最終更新日 2025年9月15日
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◆ デービッド手術とは?(自己弁温存・大動脈基部再建)
**デービッド手術(David手術/Reimplantation)**は、
大動脈基部拡張症で広がった根元(バルサルバ洞や弁輪)を人工血管で再建し、ご自身の大動脈弁(自己弁)を温存する根治手術です。
私の恩師・デービッド先生が開発されました。
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◆ 手術の流れとポイント(わかりやすく)
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拡張した大動脈基部を切除
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自己の大動脈弁(弁尖)を人工血管内へ“移植”するように固定(再植)
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左右の冠動脈の入口(ボタン)を人工血管へ縫合
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人工血管と上行大動脈を吻合して再建完了 (事例1を参照してください)
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◆ どんな人に向いている?(適応の目安)
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マルファン症候群など結合組織疾患(事例)、大動脈二尖弁(BAV)、慢性解離(事例)、炎症性大動脈疾患(大動脈炎など)(事例・大動脈炎にデービッド手術)で弁尖が保たれている方
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妊娠を希望する方、スポーツや仕事を続けたい若年~中年の方(抗凝固薬(ワーファリン)を避けられる可能性があるためQOL面で有利)
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手術タイミング(径の目安)
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多くの施設:50mm前後で検討(従来55mm→近年は早め推奨)
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結合組織疾患(マルファンなど):45mm程度から早期手術を検討
※個別の体格、増大速度、家族歴なども加味します。
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◆ デービッド手術のメリット(自己弁温存の価値)
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人工弁を使わない:
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機械弁のワーファリン生涯内服を回避
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生体弁の耐久性低下・再置換の懸念を回避
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心臓の自然な動きを守りやすく、長期安定が期待できる
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若年者のQOL(妊娠・出産、スポーツ、仕事)で利点が大きい
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◆ リスク・限界と、よくある疑問
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初回AVR(大動脈弁置換術)より手技が複雑:熟練チームでの実施が必要
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高圧系の再建で出血リスクがやや高い
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弁尖損傷が高度な場合は追加の弁形成が必要/人工弁置換へ切り替えの可能性も
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MICS(低侵襲):症例により小切開・部分胸骨切開の工夫が可能(完全MICSは適応を吟味)
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FAQ
Q. ベントール(ベンタール)手術との違いは?
A. ベンタールは基部+人工弁で置換、デービッドは基部再建+自己弁温存。弁尖が保たれるならデービッドで抗凝固回避が期待できます。
Q. 長持ちしますか?
A. 適切な症例選択と正確な幾何学再建で長期安定の報告が多数あります。早めの時期に受けるほど有利です。
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◆ 当院の工夫(安全性と自然さの両立)
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針孔出血の少ない人工血管+バルサルバ洞付きグラフトで流れを自然に
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弁輪・ST接合部の幾何学最適化(Brussels height・各種フォーミュラの活用)
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弁尖補強(自己心膜の最小限パッチ等)や併用弁形成で再発リスクを低減
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肝機能・出血管理まで含めた周術期プロトコル(無輸血希望にも個別対応)
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◆ ベストな時期に、ベストの術式を
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**自己弁が保たれている「今」**が、**将来の自由(QOL)**を左右します。
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待ちすぎて弁尖が壊れる前に――自己弁温存の選択肢を検討しましょう。
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画像所見・体格・併存疾患・生活設計(妊娠、競技、仕事)を踏まえ、ハートチームで最適解をご提案します。
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◆ まとめ
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デービッド手術は、自己弁温存で大動脈基部を再建する根治術
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抗凝固回避・自然な心機能・長期安定が期待でき、若年~中年でQOL向上に直結
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適応とタイミングが重要(結合組織疾患は早めの判断)
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熟練チームで安全性と耐久性を両立し、必要に応じて追加弁形成や小切開も併用
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「人工弁以外の道はない」と言われた方も、一度はご相談ください。
生活の目標(仕事・スポーツ・妊娠)に沿って、自己弁を守る治療を一緒に検討します。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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