関西胸部外科学会にて

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第58回学術集会が岡山で開催され、出席して参りました。

 

会長は岡山大学呼吸器外科の三好新一郎IMG_1566教授でした。メインテーマは温故創新、三好先生らしい素晴らしいテーマと感心しました。温故知新から発展した考え方と思いますが、登録商標?のため5万円を権利者に支払われたという噂は本当でしょうか。それだけの価値はあったと個人的には思います。

 

岡山は榊原病院の吉田清先生のご縁があってこれまで何度もお邪魔しているせいか、何か楽しい地という印象が強く今回も楽しみにしていました。個人的にはシンポジウムでの発表が2つあり、さらに若手の受賞かけての発表も2つあったため、真面目に参加しました。

 

全体として若い先生方の教育やモチベーション向上のため配慮が十分された会だったと思います。学生諸君も多数参加しておられたようです。

 

3Kとも6Kとも言われる心臓外科、胸部外科にこころある若者が来てくださるよう、そのやりがい、楽しさを十分にアピールすることは大切です。ちょっと大げさに言えば、この国の将来がかかっているとさえ思えます。

 

さて一日目には朝からYoung Investigator Awardsのセッションが続き、若くて熱い議論が交わされていました。

それから心臓・大血管のビデオセッションに参加しました。神戸大学の肺肉腫に対する腫瘍摘出術+右肺全摘術はこれまでの心臓手術と集学治療を集めた優れたものと感心しました。ベントール手術がらみの興味深い症例が北野病院や徳島日赤病院から発表されていました。兵庫医大のベントール手術後の大動脈弁置換AVRは私にとっては25年も昔のトロント時代から行っているHome-madeグラフトなのでうれしく思いました。京都府立医大のELITE法による左室形成術と乳頭筋吊り上げの僧帽弁形成術も同様でした。

cTAGをもちいたステントグラフト、手術の際にそれを使うオープンステント、Jグラフトのオープンステントも興味深い内容でした。

 

ランチョンセミナーでは大阪大学の倉谷徹先生の大動脈解離にはcTAGでっか?という大阪人らしい実質本位の素晴らしい講演がありました。これからステントグラフトはさらに進化する、上行大動脈さえ外科手術から離れるかも、しかし急性解離のエントリー閉鎖パッチや、慢性解離でのTEVARなど、限界もまた見えて来た、おそらくその限界を超えて見せようという気概も感じられたハイレベルのご講演でした。

 

三好会長の立派な会長講演につづいて、ドイツのシェーファー先生の講演がありました。
大動脈弁形成術ではいまや世界の最高峰と言われるシェーファー先生の緻密なジオメトリー研究とより良い弁形成の結果を拝聴し大変参考になりました。ちかぢかブリュッセルで同先生と双璧をなすクーリー先生らとの共同シンポジウムがあり、私も楽しみにしてますよとお伝えしたところ、待ってるぜ!とのことでした。

 

大動脈弁形成術はまだ進化の途中にありますが、かなり完成度が上がったと思います。これからより多くの患者さんたちのお役に立つと期待しています。

 

それから大動脈弁形成・大動脈基部再建のシンポジウムがありました。畏友神戸大学の大北裕先生と同・倉敷中央病院の小宮達彦先生の司会で行われました。

 

まず東邦大学の尾崎重之先生が尾崎弁の最近の展開を報告されました。完成度がさらに上がった感があります。

有力施設からの大動脈基部再建や大動脈解離とARなどのご発表に交じって、私はMICSと弁形成とバルブインバルブTAVIの観点からお話させて戴きました。こうした視点の発表は他になかったためか、一部のMICS専門家の議論になったように思います。これからさらに完成度を高めつつ、多くの病院で役立てて戴けるよう、啓蒙活動が必要なようです。

 

医療安全講習会では疲労と事故についての貴重なお話を名古屋大学の相馬孝博先生から戴きました。これまで疲労なんてへっちゃらさと思って来ましたが、やはり人間が起こすミスを科学的に減らすという観点から一段高いところから自分自身を監視するマインドフルな姿勢、疲労対策は大切と思い、勉強になりました。

自分だけでなく皆で楽しくストレス発散、なども大切なようです。

 

夜は全員参加の懇親会がありましたが、若い先生方や学生さんたちも参加されており、良い雰囲気でした。

 

学会2日目は朝から若手アワードつまり受賞のための発表コンテストに参加しました。当院の小澤達也先生が、興味深い症例2例を発表してくれました。小澤先生が発表してくれたのは次の2例でした。

 

1つは世界的にも珍しい神経鞘腫というタイプの心臓腫瘍でした。手術前は粘液腫と思われていましたが、その位置が普通と違い、大動脈基部に近いため、場合によっては大動脈弁や僧帽弁形成術を含めた大手術の可能性もあったため正中からアプローチしました。完全切除でき患者さんはお元気に退院されました。傷跡も小さく、夏服が着られるとよろこんで頂きました。

 

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受賞風景です。小澤君はこの日の夜当直のためすでに会場を去っていましたので彼の姿はこの写真にはありませんが。

もうひとつは、他の病院で2回弁置換手術を受けられた患者さんで、左室後壁が生体弁の先端のためにえぐれて瘤になり、このままでは破裂→突然死の恐れがあった患者さんでした。もとの弁を外して瘤になった左室後壁をがっちり修復補強し新たな人工弁を入れて治しました。患者さんは元気に退院されました。
あとで後者の症例提示が受賞したことを知り、小澤先生には大変良い経験をしていただけたこと、うれしく思いました。

 

立ち上げて軌道に乗って間もないかんさいハートセンターを去ることになった私ですが、最後にまたひとつ想い出が残せてうれしく思いました。

 

先天性心疾患の教育講演に少し顔を出し、国立循環器病研究センターの市川肇先生の右室流出路再建のさまざまな方法の講演を拝聴しました。頭の中がすっきり整理されたように思います。余談ながらあのラステリ手術のラステリ先生は37歳の若さで逝ってしまわれ、それを惜しんだメイヨクリニックの仲間たちがラステリの名前を残そうと努力して、ジャンプグラフトを何でもラステリ手術と呼ぶほどになったというエピソードをお聞きし、心に響くものがありました。

 

梯子してTEVARのシンポジウムを聴きました。天理病院の山中一朗先生のオープンステントの努力に頭が下がりました。

 

ランチョンでは滋賀医大の浅井徹先生の司会のもと、大動脈弁形成術の講演が2つありました。ひとつは心臓血管研究所の國原孝先生、いま一つは昨日に引き続きてシェーファー先生の大動脈弁形成術のお話の続編でした。

國原先生は日本での多施設研究を立ち上げつつあり、弁のジオメトリーや病態から始まって臨床結果さらに血行動態の詳細までを検討し始めておられ、その成果が楽しみです。

 

シェーファー先生は大動脈弁とそれを支える基部の形態を詳細に論じられ、大動脈弁形成で安定した成績を上げるために何が必要かを詳しく論じられました。同先生が創られたeffective Height測定ゲージの正しい使い方と誤った使い方なども、当然とはいえ、有用なお話でした。

 

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Chang先生の講演風景です

午後には韓国の畏友、Byung Chul Chang先生の不整脈外科の歴史と新たな努力についてのご講演がありました。思えば永い道のりを進んで来たものだと感慨深いものがありました。私にとってはまだトロント留学中の1991年ごろにアメリカの学会でJames Cox先生のお話に感銘を受け、それから徐々に進めて来た不整脈外科でしたが、そのころのデータなども拝見し私の心は若い日々にもどっていました。Yonsei大學での新たな試みなども紹介され、勉強になりました。

 

それを受けて、不整脈外科のシンポジウムがありました。

日本医大の新田隆先生はこの領域の新リーダーにふさわしい基調講演をされました。メイズ手術の際の肺静脈隔離のときにBox LesionとU Setのどちらが良いか、多角的に検討されました。これまで多数の立派な研究が一見矛盾するような結論になっていた理由がある程度理解できました。

ともあれ肺静脈隔離や冠静脈洞などのアブレーションを完璧に行うことの重要性は間違いないようです。

 

国立循環器病研究センターの草野研吾先生は循環器内科の不整脈治療とくにカテーテルアブレーションの最近の進歩と成果をきれいにまとめられました。正確な治療のための3Dマッピング、より安全に深達度を増やせるイリゲーションカテーテル、冷凍凝固バルン、その他新デバイスの数々は素晴らしいと思いました。

外科もこうした内科の進歩を積極的に取り入れ、ハートチームの仲間としてふさわしいものを着々と造らねばと思いました。

その他ガングリオンプレクサスへの外科的アブレーションの工夫努力、メイズ手術での盲点の克服その他興味深い内容たっぷりでした。

 

私はMICSでのメイズ手術とくに心房縮小メイズについてお話しました。心房拡張が心房細動IMG_0820bの治療成績をもっとも悪くする因子のひとつなのに、外科ではまだそれほど心房縮小の努力がされていません。

 

10年ほど昔にアメリカ胸部外科学会AATSその他で心房縮小メイズ手術を発表して以来、継続的に発表して参りましたが、なかなか普及するまでに至っていません。慣れるまでは難しい手術と思われているようです。

 

それをさらに難しいMICS(写真右、傷跡の長さは5cm台です)で行うのですから、いっそう多くの外科医が敬遠するのかも知れません。今日の手応えをもとに、これからは心房縮小メイズとMICSメイズの両方の視点から啓蒙活動したく思いました。

 

最後にこの秋から始まる医療事故調査報告制度のご説明が岡山大学名誉教授の清水信義先生からありました。この制度は医療事故を予防するために、10年近く前からモデル事業としてトライされた事業の完成版です。これによって訴訟が激減したという実績があります。ただ病院経営者のなかには、これによって訴訟が増える、おそらく報告書を患者さんのご家族に見せるから訴訟になるというお考えの向きが多々おられるそうです。

 

しかしそれは清水先生によればご家族に事実を見せない、結局は破たんする姿勢でありもともと論外の考えとのことでした。これはいわば、患者さんが不幸にして亡くなってもきちんとした説明がなされてご家族が疑義を抱かないことが大切であるという意味でもあるようです。私は一人立ちして以来20年以上、訴えられたことはありませんし、亡くなられた患者さんのご遺族さえご支援くださったのは、そうした姿勢のおかげと思っています。

 

ともあれ、全力投球の医療を行い、第三者的評価に耐えられる内容としっかりした説明を行うことを基本にすればこの報告制度は良い結果をもたらしやすいと感じました。まずは襟を正して気をひきしめて日々精進して行こうということでしょう。

 

最後に上記の受賞式がありました。当科の小澤先生は当直業務があるため早々に帰途についていましたので式には出席できませんでしたが、私がその旨お伝えして了解を頂きました。

 

近年、心臓血管外科や呼吸器外科など、メジャー外科は厳しいしんどいつらいといういことで若手が敬遠する傾向が強くなっています。学会をあげて有為な若者を支援する、育てる、これは大変重要なことで、今回の関西胸部外科学会も大きな貢献をされたことと思います。

会長の三好先生、岡山大学の皆様、お疲れ様でした。

 

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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