最終更新日 2025年9月16日
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◆ Q:拡張型心筋症に対する左室形成手術を成功させるには?
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A: ポイントは「心臓の中で最も悪い部分を形成・切除し、残された心筋の力を最大限に引き出すこと」です。
これにより左心室を適正なサイズへ縮小し、心臓のポンプ機能を改善させます。
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心室拡張が比較的軽度な患者さんでも、良い部分と悪い部分の差を正確に見極めれば効果が得られることがあります。
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力が残っている心筋はできる限り温存し、手術時間を短縮して体の負担を減らす戦略を取ります。
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つまり拡張型心筋症(DCM)における左室形成術のカギは、精密な術前評価と効率的な形成戦略なのです。
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◆ 体力との戦い ― タイミングが重要
これまでの経験で、術後に心臓は改善しても全身の体力不足で助けられなかった症例がありました。
リスクが高かったケースの例:
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肝臓や腎臓がすでに障害されていた
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急速に悪化して緊急手術となった
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気管支喘息などでステロイド治療が必要だった
👉 これらは「もう少し早いタイミングで左室形成術ができれば救えた」と思われる患者さんたちです。
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教訓
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早めの相談と治療判断が救命率を高める
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患者さん自身も積極的に質問・相談し、内科医・外科医と連携することが重要
近年は適応をやや絞り込み、侵襲(体への負担)を軽くする工夫をすることで、死亡率はゼロに近づいています。
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◆ 左室形成術の最新展開
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心尖部凍結型左室形成術(2014年開始)
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手術時間が短く、体への負担が少ない
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重症例でも手術死亡はなく、術翌日から食事が可能
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回復スピードが早く、社会復帰の可能性を高める
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新しい視点での形成戦略
従来は「前壁・側壁・後壁」といった部位別の形成でしたが、
現在は「基部・中部・心尖部」といった立体的な評価を組み合わせ、さらに効率を上げています。
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◆ 歴史から見る拡張型心筋症治療
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医師になりたての頃、拡張型心筋症は治らない難病とされていました。
当時は薬も限られ、外科手術は考えられませんでした。
しかし今では:
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左室形成術をはじめとする心臓手術
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β遮断薬やACE阻害薬などの薬物療法
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リハビリや全身管理
これらを組み合わせることで、長期的に元気に生活する患者さんが増えてきています。
未来にはさらに新しい治療法が登場することで、拡張型心筋症の予後はもっと改善できると確信しています。
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◆ まとめ
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拡張型心筋症に対する左室形成術は、悪い部分を適切に修復して残りの心筋を最大限に活かす戦略が重要
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適応を正しく判断し、早めのタイミングで相談・手術を行うことが救命率を高める
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最新の心尖部凍結型左室形成術は、短時間・低侵襲で回復も早い画期的な方法
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内科治療・外科治療・リハビリを組み合わせた総合的戦略で成績はさらに向上している
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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