ステントレス僧帽弁 臨床研究会

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この7月28日に第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会が東京でありました。

当番世話人かつこの弁の生みの親である加瀬川均先生のお招きで私も参加・発表等させていただきました。

ステントレス弁とは通常の生体弁とはちがい、弁がケージの中に入っていない、自然な形の弁です。まして自己心膜で造る弁ですから、性能だけでなく耐久性も期待できます。弁形成に力を入れて来た心臓外科医なら誰でも心躍る弁です。

実はこの歴史は永く、1990年代にさかのぼり、当時北米で修業していた私も関心があってその基礎研究や検討をやったことがあります。

ちょうど大動脈弁のステントレス弁が実用化したころで、当然の流れとして僧帽弁にも注目が集まったわけです。

第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会トロントでデービッド先生と僧帽弁のホモグラフトを検討していたこともあり、ステントレス弁と構造がよく似ているため気運の高まりがありました。

しかし当時、期待を集めたステントレス僧帽弁とくにクアトロ弁はまもなく音もなく消えて行きました。

その経緯も不明で、ただ消滅したため、何か問題があったものと考えていました。

そうした経験の中で、今回、加瀬川先生が10年間の基礎研究ののち満を持して新しいステントレス僧帽弁を臨床応用されたことを、夢よもう一度、という気持ちでお聞きしたものです。加瀬川先生が開発された弁はNormo弁と呼ばれ、正常僧帽弁に近づけようという願いが込められた名称でした。

第一回研究会ですので基調講演として加瀬川先生がコンセプトを話されました。

ついで日本発のイノベーションをどう展開するかというテーマでシンポジウムが組まれました。

こうした新たなデバイスの開発に詳しい早稲田大学の梅津光生先生、大阪大学の澤芳樹先生、東京女子医大の山崎健二先生、さらには厚労省や内閣官房医療イノベーション推進室の方々まで参加されました。

それからこの弁の生みの親のひとりでもある梅津先生のランチョン講演と動物実験報告、そして臨床実施例報告がなされました。

残念ながら私は他の学会のためこの部分までは参加できませんでしたが、活発な議論であったようです。

それからシンポジウムII「僧帽弁形成術に限界はあるか」が持たれ、神戸中央市民病院の岡田行功先生と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

東京慈恵医大の橋本先生、長崎大学の江石先生、岡田先生らが僧帽弁形成術の難症例を披露されました。

たとえば広範囲の活動性細菌性心内膜炎(IE)やバーロー症候群の高度なもの、あるいはECDなどの先天性がらみのケースや再手術例、さらにリウマチ性僧帽弁膜症などですね。

いずれも弁形成は可能ですが、その限界に近いこともあり得るケースで、こうしたときにNormo弁は役立つかも知れないと思われました。

そして僧帽弁形成術の大御所であるPatric Perier先生が僧帽弁の各パーツのどの部分がどこまで治せるかを講演されました。大変有用なお話しでした。限界を知ること、また努力して限界点を上げること、いずれも大切と思いました。

シンポジウムIIIでは”Normo弁の良い適応について考える”というテーマで、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、不肖・米田正始、京都府立医大の夜久均先生、東京大学の小野稔先生、そして私の共同研究者でもある川崎医大の尾長谷喜久子先生が症例や最新のデータを発表されました。座長は慶応大学の四津良平先生と産業医大の尾辻豊先生でした。

ここでも感染性心内膜炎(IE)やリウマチ性弁膜症、先天性心疾患とくにECDその他が論じられました。

尾長谷先生はステントレス僧帽弁にも対応できるだけの情報を提供するtransgastric TEEつまり胃から見る経食エコーとそれによる乳頭筋の詳細な形態情報を示されました。新たな領域を開拓するのは本当にやりがいがあると感じました。

私もリウマチ性MSRつまり僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症という形成しづらいケースやECDの再手術例でこれまた弁の変形が強く形成が難しいケースを供覧し、有益なご意見を頂きました。

壊れた僧帽弁の弁膜症を事故で壊れたクルマにたとえて、ガタガタに壊れたクルマをどこまで修理(つまり弁形成)するか、どこで新車に代える(つまり弁置換)かという視点で、患者さんに一番益するポイントを探ろうとしました。壊れたクルマの写真はウケました。ウケて下さった皆さんに感謝申し上げます。

さらに他の病院で高度の感染性心内膜炎への手術を受け、逆流が止まらず、次第に悪化して私のところへ来られた若い患者さんのケースをお示ししました。こうした超難易度の患者さんに新しいステントレス僧帽弁・Normo弁は役立つかもという期待が集まりました。

しかしまだ研究・検討は始まったばかりです。この弁がどれくらいの耐久性があるか、それが大切です。時間もかかりますし、合併症なく患者さんに真に益する弁に育てるためには大方の協力と努力が必要です。

川副浩平先生のビデオメッセージでも科学的な視点やきちんとした検証、教育、quality control体制が必要であることを述べておられました。

どちらかと言えば、この10年来、停滞あるいは退潮気味に見える心臓外科領域で、また新たな発展の場が生まれたと言っても過言ではないかも知れません。皆で力を合わせて優れた新治療に育て上げたいものです。

そうした熱気のもとで研究会は無事終了しました。加瀬川先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

平成24年7月28日

米田正始

 

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Comments

  1. キチンハート says

    いつも,わかりやすい解説をありがとうございます。私は数年前に僧帽弁形成術を受け,お陰様で現在は全く普通の生活をさせていただいている者です。
    NORMO弁についてお聞きしたいのですが,加瀬川先生はご自身のHP↓
    http://homepage3.nifty.com/hanzoumon-clinic/ope/new-ope01.htm
    で,この弁の開発の動機として,普通の僧帽弁置換で生じる左室の構造変化というマイナス点を改善することを挙げられております。素人なりに「左室の構造変化」とは,乳頭筋が腱索で釣られなくなることによって,左室の構造が変わってしまうのかなと想像しました。しかし,仮にこの解釈が正しいとすれば,NORMO弁は腱索を残すのかなとも思うのですが,そんなことは不可能なような気もして,混乱しています。実際の所はどうなのでしょうか。
    また,このNORMO弁が従来の生体弁に比べて優れているところというのは,上の「左室の構造変化」に対応するという一点なのでしょうか。耐久性に関しては,自己心膜を用いた大動脈弁形成に関するこちら↓
    http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/cvs/treatment/aortic_valvular/durability.html
    を見る限りは,牛の生体弁を大きく超えることは期待しにくいように思えるのですがいかがお考えでしょうか。
    お忙しいところ恐れ入りますが,暇なときにでもご回答いただければ幸いです。