。

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弁が大丈夫で心房細動だけの場合は上記のカテーテル治療(カテーテルアブレーションと呼びます)がよく使われます。

メイズ手術はカテーテルアブレーションより強力なのでアブレーションでダメな時に手術が活躍するのですが、慢性心房細動とくに左房が大きく拡張した患者さんや10年を超える心房細動の患者さんなどではあまり効きません。

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◾️通常のメイズ手術では効かない時に

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そこで私たちはこうしたケースでも心房細動が治せるように、EBM(証拠にもとづく医学)を考えて心房縮小メイズ手術を開発しました(英語論文 169番などです。ご参考に)。20年近く前のことで、今も進化し続けています。

これなら通常のメイズ手術よりはるかに重症の心房細動でも治せますし、カテーテルアブレーションとのハイブリッド治療などもやりやすくなります。

また手術時に左心耳という左房の突起部分を閉じておくと、たとえ心房細動が再発しても脳梗塞が激減するというデータが出てきています。私たちはメイズ手術や弁膜症手術の時に左心耳を閉じるため、安心感があります。

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手術に加えてお薬でもこれまでのワーファリンとアスピリンに加えてプラザキサ、エリキュース、イグザレルト、リクシアナなどの使いやすい薬(総称DOAC ドアック)が登場しています。心房細動は治せる、少なくともコントロールできる病気になりました。

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◼️ 最近の展開

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近年、左心耳閉鎖が心房細動がらみの脳梗塞の予防に効果が大きいことがわかって来ました。

上記メイズ手術や弁膜症手術を行う際には左心耳閉鎖を積極的に行うようになりましたが、心房細動だけをお持ちの患者さんには左心耳閉鎖のみの手術(左心耳クリップと呼びます)を施行することが増えました。これなら内視鏡をもちいて小さい傷跡で骨も切らずに手術できます。短期間の入院で効果は大きいため好評です。

この左心耳クリップの手術適応はすでにメイズ手術やカテーテルアブレーションを行い、不整脈の薬も十分に使っても心房細動がらみの脳梗塞やその前ぶれ症状(TIAと呼びます)を繰り返す方としています。

→→左心耳クリップについてもっと見る

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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