9) 大動脈炎症候群の患者さんでは手術できるのですか?―組織が弱い!

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薬bn7-36bでも手術できます。

ただし縫った大動脈部分が通常より弱いことを 念頭においたアプローチが必要です。

補強をしたり通常より強度を高めた縫い方をします。

私たちは大動脈炎のときの大動脈には通常以上に強度を持たせるべく、テフロンフェルトを全周性にもちいて、2層の連続縫合を行い、必要に応じて外から補強を加えます。

少々のことでは縫合線が壊れないようにしています。

 

とくにステロイドのお薬を、中でも一日10mgを超えるほど多量に服用中の患者さんの場合は、組織の治りがゆっくりですので、それに対応できる手術をする必要がありますし、できればステロイドの量をうまく減らしてから手術するなどの工夫も有用です。

 

手術のあとも大動脈炎症候群その A316_010ものの進行を長期間抑えるよう、お薬でコントロールする必要があります。

プレドニンなどのステロイド剤では不十分なときには免疫抑制剤を使ってでも炎症を抑えます。もちろん落ち着き次第、これらのお薬は減量して行きます。

この点でも内科の先生方とのチームプレーを大切にします。

 

手術法につきまして、弁膜症とくに大動脈弁膜症を合併するときは 大動脈弁置換 大動脈基部置換(ベンタール手術など) を行います。

A313_003また弁形成がぜひ必要で、かつ弁尖が病変にやられていないケースでは大動脈弁形成・自己弁温存式基部再建、別名 reimplantation リインプランテーション(デービッド手術)を行うこともあります。

その際に、縫合線をしっかりと補強した縫い方や工夫をしています。

デービッド手術では通常の弁置換やベントール手術よりも、広い面で人工血管と大動脈壁が圧着されるため、強度では有利と考えます(手術事例:大動脈炎へのデービッド手術)。

また炎症がおこらない心膜な どを活用し、組織を補強することもあります。

(大動脈炎症候群 手術事例1)  

このことは大動脈炎症候群に冠動脈バイパス手術などを行うときも同様です。

つまり上行大動脈に直径1-2cmの穴を開けてそこへ自己心膜パッチを縫い付け、そこへバイパスグラフトを縫着するのです。

これによって大動脈炎はバイパスグラフトに悪い影響は与えなくなります。

末梢吻合つまり冠動脈との吻合は通常どおりで問題ありません。そこまで炎症が及んでいないからです。

 

さらに頸動脈その他の血管の病変があるときには、その状態に応じて内科と相談して治療方針を立てるようにしています。手術後の長期フォローでも同様にチーム医療を行っています。

 

メモ: 大動脈炎は日本はじめアジアで多い病気です。

日本地図b診断は大動脈造影で大動脈やその枝に拡張や狭窄があり、かつ炎症反応があればほぼ確定します。

また若い女性によく起こる傾向があり、治療に際してさまざまな注意が必要となります。

たとえば将来、妊娠出産できるような手術法を選ぶなどですね。

炎症はCRPや白血球、血沈などを指標とし、ステロイドをもちいて抑えます。

それで不十分あるいはステロイドが使えないときにはサイクロスポリン、サイクロフォスファマイド、メソトレキセートなどの免疫抑制剤をもちいます。

大動脈の枝が細くなっているときには抗血小板剤や血管拡張剤を使い、血流を改善します。

高血圧が合併するときには降圧剤を併用して血圧を正常化します。

弁膜症や心不全、高血圧やそこから合併する脳出血などを予防することが大切です。

 

(弁膜症の 大動脈弁のページ をご参照ください)

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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