11) 拡張型心筋症と左室形成術―うまい戦略で成績がもっと向上

Pocket

Q: 拡張型心筋症に対する左室形成手術を成功させるためには?

 

図 DCMと正常bA: 要は拡張型心筋症(DCM)では心臓の中で一番悪い場所を取る(あるいは形成する)ことで左室を適正に縮小し、残った心筋のパワーを最大限に引き上げようというわけです。

 

心室の拡張が強くない患者さんではその効果は限られますが、そうした患者さんでも左室の悪い部分と良い部分の差が明確なときには効果があり、術前に細部まで検討しよく見極めることが重要です。

また多少でも力が残っている左室部分はできるだけ温存し、患者さんへの体力負担を小さくする努力も併せて行っています。

同様に、手術操作のポイントを絞り、かつ左室形成術そのものも改良を加えて、できるだけ短時間で確実に、しかも左室がベストの形と容積をもてるような戦略が拡張型心筋症では大切なのです。

 

A309_052 術後に、心臓は良くなっても全身の体力があと一歩足りずに助けられなかった残念な経験が少なからずあります。

そのかなりの部分は術前に肝臓や腎臓がやられていた人、急激に状態が悪化して緊急手術になった方、あるいは術前から気管支ぜんそく などのためにステロイド剤が必要だった方などが多く、もう一歩手前で左室形成術できれば助けられたのにと、悔やまれる拡張型心筋症のケースが少なくありません。

 

患者さんの方でもどんどん質問して戴き、心臓(循環器)内科の先生や私たちに早めにご相談戴ければ幸いです。

Ilm09_af10026-s最近は以前より先手を打ち、適応を多少絞り、手術治療の侵襲(体への負担)を軽くすることで拡張型心筋症の救命率を上げています。

 

医者用語で言う「適応を絞る」ことでこの10年ほどは死亡率をゼロ近くにまで下げることができています。

ただその場合は手遅れっぽい患者さんを心臓手術しないということになり、つらいものがあります。

患者さん・ご家族・内科の先生方・外科医はじめ皆で協力し、救命率を上げるようにしたいものです。

 

2014年から開始した心尖部凍結型の左室形成術では、効率が良いことに加えて極めて短時間でできるため体への負担が軽く、重症でも手術で亡くなった方はおられず、今後が期待されます。

 

Health_0153メモ: 私が医者になりたてのころは、拡張型心筋症は治らない、長生きできない難病としてとらえられていました。

当時はお薬もあまり良いものがありませんでした。心臓手術などは考えもできませんでした。

今、こうして心臓手術や薬やリハビリや全身の治療と管理で、拡張型心筋症でもまずまずお元気で長生きしておられる患者がが増えているのを見るにつけ、ファイトがわいてきます。

今使える治療法だけでも、皆で協力してベストタイミングでベスト選択で治療すればかなり行ける、ましてこれから新しい治療法が増えればもっと行けるでしょう。


◆患者さんの想い出:

Aさんは60代男性で岐阜県から当時米田正始 Sick_29が勤務していた京大病院へ来られました。

ことの起こりはその娘さんがメールでご連絡下さったところからです。先生、私の父を助けて下さい、あと1週間のいのちと言われました、と。

さっそく電話等で連絡し、主治医の先生とも相談しました。拡張型心筋症の末期状態で、とても搬送できる状態ではない、しかしご家族とご本人さまがどうしてもと言われるのであれば、協力します、とのことでした。

相談の結果、ヘリコプターで岐阜の病院 ILM09_CF02003から京大病院(ヘリポートがないため例によって近くの賀茂川の三角州を代用)へ搬送戴きました。

診察の結果、確かにあと1週間の拡張型心筋症と言われるのはよく理解できる状態でした。駆出率も10%台で心臓はほとんど動かず、危篤状態でした。

それからまもなく心臓手術となりました。

手術では左室形成術で左室のとくに悪い部分を小さくし、あとは左心室の形を整え、ベストの大きさに造りかえるという作業をしました。

同時に僧帽弁形成術なども行い万全を期しました。

165772220術後経過は当時のことですから、さすがに大変でした。ICUで1週間以上かけてじっくりと心不全を治し(当時の看護師さんたち、ありがとうございました)、

それ以後は着実に体力をつけて状態が改善して行きました。

今ならもっと短い期間でICUを出ることができると思いますが、当時としては左室形成術を受けた最重症の患者さんはそれぐらいはかかることがよくありました。

入院期間も長く、1か月以上かかりましたが、最後は歩いて笑顔で帰宅して行かれました。来院時はヘリでしたが、退院時は自家用車で、印象的でした。

患者さんの娘さんには、あなたの勇気ある Ilm08_cf05003-s行動のおかげでお父さんが助かったんですよ、立派です、とお礼を申しました。娘さんはただじっと聴いてくれました。

半年後、ご家族からの年賀状を頂きました。昨年までのお正月は(心不全で)息苦しく、病院の救急外来に急いでいくこともよくありましたが、今年は久しぶりに穏やかで平和なお正月を皆で楽しんでいます、と。

ご家族の温かい団らんが眼に見えるような年賀状でした。

194304509それから数年経ちました。その病院の先生とお話しする機会があり、8年経った現在もお元気にしておられるとのこと。本当にうれしく、皆の努力が報われた想いでした。拡張型心筋症の末期の患者さんが移植なしでこれほど長くそれもお元気に暮らしておられることは珍しいと思います。

この喜びを当時の京大病院で一緒に苦労してくれた医師や看護師の皆さんと分かち合えればと思いました。患者さんがICUで苦しそうに闘病しておられた姿しか知らない看護師さんたちに、この幸せな姿を知って頂ければ、心臓外科での努力の意義を実感して頂けると思いました。

ともあれ患者さんのこうしたお姿を見るにつけ、あきらめてはいけない、可能性がある限り全力を尽くさねばならない、あらためてそう思うのです。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ.

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

2. 心筋症・心不全 にもどる

Pocket