事例 心筋梗塞で乳頭筋断裂した僧帽弁閉鎖不全症への弁置換術

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患者さんは60歳女性。

急性心筋梗塞後、乳頭筋断裂による虚血性僧帽弁閉鎖不全症を発症しました。


たまたま大動脈弁閉鎖不全症もあり、心臓と全身の状態を考慮し、ワントライで確実に完成する2弁置換を僧帽弁大動脈弁に施行しました。

術後元気に回復されました。

 

611.体外循環下に心臓を止め、左房を右側切開して僧帽弁を見ているところです。

断裂した乳頭筋先端以外は温存されています。乳頭筋の一部が見えます。

この乳頭筋温存により術後の左室機能は良好に保たれます。

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62_22.切除した僧帽弁と乳頭筋です。

乳頭筋のかなりの部分が心筋梗塞のためちぎれています。

最近増加している虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは心筋梗塞後という意味では似ていますが、乳頭筋そのものが物理的に破壊されているという意味では少し違います。

そこで手術で治すポイントも違ってきます。.

 

 

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633.人工弁(機械弁)の縫着途中です。

手術前、急に発生した逆流のため左房が小さく、視野が悪いためさまざまな工夫を行います。

状態に余裕があれば僧帽弁形成術を行いたいところですが、

他弁の疾患があり機械弁がもともと必要であったこと、さらに患者さんの安全上、一撃離脱が必要な状況のときにはこのように人工弁使用を決断しています。

この患者さんもそうした判断でまもなくすっかりお元気になられました。

 

弁形成手術と弁置換手術のEBMで盲点になっているのは、弁形成で長時間ねばったあとでそれがうまくいかず、そのあと弁置換して、結果が悪い場合、それは弁置換のせいにされる場合が多々あることです。

患者さんの真の安全性を考えるとき、こうしたことも検討する必要があります。

この手術事例は5年以上前のことですので、今なら蓄積したノウハウを活かして弁形成を考慮するかもしれません。

ただし同時に患者さんの体力と心臓の力を考えて確実に短時間で完了するという方針が揺るがないようにすることが患者さんの真の安全のために必要でしょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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