⑥a ベントール手術―安全で確実な基本手術で難手術のセーフティネットにも【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月25日

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◆ベントール手術とは?

**ベントール手術(Bentall手術/ベンタール手術)**は、大動脈基部拡張症に対して行う大動脈基部置換術の標準手術です。

大動脈基部拡張症は、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈炎症候群などに合併しやすく、放置すると大動脈瘤破裂や重症の大動脈弁閉鎖不全症を引き起こす危険性があります。

ベントール手術は、このようなリスクを根治的に取り除くために行われます。

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◆ベントール手術で行う3つの操作

ベントール手術の3操作


  1. 大動脈弁置換術:人工弁を用いて大動脈弁を置換

  2. 上行大動脈置換術:人工血管で置き換える(人工弁と一体型の人工血管を使用)

  3. 冠動脈の再建:左右冠動脈の入口部を人工血管に縫い付ける

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つまり、大動脈基部にある構造をすべて人工物に置き換える包括的な手術(大動脈基部再建手術)です。
これにより、大動脈弁逆流・上行大動脈瘤・バルサルバ洞拡張を一度に解決できます。

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IMG_0723◆成績と位置づけ

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ベントール手術は、心臓血管外科の中でも「大手術」とされてきました。
操作が多く、いずれも不完全だと重大な合併症につながるため、高度な技術が要求されます。

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しかし、確実に完遂すれば長期予後は非常に良好です。
特に機械弁を用いた場合、10年間の再手術率はきわめて低いことが知られています。

現在では、バルサルバ洞を再現できる人工血管の開発により、さらに自然な構造と良好な成績が期待されています。

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アメリカ・ジョンズホプキンス大学をはじめ、心臓外科の修練プログラムではかつて「ベントール手術を確実に行えること」が一人前の外科医の証とされるほど、代表的な手術です。

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◆人工弁の種類と選択

  • 機械弁:耐久性が高く、若年者に多く選ばれる。ただしワーファリン内服が必要。

  • 生体弁:60〜65歳以上で多用される。近年は若年者でも自然な生活を求めて選択する人が増加。将来的にカテーテル治療(TAVI)で再治療が可能な見込み。

  • 自己弁温存(David手術(右図)・Yacoub手術):大動脈弁がまだしっかりしている場合に可能。ワルファリン不要で長期耐久性も期待でき、特に若年患者さんに有利。IMG_0719

ただし、自己弁の強度が不十分な場合は、より安全で確実なベントール手術が適切とされます。その意味で、ベントール手術は難症例のセーフティネットとしても重要です。

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◆合併症対策と改良点

かつては出血や冠動脈吻合部の瘤形成などが問題でしたが、現在は以下の工夫により大幅に改善しています。

  • 完全止血と瘤再発防止の徹底

  • 冠動脈の入口部を「弱い大動脈壁に頼らない方法」で移植

  • 冠動脈のねじれや狭窄を防ぐ位置決めの工夫

  • 将来の再手術やTAVIに備えた安全な再アクセス設計

私たちのチームでは、生体弁を人工血管に組み込む工夫を行い、将来の再手術をより安全に行える設計を導入しています。

またMICSの良さ(創が見えにくいことと痛みが少ないこと)のうち痛みが少なく、早く仕事復帰、運転復帰ができる方法(もうひとつのMICS)を使っています。

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◆Q&A:よくある質問

弁の状態に加えて患者さんの年齢やライフスタイルその他を考慮し、相談して手術法を決めるのが安全安心です

Q1. マルファン症候群の大動脈基部拡張では必ずベントール手術が必要ですか?
→ 大動脈弁が壊れている場合はベントール手術が根治法です。
弁が保たれていれば、デービッド手術など自己弁温存術が可能な場合があります。

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Q2. ベントール手術は危険ですか?
→ 昔と比べて合併症は大幅に減少しています。止血技術や冠動脈再建の工夫により、安全性は大きく向上しました。

◆まとめ

  • ベントール手術は大動脈基部置換の基本かつ標準的な手術です。

  • 確実に行えば長期予後は良好で、心不全や大動脈破裂のリスクを根治的に解決できます。

  • 自己弁温存術(David手術等)とともに、大動脈基部再建の両輪をなしています。

  • 患者さん一人ひとりの年齢・生活スタイル・大動脈弁の状態に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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