最終更新日 2025年9月11日
1.心尖部凍結式の左室形成術とは?
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**Frozen-Apex SVR(心尖部凍結式左室形成術)**は、従来の左室形成術(Surgical Ventricular Restoration: SVR)の利点を維持しながら、
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短時間で施行可能
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手技が確実で安全性が高い
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患者さんへの負担が少ない
という特徴を持つ新しい外科手術です。
従来の「心尖部瘤切除」とは異なり、左室本体を間接的に正常な形へ近づける手術であり、重症心不全患者さんにも応用できる治療選択肢です。
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2.開発の経緯

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2011年に発表されたSTICH試験では「左室形成術は効果がない」と結論づけられ、世界的に衝撃を与えました。
しかし、その対象症例は本来手術適応とならない軽症例が多く、臨床現場とは乖離があることが後に判明しました。
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この点については、メイヨークリニックのHartzel Schaff教授や、STICH委員であったRobert Michler教授も「研究方法に問題があった」と指摘しています。
一方、イタリアや日本の専門施設では、良好な手術成績が報告されており、適切な症例選択と熟練外科医による手術では十分な有効性があることが示されています。
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3.復活と改良の動き
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私たちは「より安全で成績の良い左室形成術」を目指し、改良を重ねてきました。
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一方向性ドール手術:左室を理想的な形に短時間で再構築、死亡率をほぼゼロに
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内視鏡やMICS技術の活用:より深部でも安全に操作可能
そして到達したのが、**Frozen-Apex SVR(心尖部凍結式左室形成術)**です。
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4.最近の成果

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手術操作自体は15分以内で完了
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患者さんへの侵襲が大幅に軽減
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術後は全員が元気に社会復帰
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これまでに20例以上で良好な長期成績を確認
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特に、80代で左室破裂の既往がある方
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大規模心筋梗塞後に重度心不全となった方
など、従来は困難とされた症例でも回復を得ています。
この成果は日本胸部外科学会や米国胸部外科学会(AATS)で発表し、2018年には米国の著名ジャーナルの表紙も飾りました。
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5.心尖部凍結型左室形成術が優れている根拠
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心尖部は形態維持に重要だが、機能的負担は小さい
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左室のねじれ運動に必須の部位を温存できる
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左室中央部には手を加えないため拡張機能を損なわない
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心尖部を正常形態に復元することで、左室全体のサイズと形が自然に整う
7年以上の追跡調査でも、心機能改善が維持されています。
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参考:
いい心臓・いい人生第107号 アメリカでまた発表して参りました
いい心臓・いい人生100号 アメリカ胸部外科学会で発表することに
いい心臓・いい人生99号 第31回日本冠疾患学会にて。
いい心臓・いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。

2018年秋にこの新しい左室形成術はアメリカのメジャージャーナルの表紙を飾ることができました(右図)。
その後も報告を続けており、より完成度を高めて世界の多くの患者さんたちにお役に立てるようにして行きたく思います。
→新しいデュアル形成術を知る
6.これからの展望
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拡張型心筋症・虚血性心筋症など、従来は「打つ手なし」とされた患者さんにも治療の道を開く
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カテーテル治療(PCI, M-Clip)で改善しない心不全にも有効な可能性
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合併症(大動脈弁狭窄症・心房細動など)も同時に治療し、全体的な予後改善を目指す
⚠️ 注意点:状態が進行して寝たきりや集中治療室に入ってからでは、体力不足のため手術適応外となることがあります。
👉 まだ歩けるうちに早めのご相談が望まれます。
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まとめ
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Frozen-Apex SVRは、従来より短時間で安全性の高い左室形成術
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重症例でも良好な成績を示し、社会復帰された患者さん多数
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世界的にも注目される新しい治療法であり、日本から発信しています
「もう打つ手がない」と言われた方も、ぜひ一度ご相談ください。
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患者さんの声はこちら
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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