⑥c デービッド手術(David手術)―さらに磨きをかけて高いQOL生活の質へ 【2022年最新版】

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大動脈基部が拡張すると大動脈弁閉鎖不全症が発生します。あるいは大動脈壁が破れたり裂けたりすることもあります。(AllAboutから)

最終更新日 2022年2月4日

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◾️デービッド手術とは

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大動脈基部拡張症に対し自己弁温存する根治術です。

大動脈基部拡張症はそのままにしておくと

薄くなった大動脈壁が破れたり解離(壁が内外に裂ける)して突然死の原因になったり、

大動脈弁が閉じなくなって大動脈弁閉鎖不全症が発生するため

手術が必要になります。

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大動脈弁尖(ひらひらと開閉する部分)が比較的壊れていないときに

自己弁(弁尖)を温存するタイプの大動脈基部再建手術を行います。

デービッド手術はその代表的なものです。

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David

◾️デービッド手術、開発の経緯

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このデ ービッド手術は私の恩師デービッド先生(Tirone E. David、右)が1980年代の終わりごろに開発したもので、

当時Davidチームで修業中だったおかげでその開発に参加できたことは幸運でした。

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David & Bentall もとは上行大動脈を人工血管で置換する上行大動脈置換術や、

大動脈基部を全部とりかえるベントール(ベンタール)手術

あるいは人間の大動脈弁をつかうホモグラフト手術や

それをヒントに開発したステントレス弁(ホモグラフトと同じ構造をもった生体弁)および

ロス手術(肺動脈弁を根こそぎ外してこれを大動脈基部に植え込みます)での経験やデータをもとにして、

患者さん自身の大動脈弁を温存する大動脈基部再建手術を開発しようということになりました。

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すでに30年も前のお話ですが、

今なお、日本の学会でこの手術が話題になることが多いことから、

当時のデービッド先生やトロントチームの先見性が窺えます。

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◾️デービッド手術の手技

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デービッド手術では大動脈弁の弁尖を残して周囲の大動脈やそのふくらみ部分である David-op バルサルバ洞を切除し、これを人工血管の中に入れ込みます。

そのうえで左右の冠動脈入口部をボタン状に切りぬいたものを人工血管に縫い付け、
最後にこの人工血管と上行大動脈の遠位部をつないで完成します。

(事例1を参照してください)

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この人工血管のサイズ選択や弁を縫い付ける位置決めが大動脈弁の正常機能を確保するために大切です。

デービッド手術の開発当初は弁尖の平均の長さが直径となるように人工血管を決めていました。

これできれいにできあがるのですが、バルサルバ洞と同じふくらみを持たせた方が弁尖が人工血管にあたらず、かつ血流が自然で弁尖も長持ちしやすいだろうという推論から、

次第に太い人工血管をもちい、

この先端つまり弁のすぐ上の部分をすぼめるようになって行きました。

現在はこのバルサルバ洞をもった人工血管が市販され、

これを用いる施設が増えました。

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◾️デービッド手術、開発当時の試行錯誤

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トロントではかつてこのバルサルバ洞を造る試みとして、

大動脈弁輪をテープ状のもので固定・保護したうえでバルサルバ洞までを先割れの人工血管で置き換えるヤコブ手術(Yacoub手術)を行った時期がありますが、

大動脈の基部を守りきれず、

長期の安定性では劣るため上記のデービッド手術に戻したという経緯があります。

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◾️デービッド手術、その後の工夫と進歩

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私たちはこれらの経過と経験にもとづき、現在は針穴出血が少ないタイプの人工血管それも太い目のものを用いて、

大動脈弁尖を固定したあとでバルサルバ洞を造り、

少ない出血と自然な血流そして良好な長期耐久性が出せるように工夫しています。

出血も少なく、できあがりが自然であることから、

期待できるものと考えています(参考記事はこちら)。

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デービッド手術はいったんきれいに仕上がれば長年安定することが知られています。(事例2

とくに術前にあまり弁尖が壊れていないケースほど長持ちします。

そこで大動脈基部拡張症の患者さんではあまり大動脈弁が壊れるまでがまんせず、

早目のタイミングでデービット手術を受けることで

長年ワーファリンや弁膜症のない生活を享受しやすくなります。

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このため若い患者さんとくにスポーツを楽しみたい方や今後妊娠出産を希望される女性患者さんなどにもっとも適したものです。

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◾️結合組織疾患の患者さん等にも福音

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大動脈基部が拡張することで瘤となり破裂の恐れがでたり、大動脈弁閉鎖不全症が発生する疾患で、デービッド手術はお役に立ちます。

たとえばマルファン症候群の患者さん(事例)や、大動脈二尖弁、慢性大動脈解離(事例)、などが適応となります。弁尖がきれいな場合の大動脈炎(大動脈炎症候群)なども考慮の対象になります(事例・大動脈炎にデービッド手術)。

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手術はこうした手術手技に熟練したチームで行うことが望ましいですが、

熟練チームでも単なる大動脈弁置換手術よりは若干リスクが高いため、

大動脈基部の破裂や解離のリスクあるいは弁尖が壊れるリスクが手術リスクを上回る時点で手術をということになります。

患者さんと医師の間での十分な相談と検討が大切です。

このことはデービッド手術にかかわらず、すべての心臓手術で言えることですが。

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さらに弁尖がある程度壊れた患者さんでも、

その弁尖を何通りかの方法で修復あるいは補強することでより安定性を増す工夫を行っています。

ここで大動脈弁形成術の経験蓄積が役立ちます。

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大動脈基部の直径が60mmを超えると破裂する率が急に高まるため55mmでオペする施設が多いのですが、

近年は50mmのほうが安全とする考えが増えています。

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マルファン症候群などの結合組織疾患がある患者さんではそれよりも早期に手術して安全を確保する方向にあります。

デービッド手術は針孔が多いことと高圧の部位での手術であるため僧帽弁手術などと比較するとやや出血しやすい傾向はあります。エホバの証人の信者さんなど、無輸血が絶対条件の方には特別な対応をして安全を確保するようにしています。→→もっと見る

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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