事例: ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 1

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患者さんは82歳男性。ペースメーカー植込み後、三尖弁閉鎖不全症(逆流)が発生、徐々に悪化し、肝機能も悪化し始めたためハートセンターへ来院されました。

いくつかの病院で三尖弁置換術(長期予後にまだ心配があります)つまり人工弁を入れるしかないと言われ、ペースメーカー友の会やあちこちの病院を探したのちに来院されたのでした。弁形成なら予後が良いからです。

Photo体外循環・心拍動下に右房を切開し三尖弁を観察しました。

三尖弁の後尖と腱索がペースメーカーケーブルに癒着し巻きついて、弁が正しく閉じなくなっていました。(写真左)

そこでペースメーカーケーブルを三尖弁から剥離し自由に動くようにしました。

このとき必要に応じて適宜ゴアテックス人工腱索で腱索を再建します。この患者さんでは人工腱索はきれいに剥がれたため不要でした。

この技術がないため弁置換になるケースが一般には多いと言われています。

Photo_2ケーブルを弁の動きを妨げない場所に格納し、その上で弁輪形成のリングを縫いつけて弁が十分閉じられるようにしました(写真左)。

右心メイズ手術右房縮小手術を行い、手術を完了しました。

術後心エコー・ドップラー検査では三尖弁の逆流は消失し、リズムも長期の心房細動が取れ正常リズムにもどり、心臓の機能は良好になっていました。

また術前心配された肝機能も良く維持され、安全なレベルを維持していました。三尖弁の逆流(閉鎖不全)はほぼ消失し、患者さんは元気になりかつてのような心不全症状も肝臓症状もでなくなりました。ご高齢でしたが年齢を感じさせないほどの回復でした。

三尖弁に対する弁置換術は機械弁・生体弁を問わず、まだまだ長期成績不安定ですので、極力弁形成で対処するのが有利と考えています。

この患者さんのように、上記の技術・方法と僧帽弁複雑形成術の技術ノウハウを併用することで、今後多くのペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さんに恩恵が届けばと思います。

これはICD(植え込み型除細動器)やCRTD(両室ペーシングとICDの両方の機能をもつペースメーカーです)の患者さんも同様です。

ペースメーカーの患者さんで体調が思わしくない方はご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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