お便り86: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の再々手術で

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞のあと心臓が次第に壊れて強い心不全になる病気です。

一般には心臓の力が心移植レベル近くまで落ちて、全身の体力も衰弱状態となれば、心臓手術も拒否、あとはお薬でなるべくそっと持たせた後、お見送りをするだけということが多いです。

つぎの患者さんもそのお一人です。

ある日、沖縄から一通のメールが届きました。

その方のお義父さん(80歳近いご年齢)が危篤状態で何とか助けて下さいとのことでした。

患者さんは大動脈弁置換術を昔受 A335_009け、その後何年も経ってからこんどは冠動脈バイパス手術を受けられました。さらにペースメーカーの植え込み術まで必要あって受けられ、心不全がいよいよ悪化して近くの病院に入院されました。

心臓のちからはひどく落ちていました。

もうあまり生きられない、しかし手術は危険、そもそも沖縄本島でもこの手術ができるところはない、かといって飛行機で本土まで行くことさえ危険すぎるという状況で、本土でも受け入れてくれる病院はわからないというなかで、思い余って私にメールを送ってこられたのでした。

これまでも同様の患者さん・ご家族と向き合ってきた経験から、現地の状況はよく理解できました。

沖縄の主治医の先生が送って下さったデータを拝見し、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症が悪化しており、しかもせっかくのペースメーカーもそのリード線が三尖弁を圧迫して高度の三尖弁閉鎖不全症を合併していました。すでに2度の心臓手術を受けておられ心臓は周囲の組織に癒着しており、かつ上行大動脈も拡張ぎみで、うかつに触れない状態でした。

このままでは死を待つだけの状態、しかしこの虚血性僧帽弁閉鎖不全症もペースメーカー三尖弁閉鎖不全症も再手術も私たちがちからを入れて来た病気で、手術そのものはできると考えました。

そこで当院の心臓外科医を沖縄まで派遣し、患者さんに随伴する形で守りながら名古屋までお越し頂きました。

治療戦略をチーム全員でとことん検討しました。冠動脈に新たな狭窄ができていたため、これをまず内科の先生がカテーテル治療(PCI)で応急治療してくれました。いわゆるハイブリッド治療ですね。

そして手術ではできるだけ体に負担をかけぬよう、ミックス手術を応用して右胸をやや小さ目に開け、これまでで最も有効と考えられる乳頭筋最適化術(PHO手術)を行い僧帽弁形成術としました。

さらに右房も開け、私たちの方法で三尖弁形成術を無事に完成しました。

手術前は強心剤の点滴なしでは血圧が十分には出せないほど重症でしたが、術後は次第にお元気になられ、毎日心臓リハビリで運動をこなし、栄養をつけ、心臓と全身の体力をつけて頂きました。

もとの状態よりはるかにお元気に退院され皆、うれしく思いました。

以下はその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

こうした重症になりますと、いつもうまく行くとは限りません。しかし多くの方々が元気に生還し長生きしておられるのも事実です。やはりネバーギブアップで、まず相談と思います。

お互い、一緒に考えてそんすることは何もないと思います。

 

********患者さんのご家族からのお便り********

 

米田先生へ

おかげさまで義父は孫と話したり、少し外を歩いたりと、元気に過ごしております。

もちろん以前のように苦しがって不安で夜中に病院に行くようなこともなく、家族みな安心しております。

これも米田先生はじめ、チームの先生方のおかげです。

わたくしが3か月前、一番初めに先生にメールでご相談したとき、先生はお忙しい身でありながら、しかも紹介でもない見ず知らずの私に、3時間後にすぐさまお返事くださいましたね。

あの時は涙が止まりませんでした。


そしてこちらの病院では、高齢で余病が多く三度目の手術になることと心臓の弱り方からして、空路で転院させるのも危険だと言われた状況下、名古屋からわざわざチームの先生が迎えに来ていただいたこと、無事に手術を成功させていただいたこと、元気に帰していただいたこと、本当に本当に感謝しております。

またこれまで長年にわたって義父を守り、米田先生のところまでいのちをつないで下さった地元の病院の先生や関係の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

本来なら、そちらに出向きお礼を申し上げたいところですが、取り急ぎメールにて失礼いたします。

また近況報告させていただきます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: HOCMと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治

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弁膜症がらみで除脈となりペースメーカーが必要になることはときどきあります。

ペースメーカーは除脈つまり遅い脈には効果抜群の治療法ですが、電気ケーブルを三尖弁ごしに右室へ入れる必要があり、一定の確率で三尖弁閉鎖不全症が起こります。

PreopXP患者さんは77歳女性で労作時の息切れを主訴として紹介来院されました。

もともと大動脈弁狭窄症をわずらっておられましたが、除脈のためペースメーカーを入れてから息切れが悪化したといいます。 PreopCT

左図は術前の胸部レントゲン写真です。大きな心臓です。

写真の左上にペースメーカー本体も見えます。

右図は術前のCT写真です。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を横切っているのが見えます。通常はそう問題にはならないのですが、この患者さんの場合は三尖弁を閉じなくしてしまったのです。

PreopEcho調べてみますと、大動脈弁はピーク速度が4m/sに達する強い狭窄がありました。

それに加えて、弁の下、左室流出路(左室の出口近く)に異常心筋のでっぱりがあり(HOCMとかIHSSと呼びます)、弁とあわせて一層狭く危険なレベルに達していました。

それを反映して、右室圧49mmHgと肺高血圧症も合併していました。心臓が悪いため肺にも無理がかかっているのです。

三尖弁はペースメーカーケーブルに押されて高度に逆流し三尖弁閉鎖不全症になっていました。

このままでは心不全や肝不全などが悪化する懸念があり、手術することになりました。

ところが手術前の検査で腹部大動脈瘤も見つかったため、これも注意深く見張りながらまず心臓手術を行うことにしました。

A弁観察手術ではまず硬くなった大動脈弁を切除しました。

大動脈弁口ごしに左室が見やすくなりました。異常心筋が発達し、左室の中が見えなくなっていました。

つまり左室内の血液が大動脈へ駆出しづらいともいえる状態です。

異常心筋切除開始そこでこの異常心筋を切除しました。

左図は切除を開始したところです。

この時点では左室の中はほとんど見えません。

慣れた外科医には短時間で異常心筋切除後完了する手術ですが、経験の少ない外科医には危険な手術です。さまざまな落とし穴があるからです。

左室の中が見えるように なり、血液がスムースに流れる所見となりました。

右図は異常心筋切除後の姿ですが、左室の中にある乳頭筋が良く見えるまでに改善しました。

AVR完成ここで生体弁を大動脈弁の位置に縫い付けました。

十分なサイズの生体弁が入りました。

左図がそれです。

 

つぎに右房 PMケーブルと三尖弁を開けて三尖弁を見てみました。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を圧排し弁が閉じにくくなっていました。

そこでこのケーブルを弁の付け根の安全なところに移動し、固定しました。

三尖弁形成術完成そのうえでリングをもちいて三尖弁形成術を行いました。

もう弁はケーブルに邪魔されることなく普通に動けるようになりました。

右図は術中経食エコーで、三術後TRほぼ消失尖弁はきれいに作動するようになりました。

術後経過は良好で、手術当日夜、人工呼吸器を離れ、翌朝、集中治療室を退室できました。

術後2週間目に元気に退院されました。

その後、畑仕事もできるほどに回復されました。

外来で定期健診を受けておられましたが、腹部大動脈瘤が次第に大きくなり50mmに達したため心臓手術から1年6か月後に手術することになりました。

お腹の皮膚を切らずに治せるステントグラフトEVARを第一選択として検討しましたが、腹部大動脈が屈曲し、ステントグラフトを固定するエリアが小さいことなどから、学会委員会の御意見として通常の外科手術による腹部大動脈置換が適切という判断となりました。

そこでお腹の皮膚を約10㎝と小さく切るミックス法でアプローチしました。

腹部大動脈をY型ダクロン人工血管で取り換えました。

術後経過も順調でまもなく元気に退院されました。

それから2年が経ち、外来でお元気なお顔を拝見するのが楽しみになっています。

ここまでの経過を振り返り、なんだか病気が多く、手術手術で申し訳ない気持ちですが、これで一件落着、安定された感があります。

これからさらに楽しく過ごして頂ければと思います。

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お便り20 ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さん

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患者さんは鹿児島在住の72歳女性。

18年前に僧帽弁置換手術を地元の病院で受けられ、4年前に徐脈(脈が遅くなります)に対してペースメーカーの手術を受けられました。

ところがそのペースメーカーケーブルのために三尖弁閉鎖不全症(つまり弁が逆流します)を合併し、

肝臓がうっ血し肝硬変・肝不全の状態になってしまいました。

 

こうしたペースメーカー三尖弁閉鎖不全症のケースでの三尖弁の形成手術は一般には難しいとされており、

だからと言って三尖弁置換術つまり人工弁に取り換えるのはこの弁の場合は長期の成績が悪いため手術を躊躇する病院が多いです。

それ以上に肝不全があるため、オペを乗り切れるかどうかも不明のため、

近くの立派な病院でも断られ、息子さんがネットを探して米田にメールを送ってこられました。

 

何としても助けたいため、飛行機で来院して戴き、そのまま入院して頂きました。

患者さんご本人とご家族皆さんと相談し、悩んだ末の決断で、

私たちを信頼し命をかけて私たちのところまで来て下さったことをあらためて実感しBara_4感動しました。

 

内臓が衰弱している上に2度目の手術で普通以上の負担となるため、作戦を練りました。

時間をかけて体調を整え、心臓手術に臨みました。

手術法は私たちが開発した新しい三尖弁形成術でうまく行きました。

 

そのあとがさらに課題で、衰弱した肝臓や全身が持ちこたえてくれるかどうか、

みな祈るような気持ちで見守っていましたが、見事に回復してくれました。

その後、なんと畑仕事に復帰するまでに元気になっておられます。

患者さんやご家族が一体となって私たちを信用して下さり、

私たちも患者さんを自分の親のような気持ちで、覚悟を決めて臨んだことが良かったのだろうと思います。

 

退院前にあらためて患者さんがしみじみと御礼を言って下さいましたが、私は思わず私の方こそと御礼を述べてしまいました。

以下はその息子さんが退院後、私に送って下さったメールをもとに、読者に皆さんにも役立つようにと加筆して下さったものです。



*********患者さんの息子さんからのお便り**********

米田先生御侍史

お世話になります。


母の三尖弁形成手術では大変お世話になりました。


本日、退院させて頂き、鹿児島の自宅に18:00頃到着しました。
母は3ヶ月ぶりに自宅に戻り、とても感慨深く感じていたようです。


母は小さい時から心臓を悪くし、それに対してとても我慢強く生きてきましたが、今
回は一度はもう自宅には戻れないと覚悟していたようです。


幸いなことに、先生に心臓手術をお願いすることが出来、家族一同大変幸運であったとし
みじみと話しています。

思えば、本年10月18日に先生に突然ご相談のメールを差し上げたことが始まりでし
た。


その時には、入院していた鹿児島の専門病院から手術は不可能と言われて、本当にできないのか、自宅療養で病気が悪くなる恐怖を抱えながらひっそりと暮らすしか
ないのかと家族で悩んでいたときに、先生のホームページを見つけて勇気づけられ、
最後の頼みとしてご相談したのでした。

 

この体験記を読むことで私たち同様に、勇気づけられる皆さんが一人でも出てこられ
れば幸いです。
簡単にこれまでの経過を記します。

鹿児島在住の母親(72歳)は三尖弁閉鎖不全症による右心不全状態で当時鹿児島の専
門病院に入院しており、今後の治療についてお伺いしたくメールにて相談いたしました。

 

母は、約18年ほど前にリウマチ熱による後遺症で僧帽弁置換術を鹿児島の専門病院で
受け(平成15年頃ペースメーカー装着)、ずっと定期受診してきました。

しかし、ここ1~2年段々と体調が悪くなり、元気がなくなってきていたようですが、

最近になって体に水がたまり、いよいよ日常生活が困難となったため、本年9月1日にその専門病院へ入院しました。


主治医の説明によりますと、入院時、浮腫がひどく、また黄疸も出ていたとのことで
治療をしてきましたが、

三尖弁の閉鎖不全によって全身に、特に肺や肝臓へ水がたまった結果、高度の肝機能異常(総ビリルビン値約8)を来たしているとのことでした。

その後の治療により、浮腫も軽快し尿も一日1500ccほど出るようになり、総ビリルビン値も約4~4.5まで下がって来ました。

ただ主治医によれば、いつまた病態が増悪するか判らないため、この病態から脱するには最終的には三尖弁手術をするしかないとのことでしたが、

肝不全が強く、2度目の手術でもあるため、

当院でのオペは心臓外科の判断で、「術後の肝不全のリスクが高いため、不可能」と言われていたものです。

 

私は母親の今後について、当時の主治医の意見を参考に、家族とも相談してきました
が、

このまま自宅療養で安静に生活することを選択すべきか、

それともあくまでも心臓手術をして弁膜症を治療するべきなのか大変迷っておりました。

 

当時、鹿児島の専門病院の心臓外科より手術のリスクが相当高く(術後の肝不全)、

かえって寿命を縮める可能性があることからオペをしないという決断の勇気も必要で
あると説明を受け、

自宅療養でも何とかこのまま延命できるのではないかと淡い期待をもっていましたが、

米田先生に相談してかなり厳しい状況であることを理解しました。

 

結果として、米田先生の手術を受けることが出来て大変幸運であったと感謝していま
す。

術後は、三尖弁の逆流が改善したばかりか、肝機能もビリルビン値が1.5程度
まで低下し、本当に最良の結果となりました。

 

私たちは幸運にも先生に相談することが出来て、良い結果を得ることが出来ました
が、

一方では心臓手術を受ける機会を得ることなく不幸な転帰を取られる方々も多いので
はないかと思います。


私たちと同様の病気でお困りの皆さんが、この体験記を目にされましたら、是非一度
米田先生にご相談されることを強くお勧めいたします。

 

追伸:母は自宅に戻ってから本当に生きていることを噛み締めているようでした。


私たちも母に辛い手術を勧めたことで本当に良かったのかと悩んでいたことも報われ
た思いです。


母には苦しい思いを2度もさせてしまったこともあり、是非長生きして欲し
いと思います。


これからもよろしくお願いいたします。本当に有難うございました。

 

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③ペースメーカーケーブルによる三尖弁閉鎖不全症―意外に知られない重病【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月28日

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◾️ペースメーカーのケーブルが三尖弁閉鎖不全症を起こすって本当?ペースメーカーSJM 本体

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はい。永久ペースメーカー(写真右)のリード線がしばしば三尖弁の動きを妨げ三尖弁閉鎖不全症を引き起こすことは EBM(証拠に基づく医学)でも知られています。

じっさい、三尖弁閉鎖不全症の原因のなかで、もっとも多いもののひとつと言われています。

このように三強い三尖弁閉鎖不全症が起こると肝臓がうっ血し徐々に肝硬変になってしまいます尖弁が逆流すると心不全が起こり、さらに肝臓がうっ血して肝硬変になり危険な状態に進行することがあります。通常の三尖弁閉鎖不全症よりもペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の方が薬などが効きにくいという印象があります。

 .

◾️ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症に対する弁形成術は?

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単に通常の三尖弁形成手術つまりリングを取り付けただけでは逆流は十分には治らないことがよくあります。

PM-TRに対するTAP私達はこれを解決すべく検討を重ねました。

この数年はリード線の位置を移動し安定化したうえで形成して全例、弁形成で良い成績を出しています(右図)。

 

心臓手術・事例: IHSSと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治)

 .

◾️弁尖が壊れている場合でも、、、

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さらにリード線に三尖弁の腱索が巻きついて形成が困難な状況でも巻き込まれた腱索を切除しゴアテックス人工腱索を用いることで形成ができるようにしています。

 .

実際、三尖弁置換手術しか方法がない、と言われてあちこち探し Ilm17_bc03008-s歩いた結果、私たちのところへ来られて、無事三尖弁形成術で心臓も肝臓も良くなり元気と安全を回復された患者さんが何人もおられます。

(ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 手術事例1)

(ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 手術事例2)

最近も愛知県内だけでなく鹿児島、宮崎、沖縄などからも同様の方が来られ、手術成功し無事元気に帰宅された患者さんがありました。

お便り20をご参照下さい。

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◾️諦めない

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pacemaker TR b手術を受けて元気になられた患者さんのお話でも日本心臓ペースメーカー友の会の仲間に同じ病気で肝臓が悪くなり困っている方があるとお聞きしました。

治る病気ですのでひとりで悩まず、是非ご相談戴ければと思います。

 .

これらの比較的複雑な形成は、僧帽弁形成術の技術蓄積を活かして形成を完遂できるようにしています。

ほとんどの場合、三尖弁の形成は心臓が動いた状態で行い、心臓への負担を軽くするように努めています。

 .

複数のリード線が三尖弁を逆流させている状態でも形成はできています。

ただし弁(葉)そのものが破壊されたり強く短縮するなどの変化をきたした場合は形成に限界が生じると考えます。

ペースメーカーを入れたあとの三尖弁逆流でお困りのときは早めにご相談されることを勧めます。ビリルビン(黄疸のときの黄色い成分)の値にご注意を

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◾️ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症、重症の時は、、、

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手術前にすでに肝臓がすっかり悪くなったケースでは肝臓が手術の負担に耐えられないため危険が高くなるからです。 

たとえば総ビリルビンが2を超えれば要注 意、3になれば急ぎます。

肝臓の力が落ちたと言われましたら早めにご相談ください。

 .

CRT-Dつまり埋め込み型除細動器と両室ペーシングの両方の機能をもつ優れものペースメーカーでも同様に三尖弁閉鎖不全症が起こることがあります。

この場合も同じ手術法で対処できます。(手術事例ー準備中)

 .

◾️弁置換について

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三尖弁位の人工弁(つまり三尖弁置換術)の長期成 三尖弁輪形成術後績は機械弁・生体弁ともまだ満足できるレベルにはなく、弁形成手術を行うことが患者さんにとってメリット大と考えられます。

写真右はペースメーカーケーブルをきれいに処置しつつ三尖弁形成術を行ったものです。

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なおかつて弁置換を受けた方や、弁形成が不可能なほど弁が破壊された方には、年齢などに応じて生体弁を考慮することもあります。

将来はカテーテルFigure1生体弁(いわゆるTAVI)で再手術を回避できる可能性を考えてのことです。

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左写真は代表的なTAVIの弁、サピエンです。

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いわゆる valve in valve (バルブインバルブ)と呼ばれる、壊れた生体弁の中に新しい生体弁を入れ込んで新調する方法で、まだあまり報告はありませんが、私がヨーロッパの友人に聞いたところ、すでに10例以上やっていて結果は上々とのことでした。

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◾️ミックスも可能

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IMG_0852TVP
また、肝臓などが弱っていることがよくある病気ですので、できるだけ患者さんにやさしい手術をという視点から、なるべくミックス手術とくにポートアクセス法(右写真はその傷跡です、ほとんど見えません。正中の薄い傷跡は昔の手術の傷跡です)をもちいるようにしています。

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痛みが少ないため術後経過が良いという印象をもっています。

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患者さんの想い出はこちら:

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執筆:米田 正始
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事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 2

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患者さんは67歳女性。

完全房室ブロックに対して以前に他院で永久ペースメーカー手術を受けられました。

当初は調子が良かったそうですが、その後、次第にペースメーカー三尖弁閉鎖不全症が発症・悪化し、心不全のため日常生活が制限され、この3か月は肝機能障害も発生し、このままでは肝不全の心配、いのちの心配があるため来院されました。三尖弁形成術はできませんと他病院の心臓外科で言われて、私たちのところへ来られました。

Photo患者さん・ご家族や内科の先生方と相談し、肝臓や全身の状態が保たれている間に手術することに決めました。

体外循環(人工心肺)に乗せ、心臓を拍動した状態のままで右房を切開しました(写真左)。

三尖弁を見ますと心室用のペースメーカーケーブルが三尖弁の一部に強く癒着し、腱索をも巻き込み、そのために三尖弁が動けず閉じることができなくなっていました(写真左下)。

三尖弁形成術といえば弁の付け根のところにリングを縫いつけるTAP三尖弁輪縫縮術が通常は行われるのですが、この患者さんの状況では通常のTAPでは逆流が取れないと判断しました。

Photo_2そこで私たちが開発した新しい三尖弁形成術を使いました。

ペースメーカーと三尖弁や腱索との癒着を丁寧にはがしました。

その上である程度自由に動けるようになったペースメーカーケーブルを弁の交連部に埋め込み、今後ケーブルが弁を圧迫しないようにしました。

その上でリングを用いて、三尖弁輪縫縮形成術を行い(写真斜め下左)、三尖弁の逆流がほぼ消失したことを確認しました。三尖弁形成術の完成です。

Photo_4なおペースメーカーケーブルはリングの外に位置し、今後も弁の動きの邪魔をしないように確 実を期しました。

写真下左では手前にあるケーブルが右心房用のもので三尖弁は通過しません。

右室用のケーブルは弁輪の外側に配置され、三尖弁もしっかり開閉します。これによって三尖弁の長期的な安定が図れます。

右心メイズ手術を冷凍凝固法を用いて行いました。右房を閉じて手術を終えました。

Photo_3術後経過は順調で、出血も少なく、心臓も正常リズムで良好な機能と状態で、術後2週間で元気に退院されました。

心配された肝臓もすでに良くなっています。

ペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全症は新しい三尖弁形成術で治せる病気です。

悩まずにご相談されることをお勧めします。

ペースメーカー友の会のご友人でこうした悩みをお持ちの方をご存じでしたら教えてあげてください。治せる病気で、治療法を知らずに命を落とすのは残念なことですから。

 

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事例: ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 1

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患者さんは82歳男性。ペースメーカー植込み後、三尖弁閉鎖不全症(逆流)が発生、徐々に悪化し、肝機能も悪化し始めたためハートセンターへ来院されました。

いくつかの病院で三尖弁置換術(長期予後にまだ心配があります)つまり人工弁を入れるしかないと言われ、ペースメーカー友の会やあちこちの病院を探したのちに来院されたのでした。弁形成なら予後が良いからです。

Photo体外循環・心拍動下に右房を切開し三尖弁を観察しました。

三尖弁の後尖と腱索がペースメーカーケーブルに癒着し巻きついて、弁が正しく閉じなくなっていました。(写真左)

そこでペースメーカーケーブルを三尖弁から剥離し自由に動くようにしました。

このとき必要に応じて適宜ゴアテックス人工腱索で腱索を再建します。この患者さんでは人工腱索はきれいに剥がれたため不要でした。

この技術がないため弁置換になるケースが一般には多いと言われています。

Photo_2ケーブルを弁の動きを妨げない場所に格納し、その上で弁輪形成のリングを縫いつけて弁が十分閉じられるようにしました(写真左)。

右心メイズ手術右房縮小手術を行い、手術を完了しました。

術後心エコー・ドップラー検査では三尖弁の逆流は消失し、リズムも長期の心房細動が取れ正常リズムにもどり、心臓の機能は良好になっていました。

また術前心配された肝機能も良く維持され、安全なレベルを維持していました。三尖弁の逆流(閉鎖不全)はほぼ消失し、患者さんは元気になりかつてのような心不全症状も肝臓症状もでなくなりました。ご高齢でしたが年齢を感じさせないほどの回復でした。

三尖弁に対する弁置換術は機械弁・生体弁を問わず、まだまだ長期成績不安定ですので、極力弁形成で対処するのが有利と考えています。

この患者さんのように、上記の技術・方法と僧帽弁複雑形成術の技術ノウハウを併用することで、今後多くのペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さんに恩恵が届けばと思います。

これはICD(植え込み型除細動器)やCRTD(両室ペーシングとICDの両方の機能をもつペースメーカーです)の患者さんも同様です。

ペースメーカーの患者さんで体調が思わしくない方はご相談ください。

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