手術事例:複雑弁形成術を要した腱索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症

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僧帽弁閉鎖不全症のなかでも腱索断裂によるものは弁の逆流が急に発生するため、強い心不全に陥りがちです。

内科での治療では対処できないときには心臓外科で緊急手術をすることがちょくちょくあります。

下記の患者さんは56歳男性で、来院3日前から動悸がひどくなり、息切れも強くさらに血痰まで出たため救急外来へ来られました。

検査の結果、腱索断裂による強い僧帽弁閉鎖不全症という診断で、手術となりました。

胸骨正中切開、心膜切開で心臓に到達しました。

体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

僧帽弁は後尖P3(後交連に近い部分)が腱索断裂のため強く逸脱し、慢性MRのためか肥厚・瘤化していました。

さらに前尖A1(前交連に近い部分)に新しい腱索断裂がみられ、逸脱していました。

加えてAC(前交連部の小さい弁葉)が数本の細い腱索の断裂のため逸脱していました。

所見からはP3の腱索断裂が以前に起こり、慢性の中等度のMRがあり、そこへつい最近、A1とACの腱索断裂が加わりSevere MRとなって急性心不全になったものと推察いたしました。

そこでまず上記P3の腱索断裂部・瘤部を三角切除し、P3の残りの部分とPCを連結することで再建しました。

さらにA1の腱索断裂部に前乳頭筋につけたゴアテックス糸4本を人工腱索として縫着しA1が逸脱しないようにしました。
逆流試験にて概ね良好な弁のかみ合わせを確認したためサドルリング30mmにて僧帽弁輪形成術を施行しました。
ここで再度逆流試験をしますと修復部は良好な状態ながら、前交連部で小さな逆流があり、ACの逸脱が残ったためと判断し、A1とP1の一部を連結しかみ合わせの改善を図りました。逆流が軽減したため左房を閉じて大動脈遮断を解除しました。

心拍動下に経食エコーにて弁を調べますと、前交連部にまだ軽度―中等度のMRがあるため、上行大動脈を再度遮断し左房を開けました。

ACの逸脱は弁が薄く弱いため修復が難しいと判断、前交連部のみA1-P1を閉鎖する形で前交連部のMRを消すようにしました。逆流試験でも問題ありませんでした。僧帽弁形成術、完成です。

左房を閉じて大動脈遮断を解除し、体外循環を容易に離脱しました。血行動態は良好でした。

経食エコーにて前交連部にごくわずかなMrがある他は心機能・弁機能とも問題なしでした。

術後経過は順調で、血行動態良好で出血も少なく、術翌朝抜管し、一般病棟へ戻られました。

その後も経過は良く、術後9日目に元気に退院されました。

術後2年半ほどのころに、睾丸腫瘍がみつかり、その手術を受けられましたが、心臓は安定しており、腫瘍も良性でスムースに経過しました。

術後3年以上が経ちますが、定期健診に外来へ来られます。僧帽弁閉鎖不全症もほとんどゼロで不整脈もなく、お元気に暮らしておられます。

また外来で元気なお顔を拝見するのを楽しみにしています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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