もう一つのミックス—-早期仕事復帰のために 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月14日

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◆ MICS(ミックス)心臓手術とは?

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現在の大動脈弁ミックス
左図が通常の(胸骨)正中切開、中図が代表的なミックス、右図が正中のミックスです。

MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術、ミックスとも呼ばれます)は、
胸骨を切らずに小さな切開で行う心臓手術です。
僧帽弁形成術や大動脈弁形成術などに応用され、**「痛みが少なく、回復が早い心臓手術」**として注目されています。

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MICSの主なメリット

  1. 傷跡が目立たない(美容効果)
    Tシャツや水着を楽しめる、温泉でも気兼ねしないなど、若い方からご高齢の方まで高い満足度。

  2. 早期の社会復帰・仕事復帰
    胸骨を切らないため、体力の回復が早く、仕事復帰が早いのが大きな魅力です。

  3. 自動車運転の早期再開
    胸骨正中切開では通常3〜6か月運転制限が必要ですが、MICSでは数週間で運転復帰が可能なケースもあります。
    →「心臓手術 運転再開」を希望される患者さんに大きなメリットです。

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◆ 実際の患者さんの声

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  • 50代 男性・会社員
    「胸骨を切らない手術のおかげで、退院から2週間後にはデスクワークに復帰できました。『心臓手術を受けても仕事を続けられる』という安心感が大きかったです。」

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  • 60代 女性・主婦
    「術後まもなく自動車を運転でき、孫の送り迎えもできるようになりました。胸の傷も目立たず、友人と温泉旅行に行っても周囲に気づかれません。」

こうした体験談からもわかるように、MICSは生活の質(QOL)を大きく改善する手術です。

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◆ MICSができない場合でも「もう一つのMICS」

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動脈硬化、大動脈瘤、複雑な弁膜症などでMICSができない場合でも、
当院では「胸骨正中切開」でも早期の仕事復帰・運転再開をめざす工夫をしています。

胸骨.

独自の胸骨閉鎖法

  • 一般的なプレートやピンではなく、力学的に強固で安定した閉鎖法を採用

  • 手術翌日から腕を大きく動かせ、胸帯不要で退院後すぐに活動可能

  • **「胸骨正中切開でも仕事復帰が早かった」**と喜ばれる患者さん多数

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特殊な皮膚切開法

  • 電気メスをほとんど使わず、組織を火傷させないため治りが早い

  • 感染リスクが極めて低く、20年以上の実績で胸部感染ゼロ例の期間あり

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◆ 「もう一つのMICS」という考え方

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  • MICSが難しい場合でも、痛みが少なく、回復が早く、仕事復帰や運転再開が可能

  • 胸骨正中切開でも「低侵襲に近い恩恵」を得られる治療戦略

  • 当院はこれを「もう一つのMICS」として提案しています

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◆ まとめ:諦めずにご相談ください

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  • 他院で「MICSは不可能」「胸骨正中切開しか選べない」と言われた方

  • 「心臓手術の後、早く仕事に戻りたい」「車を運転したい」と望む方

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→ 当院では患者さんの生活を考えた手術を行っています。

ぜひ一度ご相談ください。
**「諦める前に、最適な選択肢を一緒に探す」**ことが、私たちの使命です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心膜嚢腫のMICS手術

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心膜嚢腫は心臓の周りにある袋状の構造物である心膜の一部が嚢腫となり起こります。

その中に水のようなものが貯まり徐々に大きくなることがあります。あまり大きくなって心臓を圧迫し、不整脈や心不全を合併すれば手術が必要となります。

また圧迫がなくても時間とともに大きくなり、悪性の疑いが出てくれば安全のため手術することもあります。

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通常はふつうの心臓手術と同様、胸骨正中切開にて前からアプローチし嚢腫を切除します。

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私たちはMICSの方法を活かして、胸骨を切らずに傷IMG_0229b2跡が小さく見えにくい方法で手術をしています。写真右はその一例です。僧帽弁形成術などとほぼ同じ傷跡で手術できます。

これなら右胸の乳腺の少し下、女性の場合なら乳房の陰に隠れるしわのところから胸の中にはいれます。

心膜の外側にある嚢腫を完全に切除して胸を閉じて手術を完了します。

肋間神経を一時ブロックするため術後の痛みはあまり無いことが普通です。骨も切らないため傷の治りが早く、1週間あまりで治ります。まもなく普通の仕事やスポーツもできます。

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MICS手術の場合大切なことは手術の質を落とさないことです。つまり完全切除できるケースにのみ用いるようにしています。

もし心膜嚢腫が心臓の左側にあれば、左胸からアプローチするかもしれませんし、下側つまりお腹側にあればお腹からアプローチするかもしれません。完全切除に多少でも心配がある場合は正中切開つまり真ん中からアプローチします。

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すべてのケースで原則オフポンプ、つまり人工心肺を使わないようにしています。

これによって体への負担が減り、より早い回復と快適な術後生活が得やすくなるのです。

 

こうした様々な工夫によって心膜嚢腫の手術はさらに進化しています。

心臓手術は大変だから嚢腫をそのままに放置する、そしてそのための被害をこうむるなどのないようにしたいものです。そのためには診断がつけばまず専門家に相談です。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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関西胸部外科学会にて

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第58回学術集会が岡山で開催され、出席して参りました。

 

会長は岡山大学呼吸器外科の三好新一郎IMG_1566教授でした。メインテーマは温故創新、三好先生らしい素晴らしいテーマと感心しました。温故知新から発展した考え方と思いますが、登録商標?のため5万円を権利者に支払われたという噂は本当でしょうか。それだけの価値はあったと個人的には思います。

 

岡山は榊原病院の吉田清先生のご縁があってこれまで何度もお邪魔しているせいか、何か楽しい地という印象が強く今回も楽しみにしていました。個人的にはシンポジウムでの発表が2つあり、さらに若手の受賞かけての発表も2つあったため、真面目に参加しました。

 

全体として若い先生方の教育やモチベーション向上のため配慮が十分された会だったと思います。学生諸君も多数参加しておられたようです。

 

3Kとも6Kとも言われる心臓外科、胸部外科にこころある若者が来てくださるよう、そのやりがい、楽しさを十分にアピールすることは大切です。ちょっと大げさに言えば、この国の将来がかかっているとさえ思えます。

 

さて一日目には朝からYoung Investigator Awardsのセッションが続き、若くて熱い議論が交わされていました。

それから心臓・大血管のビデオセッションに参加しました。神戸大学の肺肉腫に対する腫瘍摘出術+右肺全摘術はこれまでの心臓手術と集学治療を集めた優れたものと感心しました。ベントール手術がらみの興味深い症例が北野病院や徳島日赤病院から発表されていました。兵庫医大のベントール手術後の大動脈弁置換AVRは私にとっては25年も昔のトロント時代から行っているHome-madeグラフトなのでうれしく思いました。京都府立医大のELITE法による左室形成術と乳頭筋吊り上げの僧帽弁形成術も同様でした。

cTAGをもちいたステントグラフト、手術の際にそれを使うオープンステント、Jグラフトのオープンステントも興味深い内容でした。

 

ランチョンセミナーでは大阪大学の倉谷徹先生の大動脈解離にはcTAGでっか?という大阪人らしい実質本位の素晴らしい講演がありました。これからステントグラフトはさらに進化する、上行大動脈さえ外科手術から離れるかも、しかし急性解離のエントリー閉鎖パッチや、慢性解離でのTEVARなど、限界もまた見えて来た、おそらくその限界を超えて見せようという気概も感じられたハイレベルのご講演でした。

 

三好会長の立派な会長講演につづいて、ドイツのシェーファー先生の講演がありました。
大動脈弁形成術ではいまや世界の最高峰と言われるシェーファー先生の緻密なジオメトリー研究とより良い弁形成の結果を拝聴し大変参考になりました。ちかぢかブリュッセルで同先生と双璧をなすクーリー先生らとの共同シンポジウムがあり、私も楽しみにしてますよとお伝えしたところ、待ってるぜ!とのことでした。

 

大動脈弁形成術はまだ進化の途中にありますが、かなり完成度が上がったと思います。これからより多くの患者さんたちのお役に立つと期待しています。

 

それから大動脈弁形成・大動脈基部再建のシンポジウムがありました。畏友神戸大学の大北裕先生と同・倉敷中央病院の小宮達彦先生の司会で行われました。

 

まず東邦大学の尾崎重之先生が尾崎弁の最近の展開を報告されました。完成度がさらに上がった感があります。

有力施設からの大動脈基部再建や大動脈解離とARなどのご発表に交じって、私はMICSと弁形成とバルブインバルブTAVIの観点からお話させて戴きました。こうした視点の発表は他になかったためか、一部のMICS専門家の議論になったように思います。これからさらに完成度を高めつつ、多くの病院で役立てて戴けるよう、啓蒙活動が必要なようです。

 

医療安全講習会では疲労と事故についての貴重なお話を名古屋大学の相馬孝博先生から戴きました。これまで疲労なんてへっちゃらさと思って来ましたが、やはり人間が起こすミスを科学的に減らすという観点から一段高いところから自分自身を監視するマインドフルな姿勢、疲労対策は大切と思い、勉強になりました。

自分だけでなく皆で楽しくストレス発散、なども大切なようです。

 

夜は全員参加の懇親会がありましたが、若い先生方や学生さんたちも参加されており、良い雰囲気でした。

 

学会2日目は朝から若手アワードつまり受賞のための発表コンテストに参加しました。当院の小澤達也先生が、興味深い症例2例を発表してくれました。小澤先生が発表してくれたのは次の2例でした。

 

1つは世界的にも珍しい神経鞘腫というタイプの心臓腫瘍でした。手術前は粘液腫と思われていましたが、その位置が普通と違い、大動脈基部に近いため、場合によっては大動脈弁や僧帽弁形成術を含めた大手術の可能性もあったため正中からアプローチしました。完全切除でき患者さんはお元気に退院されました。傷跡も小さく、夏服が着られるとよろこんで頂きました。

 

IMG_1564
受賞風景です。小澤君はこの日の夜当直のためすでに会場を去っていましたので彼の姿はこの写真にはありませんが。

もうひとつは、他の病院で2回弁置換手術を受けられた患者さんで、左室後壁が生体弁の先端のためにえぐれて瘤になり、このままでは破裂→突然死の恐れがあった患者さんでした。もとの弁を外して瘤になった左室後壁をがっちり修復補強し新たな人工弁を入れて治しました。患者さんは元気に退院されました。
あとで後者の症例提示が受賞したことを知り、小澤先生には大変良い経験をしていただけたこと、うれしく思いました。

 

立ち上げて軌道に乗って間もないかんさいハートセンターを去ることになった私ですが、最後にまたひとつ想い出が残せてうれしく思いました。

 

先天性心疾患の教育講演に少し顔を出し、国立循環器病研究センターの市川肇先生の右室流出路再建のさまざまな方法の講演を拝聴しました。頭の中がすっきり整理されたように思います。余談ながらあのラステリ手術のラステリ先生は37歳の若さで逝ってしまわれ、それを惜しんだメイヨクリニックの仲間たちがラステリの名前を残そうと努力して、ジャンプグラフトを何でもラステリ手術と呼ぶほどになったというエピソードをお聞きし、心に響くものがありました。

 

梯子してTEVARのシンポジウムを聴きました。天理病院の山中一朗先生のオープンステントの努力に頭が下がりました。

 

ランチョンでは滋賀医大の浅井徹先生の司会のもと、大動脈弁形成術の講演が2つありました。ひとつは心臓血管研究所の國原孝先生、いま一つは昨日に引き続きてシェーファー先生の大動脈弁形成術のお話の続編でした。

國原先生は日本での多施設研究を立ち上げつつあり、弁のジオメトリーや病態から始まって臨床結果さらに血行動態の詳細までを検討し始めておられ、その成果が楽しみです。

 

シェーファー先生は大動脈弁とそれを支える基部の形態を詳細に論じられ、大動脈弁形成で安定した成績を上げるために何が必要かを詳しく論じられました。同先生が創られたeffective Height測定ゲージの正しい使い方と誤った使い方なども、当然とはいえ、有用なお話でした。

 

IMG_1558
Chang先生の講演風景です

午後には韓国の畏友、Byung Chul Chang先生の不整脈外科の歴史と新たな努力についてのご講演がありました。思えば永い道のりを進んで来たものだと感慨深いものがありました。私にとってはまだトロント留学中の1991年ごろにアメリカの学会でJames Cox先生のお話に感銘を受け、それから徐々に進めて来た不整脈外科でしたが、そのころのデータなども拝見し私の心は若い日々にもどっていました。Yonsei大學での新たな試みなども紹介され、勉強になりました。

 

それを受けて、不整脈外科のシンポジウムがありました。

日本医大の新田隆先生はこの領域の新リーダーにふさわしい基調講演をされました。メイズ手術の際の肺静脈隔離のときにBox LesionとU Setのどちらが良いか、多角的に検討されました。これまで多数の立派な研究が一見矛盾するような結論になっていた理由がある程度理解できました。

ともあれ肺静脈隔離や冠静脈洞などのアブレーションを完璧に行うことの重要性は間違いないようです。

 

国立循環器病研究センターの草野研吾先生は循環器内科の不整脈治療とくにカテーテルアブレーションの最近の進歩と成果をきれいにまとめられました。正確な治療のための3Dマッピング、より安全に深達度を増やせるイリゲーションカテーテル、冷凍凝固バルン、その他新デバイスの数々は素晴らしいと思いました。

外科もこうした内科の進歩を積極的に取り入れ、ハートチームの仲間としてふさわしいものを着々と造らねばと思いました。

その他ガングリオンプレクサスへの外科的アブレーションの工夫努力、メイズ手術での盲点の克服その他興味深い内容たっぷりでした。

 

私はMICSでのメイズ手術とくに心房縮小メイズについてお話しました。心房拡張が心房細動IMG_0820bの治療成績をもっとも悪くする因子のひとつなのに、外科ではまだそれほど心房縮小の努力がされていません。

 

10年ほど昔にアメリカ胸部外科学会AATSその他で心房縮小メイズ手術を発表して以来、継続的に発表して参りましたが、なかなか普及するまでに至っていません。慣れるまでは難しい手術と思われているようです。

 

それをさらに難しいMICS(写真右、傷跡の長さは5cm台です)で行うのですから、いっそう多くの外科医が敬遠するのかも知れません。今日の手応えをもとに、これからは心房縮小メイズとMICSメイズの両方の視点から啓蒙活動したく思いました。

 

最後にこの秋から始まる医療事故調査報告制度のご説明が岡山大学名誉教授の清水信義先生からありました。この制度は医療事故を予防するために、10年近く前からモデル事業としてトライされた事業の完成版です。これによって訴訟が激減したという実績があります。ただ病院経営者のなかには、これによって訴訟が増える、おそらく報告書を患者さんのご家族に見せるから訴訟になるというお考えの向きが多々おられるそうです。

 

しかしそれは清水先生によればご家族に事実を見せない、結局は破たんする姿勢でありもともと論外の考えとのことでした。これはいわば、患者さんが不幸にして亡くなってもきちんとした説明がなされてご家族が疑義を抱かないことが大切であるという意味でもあるようです。私は一人立ちして以来20年以上、訴えられたことはありませんし、亡くなられた患者さんのご遺族さえご支援くださったのは、そうした姿勢のおかげと思っています。

 

ともあれ、全力投球の医療を行い、第三者的評価に耐えられる内容としっかりした説明を行うことを基本にすればこの報告制度は良い結果をもたらしやすいと感じました。まずは襟を正して気をひきしめて日々精進して行こうということでしょう。

 

最後に上記の受賞式がありました。当科の小澤先生は当直業務があるため早々に帰途についていましたので式には出席できませんでしたが、私がその旨お伝えして了解を頂きました。

 

近年、心臓血管外科や呼吸器外科など、メジャー外科は厳しいしんどいつらいといういことで若手が敬遠する傾向が強くなっています。学会をあげて有為な若者を支援する、育てる、これは大変重要なことで、今回の関西胸部外科学会も大きな貢献をされたことと思います。

会長の三好先生、岡山大学の皆様、お疲れ様でした。

 

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り111: 珍しい心臓腫瘍からMICSで完全復帰

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心臓腫瘍にもさまざまなタイプがあります。

いちばん多いのは粘液腫(ねんえきしゅ、英語でミキソーマ myxoma) 165395249で、その多くは心房中隔という左右心房の間仕切りの左側に発生するタイプです。

私のトロント大学での100例以上の検討(当時世界のベスト3の数と言われました)ではその他の部位にできる粘液腫は悪性の恐れがあり要注意という結果でした。


完全に切除することが大切なのですが、それが普通の方法では難しいこともあります。

場合によっては僧帽弁大動脈基部の一部まで切除して再建、もちろん患者さんご自身の弁を温存して、という弁膜症手術の中でも難易度の高い技術と経験を要するものもあります。

お便り43の患者さんもそのタイプでした。

 

下記の患者さんは心房中隔の表面ではなく中に腫瘍があるという珍しいタイプで、しかも大動脈基部に迫るという危険な形のものでした。

関東在住で現地の大学病院で診断を受けられました。そこの放射線科と内科の先生方も、このタイプは特殊で大動脈弁に腫瘍が及んでいる恐れがあり、心臓手術の際にはくれぐれもご注意をというありがたいコメントも頂いておりました。

その患者さんがかんさいハートセンターまでお越し下さいました。

精密検査ののち、確かに大動脈基部を含めた大きな手術になるかも知れないという見立てで、もともとはポートアクセスによるMICS手術(右胸を小さく切るだけです)を考えていましたが、もしもの場合を考え、正中からアプローチすることにしました。

ただしMICSご希望のため、小さい創で、40歳代の若いご年齢から夏服が楽しめるように配慮しつつ、安全重視の布陣で臨みました。

 

結果的には心房中隔の中でうずら卵状の腫瘍がコロッときれいにとれて、周囲への浸潤つまりしみこむような広がりもなく、良性腫瘍の形でしたので大動脈基部は触らずに完全切除できました。

術後経過も順調で、手術前に不整脈発作がよく出ていたのも次第に影をひそめ、お元気に退院されました。

 

手術のあとで顕微鏡検査の結果が送られてきました。神経鞘腫という世にも珍しい、おそらくこの部位では世界にこれまで1-2例報告あるかないかのタイプでした。

患者さんと娘さんたちの前向きの姿勢が良い結果をもたらしたと言えましょう。

これから元気な健康生活をお楽しみください。

 

ちょっと遠方ですが、お役に立つ外来を心がけていますので、また健診のため関西までお越しください。

 

******** 最初に頂いたお問い合わせメールです *******

初め PL111Aまして。

私の母は四年前に子宮けいがんで子宮全摘しています。

それで抗がん剤などの治療は受けていなくて再発もなく、

でも3ヶ月毎に受けてるCT検査で心臓に腫瘍がある事がわかりました。

再発ではなく原発みたいででも心臓腫瘍も珍しいが

もっと珍しいタイプみたいで粘液を疑っていたんですが

粘液なら左心房にちょこんと出来るみたいだけど、左右真ん中にあり

明後日カテーテル受けるですがリスク高いと言われていて…

カテーテル受けないと手術は出来ないのでしょうか?

よろしくお願いします

********* 術直後に頂いたメールです *********

こんにちは。**です。 PL111B

昨日は手術どうもありがとうございました…。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
米田先生に母をみてもらえて本当に本当に良かったです。米田先生に出会えて良かったです。

昨日のICUでの母との対面は、手術終わったんだなってゆう気持ちと当たり前だけど子宮癌手術よりも昨日受けた心臓の手術のほうが何倍も大変?
な手術で前の手術よりも沢山沢山器材がついていて怖くなってしまいましたが…

私も口唇口蓋裂とゆう病気で全身麻酔の手術沢山受けてるから術後の辛さもよくわかります…。
私の場合は病室戻る時には人工呼吸器も取れているから、実際呼吸器つけてる母をみて怖くて…でも無事に手術終わったって事で安心と恐怖?で涙出てきました…。

今日午前中、母に会ったら会話も出来たし、リハビリで座ってたし本当に良かったです。

米田先生…

母はずっと傷跡の事も気にしていて地元病院だったら沢山切っていたと思うのに
先生に執刀して頂いたお陰で傷跡も母は気にしないでいけると思います。

言葉では上手く言えないけど本当に本当にありがとうございます。

 

********* 退院のころ頂いたメールです *********

 こんにちは。**です。 PL111C

約1ヶ月間母の入院、手術、色々本当にどうもありがとうございました。

米田先生に執刀していただいて本当に嬉しく思います。

米田先生をはじめ、グループの先生、母と関わっていただいた全ての人に感謝します。
本当にありがとうございます。

退院の日、米田先生にお礼の言葉を直接言えなくて残念ですが、米田先生に出会えて本当に良かったです。

ありがとうございます。

外来の日、母と一緒に行きますのでまた先生に会えるのを楽しみにしています。

ありがとうございました。

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粘液腫に対するミックス手術【2020年最新版】

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Fotosearch_CCP09004最終更新日 2020年3月27日

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◼️粘液腫もミックスで手術

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粘液腫は比較的まれな病気ですが、放っておけないものです。

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多くは心房中隔という左心房と右心房の間にある壁から、とくに左房側から発生します。

ついで多いのは心房中隔の右房側から発生するタイプです。右図は右房タイプです。

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現在の大動脈弁ミックス私たちはこうした左房粘液腫や右房粘液腫をミックスとくにポートアクセス法で手術するようにしています。

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◼️そのメリットは

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なにしろ骨を切らずにすむため、あとの痛みが少なく、仕事復帰や社会復帰も早く、クルマの運転もまもなくでき、そして創があまり見えないためこころの創も起こりにくいからです。

患者さんの満足度が高い、これは私たち医療者にとっていちばんうれしいことです。

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上図の左は世間一般に行われている皮膚切開で、中がポートのMICS、右が正中のMICSです。

私たちは通常の粘液腫には上図で中の皮膚切開をもちい、通常とは違う特殊なタイプや悪性の疑いがあるタイプには上図の右の皮膚切開で安全確保するようにしています。

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◼️さまざまな工夫

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ミックス手術を僧帽弁にする施設は徐々に増えています。しかしそれは一部の簡単なケースに対してだけ行い、看板だけという施設も少なくないという指摘がされています。

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私たちは僧帽弁+メイズ手術、僧帽弁+三尖弁、大動脈弁、あるいはそれらの組み合わせなどもポートアクセスのミックスで実績をあげてまいりました。

粘液腫にもこの方法 は威力を発揮しています。

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患者さんにおかれましてはこうしたことも主治医と相談し、どういう手術を受けるかを考えられることをお勧めします。

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わかりにくい時にはセカンドオピニオンを他病院でもらうということで主治医に紹介状を書いていただくのが現代の普通の流れです。

患者さんの知る権利を尊重してのことですのでご活用されると良いでしょう。

 

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事例:「末期」心臓腫瘍に手術で立ち向かい2年間立派に生きられた患者さん

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心臓の悪性腫瘍つまり肉腫やがんは稀な病気ですが、いったんこれにかかると予後は不良です。

臓器の性質上、全摘除したくてもできないからです。

心移植できれば話は別ですが、日本ではそううまくは行きません。

下記の患者さんは約80歳の男性で、来院1年前から空咳がでるようになりました。

PreopXP近くのかかりつけ医院で心拡大と言われ、病院でエコーとMRI検査を受けた結果、心臓腫瘍と言われました。

すでに臓器のかなりの部分を侵しており、手術不能と言われ、心不全症状が急速に悪化して、あと1週間のいのち、と言われて米田正始の外来へ来られました。

右図は来院時の胸部X線写真です。

心拡大が著明です。

高度の心不全で息がつまりそうなぐらい苦しくなっておられました。

PreopCT調べますと、右室から主肺動脈さらに左室までを浸潤(しみこむように侵していく)する腫瘍で、その形と性状から悪性であることは確実でした。

左図は造影CT所見です。

さしあたり主肺動脈と肺動脈弁を閉塞すれば血圧がでなくなって突然死する恐れが高いため、救命措置として手術することにしました。

というのは、このタイプの心臓腫瘍の中には、ゆっくり増殖するタイプがあり、それなら当分は生きられる可能性があるからです。

さらに手術で腫瘍の標本が得られれば、それを精密検査することで、抗がん剤や放射線治療がある程度効くことがわかれば、さらに予後を良くする可能性もあったからです。

Tumor1手術ではまず主肺動脈を開け、右室流出路まで切開延長しました。

予想どおりこの部分は腫瘍で満杯状態となっていたため、これを徹底切除しました。

右図は腫瘍を摘除しているところです。スプーンで持ち上げているたまごのような形の赤黒いものが腫瘍です。

このとき肺動脈弁は腫瘍とともに切除しました。

左室に浸潤している部分だけは、いのちを守るために最小限切除にとどめました。

手作りの肺動脈弁をつけたパッチで切開部の天井を造るように閉鎖しました。

PostopXP将来腫瘍が再度増えて水などがたまっても困らないように、右胸とお腹に水抜きの窓を開けました。

こうして手術は無事終わりました。

術後経過は順調で、術翌日にICUを退室され、術後2日目には歩行を開始されました。

術後エコーやCTでも腫瘍はほとんど取れ、肺動脈弁はじめ心臓は良い状態となりました。

左図は術後の胸部X線写真です。術前よりうんと改善しました。

手術で切除した腫瘍の顕微鏡所見では肉腫つまりある種のがんであること以上は不明ということでした。心臓腫瘍ではしばしばこうしたことがあります。まだまだ不明な病気なのです。

術後ゆっくりとリハビリなどで体力回復していただき、3週間で退院されました。

その後、ご自宅でまずまず楽しく暮らしておられましたが、4か月後に心臓腫瘍が背骨に転移したことが判明、その治療をがんセンターで受けていただき、軽快しました。

痛みもペインクリニックの先生のおかげで和らぎました。

術後1年が経過し、患者さんはまずまずの状態で食欲もあり、家の中で運動し楽しみをもって暮らしておられました。

この時点でエコーではいったん再発気味だった腫瘍がまた小さくなり、ProBNP(心臓ホルモン)も2200から460まで改善するなど、奇跡に近い状態でした。

術後1年半たち、背中の痛みが次第に強くなりました。転移した腫瘍が神経を圧迫している所見でした。

さらに左眼が見えにくくなり、検査の結果、左眼の奥の部分への腫瘍転移と判明しました。

しかし患者さん・ご家族がよく頑張って下さり、放射線治療にて転移した腫瘍は治まり、視力さえ回復しました。これは皆安堵するだけでなくすごい!と感心しました。

術後1年8か月ごろに次第に動けなくなり近くの病院やご自宅で過ごされることが増えました。

1年9か月の時点で呼吸不全となり全身衰弱が進みご家族が見守られる中で息を引き取られました。

あと1週間ほどのいのち、と医師から宣告されてから2年近く、最後まで意欲をもち、弱音を吐くこともなく、前向きに頑張られました。その間、何度も家族団らんの楽しいひと時をもち、ご自宅だけでなく外出を楽しみ、がんの転移による危機を何度も乗り切るなかで、最後の最後まで人間としての尊厳を保ちつつ逝かれたこと、誇らしく思います。またそれを支えて下さった奥様はじめご家族の皆様に敬意を表したく思います。

この患者さんは見事にその人生をまっとうされただけではありません。

この患者さんのお話を聴いて、「自分も頑張ってみよう」と仰り、実際頑張って下さっている患者さんが何人もおられます。

心臓悪性腫瘍が稀な病気であることを考えると、数名の患者さんが年単位で生活できていることは、予想より高い確率で頑張れるともいえ、これは大きなことです。

心臓腫瘍とくに悪性、がん、肉腫と言われて生きる元気がなくりそうな方、まずはご相談下さい。

 

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原発性心臓悪性腫瘍【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月27日

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◼️原発性の心臓悪性腫瘍とは

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心臓から発生した悪性腫瘍(がんあるいは肉腫)です。
Ccbo024-s大変稀で2000人に一人の頻度という報告もあります。

悪性中皮腫、肉腫たとえば血管肉腫、悪性リンパ腫などが代表的です。

さまざまなタイプがあり、またその発生部位や患者さんの年齢体力などに応じたキメ細かい対応が必要です。

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多くの場合、薬や放射線が効きづらく、手術が治療の中心となります。

しかしその一方、悪性リンパ腫の一部など、薬や放射線が効くものもあり、しっかり調べることが大切です。

悪性腫瘍の原則は心臓原発の悪性腫瘍にも当てはまります。

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◼️完全切Ilm14_bf01002-s除できる場合は、

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しっかり切除して、手術後の心臓機能が維持できるよう、再建を行います。

そのため多くの場合、体外循環(人工心肺)をもちいて、徹底的に切除します。

この場合、私たちの方針は、

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①腫瘍が冠動脈を巻き込んでおれば、冠動脈ごと腫瘍を全摘除し、その末梢側の冠動脈にバイパスをつける、

②左室や右室などパワーをだす必要がある部位は切除に限度を設けてあとの心不全が悪化しすぎないようにする、

③洞結節は必要があれば腫瘍とともに切除し、その分、ペースメーカーを入れて洞結節の肩代わりをする、

などで、要は完全切除を安全に目指すようにしています。

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これらは患者さんが生き延びるために必須であるために行うのですが、こうした完全切除の場合、体への負担も大きくなり、高齢者や体力がすでに低下している場合は要注意です。患者さんの状態に合わせた最適治療法を考えるわけです。

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◼️完全切除Ilm02_ab04001-sできない場合

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あるいはすでに転移している場合は、全身状態を改善し、なるべく苦痛少なく、なるべく永く生きられるようなやさしい治療を行います。

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たとえば心嚢内(心臓の周囲のふくろ状の膜で囲まれた空間)に水や液体が貯まって心臓の働きを妨げている場合、心膜に穴を開けるだけの心膜開窓術が患者さんの体力回復と症状緩和に効くことがよくあります。

水は胸腔へ抜けて吸収されるか、適宜針や管(くだ)などを入れて抜くこともできます。

ただこの場合、腫瘍の本体は手つかずのため、そのあと腫瘍が発育してくる恐れがあります。可能ならこのときに薬や放射線が使えれば少しは有利に傾くことがあります。

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心臓の弁や大動脈・肺動脈などが腫瘍のため閉塞しつつある場合は根治性がなくても救命措置として、人工心肺をもちいて腫瘍を切除することがあります。

この場合も長期間の予後には懸念があるため、さまざまな後治療を考えます。

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◼️腫瘍にはゆっくりタイプもある

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Ilm01_ab03005-s心臓原発悪性腫瘍には slow growing tumorというゆっくりと大きくなるタイプがあります。悪性といっても比較的穏やかなタイプです。

このタイプでは完全切除できずとも、年単位で生きることが可能です。

だからこそ、原発性心臓悪性腫瘍だからといって、あきらめたり自暴自棄になってはいけないのです。

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私のトロントの経験では「末期」と言われた状態から心膜開窓術のあと、3年半も元気に暮らした方がありますし、

名古屋でもあと1週間と言われて強い心不全状態で来院され、緊急手術で2年近く生存された患者さんがおられます(心臓手術事例)。

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◼️頑張りましょう

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このように米田正始が心臓腫瘍に経験が豊富なためか(トロント大学で多数経験したものを発表しました, 英語論文156参照)、原発性悪性腫瘍の患者さんが全国から来られる傾向があります。

心臓手術・事例:右房全置換にて完全切除できた心臓腫瘍)

この手術治療に際しては、平素の弁形成術や左室形成術、血管手術の経験が大変役立っています。腫瘍を切除するために弁や左室や血管の一部を切除することがよくあるからです。

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悪性腫瘍はさまざまな科の専門家のちからを集める集学的治療が威力を発揮する病気です。

地元や他科・他病院の先生方と協力して、できるだけお役に立てるように努力しています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:右房全置換にて完全切除できた原発性心臓腫瘍

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心臓腫瘍の大半は粘液腫で、中年期以後はその多くが良性腫瘍です。

まれに心臓原発の悪性腫瘍が見られます。

悪性腫瘍の場合、極力完全切除することが長期間生きるために必要です。

そのためには心臓をしっかりと再建する技術が求められます。


下記の患者さんは3か月前、呼吸苦と前胸部圧痛のため近くの大学病院を受診されました。

そこで心臓腫瘍の診断を受けました。

心臓の周りに多量の水が貯まっていましたが、そこからは悪性腫瘍細胞は検出できませんでした。

MRIやCT検査で体の他の部位にとくにがんらしきものはありませんでした。

消化管や子宮・卵巣にも問題なく、PET-CTで心臓の悪性腫瘍の疑いとなりました。

術前CT3造影CTと心エコーで右房腫瘍が確認され、その範囲は上は上大静脈の洞房結節の一部を巻き込んでいるものの、下大静脈や右冠動脈までは進展していない、というものでした。

こうした結果を踏まえて、専門家の手術を受けたいと、米田正始の外来へ来られました。

 

最終的には実際に胸を開けて右房腫瘍を見てからの判断になると考えられましたが、根治性つまり完全切除できるなら腫瘍の全摘除と右房再建を、完全切除ができないときには腫瘍摘除か心膜開窓術というおよその方針を確認しました。

また心臓手術のあとで抗がん剤や放射線治療になる可能性を考え、できるだけ早く創が治り体力が回復するようにミックス法で手術することにしました。

術中所見さらに、もしもあまり永く生きられないという状況になったとしても、その間、できるだけ苦痛が少なく楽しく有意義に暮らせるようにとの気持ちもあってミックス法を選びました。

この患者さんの場合は右開胸のミックスつまりポートアクセス法は少々無理があると判断し、胸骨下部部分切開による方法を選びました。

こうして小さい創で心臓に達しました。

右房全体が腫瘍で充満する形でしたが、心膜との癒着は右側だけで、この部は心膜も切除して、万一そこにがん細胞がいても困らないようにしました。

2012年09月14日(Fri)13時01分23秒体外循環・心拍動下に右房をほぼ全摘除しました。

予想どおり洞房結節の一部までがんにやられていましたので、この結節の一部も切除しました。

下大静脈のところも無事に腫瘍全摘除できました。

右冠動脈にも問題なく、ただしその近くまで右房壁をほぼ全部取る形で腫瘍摘除しました。

右心耳のところだけ腫瘍がなく、この部は温存できました。これはあとで心臓ホルモン(利尿ホルモン)を出してくれるので、術後の心不全を予防できて幸いでした。

腫瘍を肉眼的には全摘除できましたが、念のため、冷凍凝固で見えない癌細胞がもし残っていてもこれを死滅させるようにしました。

それからウシ心膜をもちいて右房を再建というよりあらたに造りなおすようにしました。

入念な止血ののち手術を終えました。 右房再建完成

術後経過は良好で、手術翌日、一般病棟へもどられ、術後10日で元気に退院されました。創の痛みも少なそうでした。

切除標本の検査の結果は、血管肉腫という、ある種のがんでした。

前もって打ち合わせどおり、近くの大学病院のがん専門の先生に集学治療を行って頂いています。

これまでのところ、転移も再発もなく、経過良好です。

ぜひがんばって根治し、元気に永く暮らして頂きたく思っています。

 

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粘液腫は腫瘍?それとも?――かつては突飛な説も【2020年最新版】

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Atrial-myxoma最終更新日 2020年3月27日

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◼️粘液腫は腫瘍?血栓のなれの果て??

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159120980粘液種の起源はかつては血栓由来とする血栓説や

心臓の未分化細胞から発生する腫瘍とする腫瘍説などがありました。

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実際、粘液腫の中には血栓が器質化(つまり血栓を患者さんの組織が取り囲んである種の組織のようにしてしまう)したように見えるものも少なくありません。

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◼️論争に決定打が

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Dr.-Carneyこの 論争に終止符を打ったのがアメリカのメイヨクリニックのカーニーCarney先生(写真左)でした。

カーニー先生が家族性の粘液腫つまり遺伝して同じ家族のなかに何人も粘液腫が 発生するという家系を報告し、

のちにカーニー症候群と言われる疾患を詳細に記載されました。

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これは血栓説では説明がつかず、

以来、粘液腫は心臓の腫瘍として認識されるようになりました。

その後の研究で粘液腫は心房中隔にある、特別な細胞を起源としているとの説があります。

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◼️腫瘍説を踏まえた手術

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Ilm09_ab05001-sその是非はともかく、腫瘍説をふまえて、粘液腫を心臓手術するときには完全切除する、

つまり悪性腫瘍に準じた切除をすることが長期成績の向上につながると考えられます。

粘液腫を甘く見て不完全切除すると、後日再発という形でしっぺ返しをくらうことがこれまでの多くの報告から見てとれます。

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一刻も休めない心臓ですから完全切除だけでなく、完全再建する、これが粘液腫の患者さんを長期間助けることにつながるのです。くわえてなるべく創も小さく痛みも軽いミックス手術が理想的。経験豊かなチームの手術が勧められるわけです。

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心臓粘液腫とは?―良性でも危険なことがある心臓腫瘍【2025年最新版】

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更新日:2025年9月29日
執筆:福田総合病院 心臓血管外科専門医 米田正始

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◆心臓粘液腫とは?myxoma

心臓粘液腫(myxoma)は、心臓に発生する腫瘍の中で最も多く、全体の約半数を占めます。
多くは良性腫瘍
ですが、油断できない病気です。(腫瘍説

  • 75%は左心房に発生

  • 20%は右心房

  • 残りは心室に発生

見た目はゼラチン状でやわらかく、色は黄色や灰白色、ときに緑色を帯びることもあります。

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◆粘液腫の症状

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粘液腫は心房中隔にできることが多く、成長すると僧帽弁をふさぐようになり、以下の症状を引き起こします。

  • 息切れ・動悸(心不全や不整脈による)

  • 失神発作

  • 突然死のリスク

  • 血流に腫瘍の一部が流れてしまい、脳梗塞や塞栓症を起こす

その他、発熱・体重減少・レイノー現象(手足の指が冷たく痛む)などもみられることがあります。

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◆なぜ危険なのか?Cwfa030-s

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粘液腫は柔らかくもろいため、腫瘍の一部がちぎれて血流に乗ることがあります。

これが脳に達すると脳梗塞を起こし、命に関わる事態や後遺症(半身まひなど)につながることがあります。

「良性だから安心」とは言えない理由がここにあります。

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◆遺伝との関係

  • 遺伝性粘液腫:20代男性に多く、心房以外の心室などにも発生しやすい。再発率や悪性度が高い。

  • 非遺伝性粘液腫:40〜60歳女性に多く、左心房に発生するケースが多い。

30歳以下、特に20歳以下の患者さんで発見された場合は、遺伝性の可能性も考慮して注意深い診療が必要です。

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SANY0004◆診断方法

  • 心エコー検査:第一選択であり、確定診断に有効

  • CT・MRI:腫瘍の大きさや位置を詳細に確認

  • 心臓カテーテル検査:造影で血流の状態を確認

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◆治療は早期の心臓手術

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粘液腫は診断がついたらできるだけ早く手術することが勧められます。
特に危険なタイプでは、当院では診断から1週間以内に手術を行う方針です。

待機中に脳梗塞などの合併症を起こす例もあり、「善は急げ」の病気といえます。

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◆手術のポイント

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113

  • 完全切除が原則

  • 再発は取り残しや悪性度の高さによって起こる

  • 心房中隔だけでなく、必要に応じて僧帽弁や大動脈弁近く(お便り43をご参照)まで切除・再建することもある

  • 粘液腫による弁輪拡張で僧帽弁閉鎖不全症を合併している場合は、僧帽弁形成術を併用することもある(お便り11をご参照)

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◆経験豊富な外科医による手術が重要

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粘液腫は良性でも不完全切除や再発のリスクがあるため、経験豊かな心臓外科医による手術が望まれます。
特に、腫瘍が通常と異なる部位にある場合は難易度が高く、専門性の高い施設での治療が安心です。

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◆まとめ

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  • 心臓粘液腫は良性腫瘍ですが、脳梗塞や突然死の原因となる危険な病気です。

  • 心エコーなどで診断されれば、早期手術が推奨されます。

  • 手術は完全切除が大切で、経験豊富な外科医のいる専門施設での治療が望まれます。

👉 心臓粘液腫と診断された方は、迷わず心臓血管外科専門医にご相談ください。

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