事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術 その2

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虚血性心筋症は現在も重症でしばしば心移植しか治療法がないと言われます。

そうはいっても心移植はなかなか順番が回ってきませんし、補助循環(いわゆる人工心臓)を使っている人たちが優先することが多いですので、普通の心不全の症状では逆に治療法に困ることがあるのです。

患者さんは60代男性で起座呼吸を主訴として来院されました。

つまり心不全としては4段階の4、つまり最重症に入ります。

過去20年間に4回のPCIつまりカテーテルによるステント治療を受けておられます。しかし心不全が悪化し、来院されました。心エコーにて左室駆出率28%つまり健康者の半分以下、そして僧帽弁閉鎖不全症の増悪も認められました。このままではもう、あまり長くは生きられないという状況でした。

しかしよく見ればまだ心筋がかなり残存している所見があり、左室の悪い部分が比較的明瞭で、心図1SVG-4PD臓手術とくに冠動脈バイパス手術左室形成術そして僧帽弁形成術で改善できると判断しました。

体外循環下、心拍動下にまず静脈グラフトを右冠動脈に取り付けました。

さらに左室を前壁で開け、中を調べました。

図2左室切開前壁と心室中隔の前部分が心筋梗塞でやられており、それ以外は比較的壊れていませんでした。

これは治せるという所見です。

そこでDor手術の簡便さとSAVE手術のきれいな形の両方をもつ、私が開発した方向性Dor手術を行いました

通常のフ 図3四分割Fontan糸ォンタン糸と呼ばれる糸を4分割して梗塞部分と健常部分の境界部にとりつけました。

そしてその糸をくくることで左室の短軸つまり横方向に主に縮小させました。

左室はかなり小さくなり、予定のサイズまで戻りました。

それと同時に形を長細い、洋なし型に整えました。

図4左室縮小前 図5左室縮小後

左写真の左側は縮小前、同右側は縮小後の姿です。

主に横方向に小さくしていますが、

心尖部が瘤化しているため長軸方向にもある程度は縮小しています。

これで左 図6パッチ縫着後室のパワーアップに役立つのです。

最後にパッチを縫い付けて左室形成術を半ば完成させました。

そのうえで、左房を開けて僧帽弁を調べました。

やはり左室 図9MAPと吊り上げ後が悪化したために弁が閉じなくなっただけで、弁そのものは良好でした。

そのため私が考案した乳頭筋の前方吊り上げを行い、それも前尖と後尖のどちらもが前方へ引かれるように工夫し、リングをつけて完成しました。

弁はきれいに閉じるようになりました。

図10LITA-LADと左室閉鎖後最後に左室の切開部を閉じ、内胸動脈LITAを前下降枝にバイパスし、操作を完了しました。

術後経過は良好で、まもなくお元気に退院されました。

あれから5年が経ちますが、お元気に普通の生活を送っておられます。

その後もこの左室形成術で多数の患者さんをお助けできていますが、昔、救命できなかった患者さんのことを想いだしてはさらに精進しお役に立てるような心臓手術を磨いていきたく思うのです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術

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虚血性心筋症拡張型心筋症に対する左室形成術は適切な患者選択によって大きな成果を上げることができます。しかしこのことは循環器内科の先生方に十分知られているとは限りません。

つまり左室形成術によって救命し、さらに元気を回復できる、そうした患者さんが恩恵を受けられないというケースが全国で発生しています。

現在、全国の仲間の協力で重症心不全研究会が立ち上がりEBMデータを蓄積し、多くの内科医・臨床医のご理解を頂けるように努力しています。

ここで提示する事例は関東在住の30歳代前半の男性で、3か月前に大きな心筋梗塞をわずらい、近くの病院で治療を受けて何とか退院されました。ところが心不全が次第に悪化し、複数の有名な病院でも心臓手術は無理と断られ、私の外来へ来られました。

術前検査で左室Dd(拡張末期径)89mm、左室駆出率0%(計算上)と危険な状態でした(末尾ちかくにある術前後のエコーの比較をご参照ください)。左冠動脈前下降枝は完全閉塞しており、これが原因の虚血性心筋症と考えられました。

こういう患者さんをこれまで長年、お助けしてきましたのでお引き図1左室切開受けすることにしました。

まず体外循環を回し、

心拍動のままで左室を開けました(写真右)。

左室内には血栓があり、

図2左室血栓摘除これが脳へ流れれば脳梗塞になるため完全に摘除しました。

写真左は血栓摘除中の様子です。

ついで心筋梗塞でやられた部分とそうでない部分の境目に糸をかけ(これをフォンタン糸と言います)、

通常のDor手術(ドール手術)ではこの 図5新フォンタン糸かけ後フォンタン糸をただ締めてくくるのですが、

これを前もって4分割し、

主に横方向に左室を小さくするという私の考案した「方向性Dor」という左室形成術を行いました。

図7パッチ縫着後左室がSAVE手術(セーブ手術)に負けないきれいな洋ナシ形で、

しかもより短時間で正常サイズに近づいたところでパッチを縫着し、

左室を閉鎖して仕上げました。

僧帽弁が術前にかなりゆがんでいたため、僧帽弁形成術を併せ行いまし 図9MAPた(写真右下)。

 

術後経過はおおむね良好で、一度だけ歓談中の不整脈発作でお互い冷や汗をかきましたが、チーム全員が努力して患者さんを守り抜き、元気に退院して行かれました。

図10術前後の心エコー真左は術前後の心臓の様子をエコ―でみたものです。

ほとんど動いていなかった左心室がかなり回復し、形もきれいで安定度が増したのがわかります。

あれから6年以上の月日が経ちますがお元気と聞いてい ます。

左室形成術は適応を選び、うまく使うと患者さんに大変お役に立つ手術です。

本来心移植をしても不思議でないほどの重症患者さんですので楽な治療ではありませんが、心移植の数が限られていることから、患者さんにお役に立つ心臓手術と申せましょう。

こういう重症の患者さんは手間がかかり赤字になりしかもリスクも高いため病院からは嫌われることが多いのですが、日々治療法を改善しながらチームを育てて多くの皆さんの理解を頂きながら患者さんの救命ができるように努力しています。

 

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10年。

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いつの間にか長い時間が経ちましたが、まだ昨日の事のように覚えています。当時はまだ珍しかった、そして未知の部分が多かった左室形成術という手術を行った患者Mさんのことです。

本日日本胸部外科学会という心臓外科や肺・食道外科のトップ学会の分科会として仙台にて開催された重症心不全研究会で、ベストシナリオの症例ということで当番世話人の斎木東北大学教授のご厚意にてMさんの手術治療を紹介させて戴きました。

Mさんは10年前、私がまだ京都大学病院で勤務していたころに緊急入院して来られた患者さんです。以前の心筋梗塞のため心臓が年々悪化し、健康なときの4分の1のちからまで落ち、心不全のため近くの病院に入院退院を繰り返すまでになっておられました。しかもいのちにかかわる不整脈が出たり、左室の中に血栓の塊までできて、これがもし脳に流れれば即死する恐れさえある状態でした。

ただちに皆で治療方針を立て、準緊急手術で救命することになりました。たまたまそのころに朝日テレビの記者さんたちが私の取材に来ておられ、是非そうした患者救命の最前線を紹介したいと依頼されました。Mさんの手術は当時、というより10年経った今でも他より危険性が高い大手術で、それを報道陣の前で行うことは、何か不幸な結果がでれば私も引責辞任の事態さえ考えられる状況でした。

しかし患者さんがいのちを賭けた闘いに敢然と挑もうというときに、私もこの手術を確信もって行い、かつこの左室形成術という危険性はあっても患者さんにとって希望のひかりとなる手術を世の中に啓蒙する義務があると考え、手術も取材も予定どおり進めることになりました。

この取材を報道した番組の録画はこちらを をご参照ください。

手術は当時としては最先端の、セーブ手術という左室形成術だけでは不足するため、Septal Reshaping(心室中隔形成)という方法を併用し、同時に僧帽弁形成術、冠動脈バイパス手術、両室ペーシングなどをすべて心臓を動かしたまま行うというものでした。
よくそんな目茶ができるねと当時友人に言われたものですが、極度に弱った心臓のため、普通の心臓手術のように一度心臓を止めてしまうと二度ともとのパワーが出せなくなることを恐れたからです。

我がチームの興亡この一戦にありという気持ちで臨んだかと言われれば、むしろ逆で絶対勝てると確信して臨んでいました。これまで幾多の勉強や研究、議論を尽くして来たのはこうした患者さんを助けるためであり、これだけ準備して来たのだからきっとできると確信していました。

手術はうまく行き、患者さんはまもなく元気に退院して行かれました。

その後、私が大学病院で政治的に困難に局面したときも他の患者さんたちとともに署名などを集めて支援して下さいました。心臓外科医の苦労を知らず、ただ仕事をしたくない人たちの側について私を批判していた人たちが生涯知ることができない、熱い患者さんたちの心からの支援を何よりうれしく思ったものです。

その後、患者さんの会で定期的にお元気なお姿を見せていただき、いつもうれしく思ったものです。そのMさんの手術から10年が経ち、かかりつけの病院の先生(枚方市民病院の中島伯先生、ありがとうございます)が10年後のデータを送って下さいました。かつて正常の4分の1まで弱っていた心臓は何と正常レベルにまで復活していました。自分たちの努力がこういう眼に見える形で報われたこと、そして左室形成術という手術が条件を考えてしっかり行えば奇跡を起こすことも示されました。

重症心不全研究会は、左室形成術が患者さんに真に役立つことを科学的データをもって世界に発信し、まだまだ理解されていないこの術式を世界に役立ててもらおうという主旨で、松居喜郎北大教授や須磨久善先生はじめ日本の左室形成術のエキスパートが集まり造られた研究会です。私も及ばずながら手伝いさせて戴いております。

こうした素晴らしい仲間のまえで、忘れられない患者さんをご紹介できたのは望外の喜びでした。しかも私は翌日所用が奈良であり終電に間に合わせるために早退する必要から、我が弟子・増山慎二先生に発表して戴きました。立派な発表を最後まで聴くことができ、友人たちから温かいコメントも戴き、頑張ってくれた患者さんや当時のチームを想い出しながら帰途につきました。私は患者さんに生かされていると、ありがたく思った一日でした。

平成25年10月18日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
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2010年2月19日 バンクーバー冬季オリンピック

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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多オリンピックでは感動の連続ですく、力を頂いていることを感じます。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピックメダルを獲得しました。ロシアや アメリカの強豪相手に立派というしかありませんが、その内容にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少しのところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、精神力と実力でその後をしっかりとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャンプで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれました。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のときを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。たとえば重い心筋症心不全バチスタ手術セーブ手術などの左室形成術の患者さんなどのケースですね。毎日息苦しい、つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが何度もあります。もちろん患者さんも、話を聴く私も、飽くまで生きることを目指して相談しているわけですが、このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかしこのまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないというのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

昨日の涙は明日の喜びに。かつて助けられなかった病気を助けられる病気に。
するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできるような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、などがあり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイリスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合や高齢者患者さんの場合などでは4回転ジャンプできると予測していたのに着地で失敗ということはあり得ます。今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

オリンピックでぎりぎりのところで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝

 

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お便り8 左室形成術の患者さん

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Sakura_b4年前に 冠動脈バイパス手術 と 左室形成術 を受けられた64歳男性の患者さんからのメールです。

当時は米田は京大病院にて仕事していましたので、この患者さんの手術も同病院で行いました。

 

左室形成術はクルマにたとえればエンジン本体を治す手術です。

テレビ等で有名になったバチスタ手術もこの左室形成術のひとつです。

細心の注意のもとでの大きな手術を乗り越えられ、現在もますます元気で前向きな生活を送っておられることをうれしく思います。

患者さんのご厚意で、実名記載させていただきました。

 

 

 

***********************************

2009.5.

米田正始 先生  西村國男です。

メールを頂きまして、ありがとうございます、最近チョット太り気味ですが元気に暮らしています。昨夜はある会合とパーティがあり、少々チドリに変身して帰りました。

私、まもなく、65歳、60歳に続き、第二回目の定年、ひとつの区切りをつける日が近づいています、同年齢の連中が、隠居生活や、この世を去る人が出始めた中、私は20~30歳代の気持ちで生きています、相手は嫌がるかもしれませんが、できるだけ若い人たちのグループに交じり合い遊ぶ努力をしています。

あの手術の前後に、NHKテレビの生中継番組で毎朝、「最長片道切符 列島横断鉄道12000キロの旅」を放送していました、旅の好きな私、その放送の録画を見直すことが幾度かあります、そして、テレビ画面を見ながら、この放送の時に手術室、集中治療室、そしてあの病室に居たんだな、など思い出しています。

今も、病院で体の経過を診てもらっています、先生は「**」先生から「**」先生に交わられました。

自動車でいえはエンジンをオーバーホールして、軽やかに走っている気持ちです、心臓のスケッチを画かれ、バイパスと左室形成をするのだと説明していただいた様子、回診のときのお話、昨日のように覚えています、幾度御礼を言っても、言い過ぎてはないと思っています、この世に生まれ、一度の人生の手助けをしていただいたことの感謝は、永遠に忘れるものではありません。

ホームページに掲載の件、もちろんオーケーです、別に名前は伏せてもらわなくても、実名で掲載していただい結構です、心臓病の皆様のお役に立つようなら、何なりとお使いください。また、必要ならば、私の経験談も書いてもよいと思っています。

そして、検診にも、先生の病院にお伺いしたいと思っています、その折にはどうぞよろしく、お願い申し上げます。

先生の今後の、ご活躍を、お祈り申しあけます。

******************************

2008.1.

米田正始 先生へ

私、土曜日の集まり(註:米田の患者さんの会)で参加いたしました、西村國男でございます、先生には大変お世話になりました、そして、元気になり誠に感謝しております。

私は、4年前の平成16年のゴールデンウィーク明け1番に、バイパス手術と心臓肥大部分の削除をしていただき、今、こうして元気にすごしています。

そして、病院の中での話を耳にし、心配しておりましたところ、一昨日の集まりを知り、駆けつけさせていただきました。

先生の近況を知り、安心しております、新しいロケーションでの活躍をお祈りしております。

そして、いつの日か京都に帰られることを、期待しております。

電子メールで失礼ではございますが、命を救ってくださった御礼を申し上げたく、メールをおくらせていただきました。

2008.1. (追伸)

米田 先生

早速の、お返事ありがとうございます、あの手術のあと、仕事で行く、5階建ての公団住宅で、今まで、3階で休憩していたのが、一気に5階まで登れるようになり、今もその状態です、本当に調子よくなっています、最近の検診でも特に異常は無いそうです。

この人生で感謝することは、幾度かありましたが、先生に出会ったことが人生最高の感謝です、本当にありがとうございました、この再会を機会に今後とも本当によろしくお願い申し上げます

 

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11) 拡張型心筋症と左室形成術―うまい戦略で成績がもっと向上 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月16日

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◆ Q:拡張型心筋症に対する左室形成手術を成功させるには?

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図 DCMと正常bA: ポイントは「心臓の中で最も悪い部分を形成・切除し、残された心筋の力を最大限に引き出すこと」です。
これにより左心室を適正なサイズへ縮小し、心臓のポンプ機能を改善させます。

  • 心室拡張が比較的軽度な患者さんでも、良い部分と悪い部分の差を正確に見極めれば効果が得られることがあります。

  • 力が残っている心筋はできる限り温存し、手術時間を短縮して体の負担を減らす戦略を取ります。

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つまり拡張型心筋症(DCM)における左室形成術のカギは、精密な術前評価と効率的な形成戦略なのです。

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◆ 体力との戦い ― タイミングが重要

A309_052.

これまでの経験で、術後に心臓は改善しても全身の体力不足で助けられなかった症例がありました。

リスクが高かったケースの例:

  • 肝臓や腎臓がすでに障害されていた

  • 急速に悪化して緊急手術となった

  • 気管支喘息などでステロイド治療が必要だった

👉 これらは「もう少し早いタイミングで左室形成術ができれば救えた」と思われる患者さんたちです。

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Ilm09_af10026-s教訓

  • 早めの相談と治療判断が救命率を高める

  • 患者さん自身も積極的に質問・相談し、内科医・外科医と連携することが重要

近年は適応をやや絞り込み、侵襲(体への負担)を軽くする工夫をすることで、死亡率はゼロに近づいています。

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◆ 左室形成術の最新展開

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心尖部凍結型左室形成術(2014年開始)

  • 手術時間が短く、体への負担が少ない

  • 重症例でも手術死亡はなく、術翌日から食事が可能

  • 回復スピードが早く、社会復帰の可能性を高める

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新しい視点での形成戦略

従来は「前壁・側壁・後壁」といった部位別の形成でしたが、
現在は「基部・中部・心尖部」といった立体的な評価を組み合わせ、さらに効率を上げています。

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◆ 歴史から見る拡張型心筋症治療

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医師になりたての頃、拡張型心筋症は治らない難病とされていました。
当時は薬も限られ、外科手術は考えられませんでした。

しかし今では:

  • 左室形成術をはじめとする心臓手術

  • β遮断薬やACE阻害薬などの薬物療法

  • リハビリや全身管理

これらを組み合わせることで、長期的に元気に生活する患者さんが増えてきています。

未来にはさらに新しい治療法が登場することで、拡張型心筋症の予後はもっと改善できると確信しています。

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◆ まとめ

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  • 拡張型心筋症に対する左室形成術は、悪い部分を適切に修復して残りの心筋を最大限に活かす戦略が重要

  • 適応を正しく判断し、早めのタイミングで相談・手術を行うことが救命率を高める

  • 最新の心尖部凍結型左室形成術は、短時間・低侵襲で回復も早い画期的な方法

  • 内科治療・外科治療・リハビリを組み合わせた総合的戦略で成績はさらに向上している

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2. 心筋症・心不全 にもどる

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8) 左室形成術を強化する方法―総合戦力で予後を改善【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ 左室形成術とは?

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左室形成術は、心筋梗塞や拡張型心筋症などでダメージを受けて大きくなった左心室を、外科的に整えて機能を回復させる手術です。
重症心不全に対する外科的治療の中核であり、僧帽弁閉鎖不全症などを合併した患者さんに大きな効果を発揮します。

私たちはこの左室形成術を**より安全に、より長持ちさせるための「強化法」**を組み合わせ、患者さんの生活の質(QOL)と予後の改善に取り組んでいます。

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◆ 強化法1:僧帽弁輪形成術(MAP)や乳頭筋前方吊り上げ(PHO)の併用P1170355b

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左室形成術と同時に 僧帽弁輪形成術(MAP) を行うことで、左室基部の働きを高められることが研究で確認されています。

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また、病態によっては 乳頭筋前方吊り上げ(略称PHO) を併用し、逆流防止とポンプ機能改善を両立させています。

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◆ 強化法2:両室ペーシング(CRT)・ICDの活用

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CRT(心臓再同期療法) は、ペースメーカーの進化版で、心室の収縮を整えることで心不全症状を改善します。
さらに、重症心不全では不整脈が命を脅かすことがあり、**ICD(植込み型除細動器)**が有効です。

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必要に応じて CRTとICDを兼ね備えたCRTD を導入し、左室形成術との併用で大きな治療効果を発揮しています。
これらの機器は手のひらサイズで、患者さんの負担を最小限に抑えられます。4.虚血性心疾患の項をご参照下さい

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する複合手術。海外のジャーナルにも掲載され当時の新聞でも報道されました。◆ 強化法3:合併手術の最適化

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  • 高齢や体力低下がある患者さん → 手術内容を最小限に絞り、安全を優先。

  • 若い患者さん → 必要な合併手術をしっかり行い、根本治療を目指す。

実際に虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する複合左室形成術を行い(左図)、重症ショック状態から社会復帰した患者さんもいます。

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◆ 強化法4:手術手技の進化 ― 心尖部凍結型左室形成術

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ここ数年で、手術時間を短縮しつつ確実に行えるよう工夫を重ねてきました。

また、僧帽弁逆流に対しては 乳頭筋最適化術 など新しい方法を導入し、短時間で確実に修復しています。

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◆ 強化法5:薬物療法との併用

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左室形成術のあとも、薬物療法は欠かせませんA316_005

これらを適切に使用し、副作用を確認しながら長期的に心機能を安定化させています。

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Rehabilitation◆ 強化法6:リハビリ・栄養・チーム医療

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心臓リハビリや適切な栄養管理も重要です。

  • ASV(加圧マスク) で呼吸・循環をサポート

  • 循環器内科や地域医療との連携 によるチーム治療

  • 糖尿病・高血圧・肥満・睡眠時無呼吸症候群(SAS)の管理も必須

心臓手術は手術単独ではなく、全身を診る総合治療として取り組むことで、真の回復につながります。

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Aki_0088◆ まとめ

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左室形成術は進化を続け、

  • Mクリップ、僧帽弁形成や乳頭筋吊り上げ

  • CRT・ICDの併用

  • 新しい術式の導入

  • 薬物・リハビリ・生活習慣管理

といった総合戦力を駆使することで、重症心不全患者さんの予後改善に大きな可能性をもたらしています。

「もう治らない」と言われた方でも、最新の左室形成術と包括的治療で新しい人生を歩めるかもしれません。ぜひ一度ご相談ください。

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サルコイドーシス心筋症

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事例5 ドール手術 2

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患者さんは虚血性心筋症83歳女性。

主訴は労作時胸部不快感。左室形成術にはややご高齢ではありますが、これはお元気になって戴けると判断し、手術に臨みました。

心胸郭比CTR78%、冠動脈造影で3枝病変。心エコーにて左室拡張末期径LVDd48m、駆出率23%、MR I度。

高齢の患者さんですが、心臓が良くなればアクティブな生活を送れる方であり、かつ心臓を良くできるめどが立つため手術を行いました。

5111.心エコー4室像にて

左室拡張末期(左)と

同収縮末期(右)像。

 

 

.

 

522.まず冠動脈バイパス手術から。

右冠動脈4PD枝に

静脈グラフトをつけています。

                                                                              .

 

 

                                                                           .

 

533.つぎに右冠動脈本管にも

バイパスをつなぎます。

年齢と心機能を考えて

適切なグラフト選択を心がけています。

ここでは静脈グラフトが最適と判断しました。

 

                                                                        .

 

544.さらに左冠動脈の回旋枝にも

バイパスをつけました。

 

 

 

 

                                                                             .

ここでも完全血行再建は重要です。                                                                                   .

                                                                           .

                                                                                   .

555.左室でやられたところが心尖部つまり先端付近であったためドール手術を行いました。

この病変の位置と性質ならドール手術でも左室の形を歪めず、

患者さんは元気になれると判断したためです。

なお現在はこれまでの100例以上の左室形成術を検討した結果、セーブ手術の特長をもったドール手術を開発し、心基部までやられた左室でも、形を崩さず形成縮小できるドール手術を行っています。国際学会でも発表していますが、近いうちにジャーナルでも発表いたします。

 

56_26.僧帽弁輪形成術(MAP)を左房ごしに行いました。

矢印が形成用のリングです。(僧帽弁形成術を参照)

左室形成術にこのMAPを併用することで、成績がさらに上がった感があり、

とくに術後のMRの出現はゼロに近づきました。

.

.
577.最後に左内胸動脈(矢印)をつなぎました。

左前下降枝つまり心室中隔がやられたケースでの左前下降枝に対するバイパスには議論がありますが、

私たちは心室中隔の根元の心筋とくに冬眠心筋や可逆障害心筋をできるだけ助けるために、

また時に右室機能をも守るために、左前下降枝にバイパスをつけるようにしています。

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8.左室駆出率も23%から42%へと増加し、患者さんはご高齢ですが十分な心臓リハビリと体力回復ののち術後30日目に元気に退院されました。この手術と年齢で、当時としてはまずまずの入院期間でした。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例4 セーブ手術その2 

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患者さんは60歳男性、26歳時に大きな心筋梗塞を患い、次第に心不全が悪化し、不整脈発作や左室内可動血栓もあり来院されました。診断名としては虚血性僧帽弁閉鎖不全症をともなった虚血性心筋症です。

突然死のおそれもある危険な状態のため準緊急手術を行いました。

4111.術前の経食エコー像です。

左が拡張末期、

右が収縮末期の像です。

左室の動きがほとんどありません

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422.体外循環下に左室前壁を切開しているところです。

左室前壁は僅かに心臓の筋肉が残っていますが、

大半は線維組織で置き換わり、力が出せなくなっていました。

仕事をしていない部分を切っても心臓の力はほとんど落ちません。

心臓は止めずに拍動させています。

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433.左室内部の可動血栓を取り去っています(矢印)。

これで脳こうそくなどが起こりにくくなります

こうした血栓をかかえて、無事病院まで来られたのは幸運でした。

 

 

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444.術前に心室粗動などの危険な不整脈が出ていたため、

冷凍凝固(クライオアブレーション)で不整脈のもとを焼きました(矢印)

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455.セーブ手術の糸をかけているところです。

すでに心室中隔はかけおわり(矢印)、左室側壁を作業中です。

この間ずっと心臓は動いています。

心臓が動いていますと、左心室の悪い部分(つまり病変部分)と良い部分との差は歴然で、写真でも心室中隔後部はダムの堤防のようにはっきりと判ります。

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466.僧帽弁輪形成術(MAP)の糸をかけています(矢印)。心臓が動くと視野が狭くなるため工夫します。(僧帽弁形成術の項を参照)

MAPは左室基部の縮小と運動性の改善をもたらすことを私たちは動物実験で証明しました(英語論文192番)。

この患者さんのように以前の心筋梗塞で多量の心筋細胞を失ったかたには、

MAPは心機能改善のために有効と思います。

477.セーブ手術のパッチを固定しています。心臓内の空気抜きも同時に行います。

このパッチの向こう側が新しい左室となります。

手前側のスペースの分だけ左室が縮小されたことがわかります。

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488.左室の切開部(開いたところ)

を閉じているところです。

出血しないように何重かの処理を加えています。

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9.心筋に埋もれた冠動脈を

高速エコーで的確に見つけ(矢印1)、

これを心拍動下に

オフポンプバイパスの要領でバイパスします。

矢印2は左内胸動脈です。

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41010.両室ペーシング(CRTと略します)のケーブルをつけています。

この患者さんでも有効でした。

心電図でQRS延長がないとCRTは効かないとお考えの先生も一部おられます。

実際にはエコーで左室各部の収縮タイミングを調べながら、QRS幅正常でも不同期の時間があればCRTを試みるようにしています。

 

 

41111.手術前は僧帽弁逆流が強く、

かつ弁が左室側に引かれていました

(テント化、矢印)。

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41212.手術後は逆流も消え、

弁のテント化も軽くなりました(矢印)

手術後6ヶ月の心機能も左室拡張末期径LVDdが81mmから62mmへ、駆出率も18%から36%へ改善しました。

術後5年経つ現在もお元気にしておられます。

米田正始の患者さんの会にもよく参加して下さいます。

◆余談 この患者さんの経過はスーパードクターのテレビで放映され話題になりました(メディアのページご参照)。

当時こんな重症の患者さんをテレビで発表してもし失敗したらどうするのとよく聞かれました。

しかしこの患者さんは絶対助ける、テレビカメラのあるなしは関係ないと信じて皆で頑張りました。

こうした治療法を多くの方々に知って頂くことが大切と考えたのです。

 

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事例 セーブ手術とバチスタ手術 (変法)の併用

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患者さんは54歳男性。10年前に心筋梗塞を発症し、以後虚血性心筋症・心不全の治療を内科にて受けていました。

その後心不全が進行し、ショック状態(つまり血圧が十分出ない状態です)となり IABP(大動脈内バルン)使用下に緊急搬送されました。極めて危険な状態でした。

冠動脈は前下降枝(#6)と回旋枝(#13)が完全閉塞していました。

左室の拡大(LVDd左室拡張末期径69mm)と機能低下(駆出率10%台)、虚血性僧帽弁閉鎖不全症 4度、TR 4度あり。

心室中隔は虚血性心筋症ですが、左室側壁病変は冠動脈走行と合致せず非虚血性変化の合併も考えられました。

 

311.体外循環・心拍動下に左室を調べました。

左室側壁が病変で薄くなり動かなくなっていたため、心尖部温存するバチスタ手術でまず左室側壁を切除・縮小しました。

心尖部(矢印)はきれいに温存されました。

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322.心室中隔の奥深いところから左室前壁までが昔の心筋梗塞でやられていたため、セーブ手術でパッチを用いて修復しています(矢印)。

パッチの奥(裏側)が新しい左室となります。

左室の形をゆがめないセーブ手術だからこそ、バチスタ手術との併用も問題なくできました。

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333.僧帽弁と左室基部を同時に形成するためにリングを僧帽弁輪に縫着(僧帽弁輪形成術MAP)します。

このケースでは柔軟なリングを使いました。

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344.冠動脈バイパスと三尖弁輪形成(TAP)を行って手術完成です。

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この方法をもっと低侵襲化(つまり患者さんの体への負担を軽くする)して、より多くの患者さんとくに全身状態の悪い方を救命すべく検討を続けています。

近々国内外の学会でも発表の予定です。

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355.術前の左室造影。

収縮末期像

(左室が血液を送り出し一番小さくなった瞬間の姿)

です。

左室は丸くなり、

僧帽弁閉鎖不全症MRのため左房が造影されています。

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366.バチスタ手術+セーブ手術、術後の左室造影、収縮末期像です。

左室は小さくかつかなり細長くなり、左室機能は改善しました。

僧帽弁も形・逆流量とも著明に改善しました。

術後5年以上経ってもお元気にしておられます。

強い心不全でも、左室形成術は有効なことが多々あり、あきらめてはいけないという見本のようなケースです。

 

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