①b とくに僧帽弁閉鎖不全症について―治せる病気です

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◾️僧帽弁閉鎖不全症とは?

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僧帽弁越しに血液が逆流する病気で、弁が何らかの理由でうまく閉じなくなるた僧帽弁閉鎖不全症のさまざまなタイプを示します。このタイプによって治し方が異なりますめに起こります。右図をご参照ください。

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◾️弁のパーツ(部品)から考えますと、、、

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1.弁尖(弁そのもの)、あるいは

2.弁輪(弁尖の付け根)、

3.腱索(弁尖を支える糸のような組織)、

4.乳頭筋(腱索と左室をつなぐ筋肉、それ自体心臓のパワーアップのカギを握ります)

のいずれもが関与します。

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◾️病気の原因から考えると、、、

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1.加齢性つまり年齢が上がるにしたがって弁組織が弱るタイプ、

2.結合組織の疾患(マルファン症候群など)や

3.炎症性疾患(ベーチェット病その他)にもとづくもの、

4.リウマチ性、

5.感染性心内膜炎(略称IE)、

6.機能性つまり左室そのものがやられるタイプ(心筋梗塞や拡張型心筋症などのため)、

7.その他、

などがあります。


要するに弁のどこかの部分がうまくかみ合わなくなるわけですね。

重症になれば弁のあちこちに不具合が生じることもあります。

僧帽弁閉鎖不全症ではリウマチ性などを別とすれば一般に、弁そのものはガチガチに硬くなったり、極端に分厚くなったりしないため、

かみ合わせさえ治してあげれば逆流は止まり、病気も治ります。

つまり僧帽弁形成術が成り立つ病気です。

 

この点、弁が硬くなったり肥厚・短縮・石灰化しやすく、弁形成術がやりにくい僧帽弁狭窄症とは治療の上からは違いがあります。

(もっとも私たちはこの病気にさえ最近は積極的に弁形成に取り組んでいますが、これはまだ一般的ではありません。)

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◾️僧帽弁閉鎖不全症が悪化すると、、、

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僧帽弁閉鎖不全症は、その逆流がある限度を超えると、心臓とくに左心室や左心房に大きな負担となります。

というのは逆流血液を左心房が受け止めねばならず、その血液はすぐに左室へ戻ってくるため、逆流した血液量だけ左房にも左室にも負担になるからです。

その結果、僧帽弁閉鎖不全症では心室も心房も拡張するため、弁輪(弁の付け根)も広がり、弁がいっそうかみ合わなくなります。つまり逆流が増え、悪循環に陥るわけです。

「逆流が逆流を呼ぶ」ということわざは、僧帽弁閉鎖不全症の特徴を示すものです。

 

しかも左心房が大きくなってしまうとその壁がこわれて心内の電気信号が正しく流れなくなります。

そのため、心房細動などの不整脈も発生しやすくなり、血栓ができて脳梗塞などになりやすく、心臓手術しない場合に数年以内に死亡する率が上がります。

また左房がぷるぷると震えて有効に左室を補助できなくなるため、心不全の度合いがいっそう強くなってしまいます。

まさに悪循環が重なっていくのです。

 

◾️怖い例は、、、


たとえば今、静かにしているとそれほど苦しくないという程度の症状の方でも、強い僧帽弁閉鎖不全症がそのままだと、やがて脳梗塞や肺炎になったり心不全から別の病気を合併すれば変わり果てた状態となる心配があります。

 

Ilm09_ad10002-s たとえば2012年7月、三笠宮さまが僧帽弁閉鎖不全症のため心不全が悪化し、お薬や点滴などでどうにもならなくなられました。

96歳というご高齢ではありましたが、心臓手術(僧帽弁形成術)を受けて元気に回復されたことは記憶に新しいところです。

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◾️ガイドライン

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そこで体にはっきりと負担がでるほどの僧帽弁閉鎖不全症になると国内外のガイドラインでも手術が勧められているわけです。

面白いのは、権威あるアメリカのガイドラインでは「弁形成ができる病院ならやや早めの無症状のタイミングでも手術が勧められる」と最近明記されたことです。

 

弁形成ができない病院ではもっと待ちなさいともいえる内容で、ガイドラインで初めて病院での治療の質的な面に言及したわけです。

まもなく日本のガイドライン(日本循環器学会という日本の心臓トップの学会)でも同様の措置が取られました。

それほど弁形成手術は単純なワンパターン手術ではなく、豊富な経験が求められるとも言えましょう。

つまり僧帽弁閉鎖不全症は近くの病院より実績や信頼のある病院での治療が勧められる病気であるわけです。

弁形成術がきれいに仕上がれば、10年後の安定性や予後も良好です。今後、20年30年のデータも増えて行き、僧帽弁形成術への信頼度は増していくでしょう。

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メモ1: 僧帽弁閉鎖不全症では腱索伸展や弁輪拡張など徐々に逆流が増える場合と、腱索断裂など急速に逆流が増える場合があります。

徐々に逆流が増える場合は、患者さんにとって対応や順応する時間が得られるため、かなり高度の逆流になって左心室のちからが相当低下してもあまり症状がでないことがあります。

また患者さんの生活の知恵で、息切れがするとうまく休憩を入れて、ご自身では「症状がほとんどない」と錯覚されることがあります。

それでも左室機能がまだ保たれていればよいのですが、それがひどく低下したケースでは、せっかく手術しても左室機能が完全にはもどらないことがあるのです。

そうした不幸なケースを予防するためにもガイドラインはあるのです。臨床の実力がないひとほどこれを否定するきらいがありますが、それこそ己を知るべきなのです。多くの専門家が集まって衆知を結集して創られたガイドラインを活かしたいものです。

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メモ2: 僧帽弁閉鎖不全症の手術ガイドラインについて

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メモ3: 患者さんの想い出1: 僧帽弁閉鎖不全症が重症になれば現代の世の中では病院へ来て診察を受け、診断がつけば心臓手術になるのがふつうです。

今なお複雑な弁形成はダメといって僧帽弁置換術を中心に行う病院は多数ありますが、先進的病院では複雑な形成でもしっかりやるところも散見されます。

そうし A307_111た中で、ある30代の男性が来院されました。心臓は心移植の患者さんに準じるほど大きく弱くなっており、僧帽弁閉鎖不全症は高度でした。聞けば、長年にわたり手術が怖いため病院を避けていたとのことで、弁の逆流をずっと放置したらこうなる!と言えるような、心不全教科書のような状態でした。左室の駆出率は20%台と健康なひとの3分の1近くまで低下していました。仕事にも支障がでてひきこもり状態でした。

要するにもう手遅れ状態の僧帽弁閉鎖不全症だったわけです。よくぞここまで我慢したねというわけです。しかしすんだことを論じてもだめで、やはり前向きの議論をして、この患者さんが元気さを取り返せるようにしようと思いました。

単に弁形成してもなかなか治りにくく、かといって弁置換では予後が心配なので、私たちが開発した乳頭筋最適化手術(PHO手術)を行いました。これによって弁だけでなく左室もあるていどは改善するのです。

結果は上々で、患者さんの回復は意外なほど良く、心臓はすでにかなり小さくなり、そのパワーはまだまだですが、回復の兆しが見られます。

手術前はいわゆる「手遅れ」の僧帽弁閉鎖不全症でしたが、なんとか間に合わせた、これから新しい人生を頑張りましょうというところまで回復できました。

手術だけでなく、その後のお薬や運動治療を併用して、心臓がもとのパワーを取り返せるよう、患者さんともども頑張っています。お役に立てて本当にうれしいことでした。

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◆メモ4: 患者さんの想い出2:

Bさんは50代男性、有名国立大学の文化系の教授でした。

Ilm01_ab05023-s前から僧帽弁閉鎖不全症と言われていたそうですが、有名人でお忙しく、また勉強熱心で弁や心臓手術のこともある程度知っておられたため、いっそう決心がつかなかったようです。とくに人工弁つまり弁置換術になることを恐れておられたようです。以前の担当医に弁形成は難しいのでは、と言われていたからです。

次第に心不全が悪化し、私の外来に来られたときにはBさんの僧帽弁はすごい状態になっておられました。

つまり、弁を支える糸が切れた部位だけでなく、そこら中が変化し壊れていました。いわゆるバーロー症候群に近い形ですが、以前のエコーではそれほどの変化がなかったことから、二次的に変化したものと考えられます。

ともあれ、僧帽弁形成術を完遂することはBさんの切なる願いでしたので、私も力を入れて前尖も後尖も数か所修復しました。前尖の三角切除、後尖の四角切除、ゴアテックス人工腱索その他を駆使して弁はきれいに作動するようになりました。

Bさんは笑顔で退院して行かれました。このようによく勉強してから来院される患者さんのご期待に沿えるというのはいっそうの喜びです。Bさん、健康でますますご活躍ください。

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◆患者さんの想い出3:

Cさんは89歳の男性です。僧帽弁閉鎖不全症のため心不全が強くICUに入っておられましたが、肺も悪く、年齢体力も弱いため手術にはかなりのリスクがありました。

短時間で僧帽弁閉鎖不全症を治すことが必要で、そのためには僧帽弁置換術を決め打ちで行うことを考えていました。しかし同時に、それよりも短時間でかつ確実に僧帽弁形成術ができるならそうしようと心に決めていました。

僧帽弁は後尖のP2と呼ばれる部分の逸脱が広範囲のため、弁置換だろうというのがおよその予測でした。

術中にこれなら行けると判断し弁形成術で決めました。時間の余裕が生じたためメイズ手術もポイントをおさえて10分あまりで完遂しました。術前に心房細動でたいへん困っていたのを知っていたからです。

術後経過は予想より順調で、まもなくお元気に退院して行かれました。退院のとき、笑顔で何度もお礼を述べていただき、このうえなく嬉しく思ったものです。

Cさん、ご高齢でもまだまだ人生は続きます。これからお元気に楽しく過ごして下さい。

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