最終更新日 2025年9月17日
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◆ 冠動脈瘻とは?
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冠動脈瘻(かんどうみゃくろう) とは、心臓の冠動脈に異常な血管(瘻)ができ、本来とは違う経路で血液が肺動脈や右心房など圧の低い部位に流れ込んでしまう病気です。
正常な血流が「ショートカット」されてしまうため、心臓に十分な血液が届かず心不全や狭心症に似た症状を引き起こします。
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◆ 発生の原因
冠動脈瘻は多くの場合、胎生期(お母さんのお腹の中)に存在していた血管の名残 が原因です。
胎児の心筋に血流を送っていた海綿状組織が冠動脈と異常につながることで発生します。
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生まれつき存在することが多い
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青年期以降に異常血管が拡大することもある
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約3割の患者さんで 冠動脈瘤(こぶのような拡張) を合併
検査(冠動脈造影)で見つかる頻度は 0.2%程度 と比較的まれな病気です。
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◆ 症状と合併症
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冠動脈瘻を通る血液の量(シャント量)が多いと、次のような症状が出ます:
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息切れや動悸などの 心不全症状
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心筋への血流不足による 狭心症様の胸痛
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感染性心内膜炎の合併
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冠動脈瘤の破裂による突然死の危険
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血液が「漏れる」だけでなく、本来冠動脈を流れるべき血流が奪われるため、心筋の酸素不足(虚血) も問題になります。(手術事例 冠動脈瘤)
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◆ 診断方法
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必要に応じてMRIや心臓カテーテル検査を行い、心筋虚血や心不全の有無を判断します。
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◆ 治療法 ― カテーテル治療と手術
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● カテーテル治療
コイルやプラグを用いて瘻を閉じる方法です。
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低侵襲で体への負担が少ない
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軽症例に有効
⚠️ ただし、血管がもろい場合は破裂のリスクもあり注意が必要です。
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● 外科手術
カテーテル治療が難しい場合や重症例では手術を行います。
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瘻の 入口と出口を縫合閉鎖
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必要に応じて瘤全体を閉鎖
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オフポンプバイパス(人工心肺を使わない方法) による低侵襲手術も選択可能
近年では、MICS(小切開低侵襲手術) による冠動脈瘻閉鎖も行っており、術後の痛みが少なく社会復帰が早い点がメリットです。
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◆ 私たちの手術の工夫
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術中高速エコー(15MHz) を直接心臓に当て、血液の漏れがないか徹底確認(文献129をご参照)
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「第2の眼」で心臓内部までチェックし、再発を防止
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世界的学会(Annals of Thoracic Surgery, 2017年)にも新しい術式を発表(英語論文267をご参照)
これらの工夫により、冠動脈瘻をより安全に、再発なく根治できる可能性を高めています。
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◆ 予後と生活への影響
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冠動脈瘻は適切に治療すれば完治可能な病気です。
特にMICSやオフポンプ手術を組み合わせることで、術後の回復が早く、早期の仕事復帰や運転再開も期待できます。
ただし放置すると心不全・感染・瘤破裂といった重大リスクにつながるため、早めの専門医相談が大切です。
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◆ まとめ
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冠動脈瘻は 生まれつきの異常血管 が原因で起こる稀な心臓病
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症状が進行すると 心不全・心筋虚血・感染・瘤破裂 の危険あり
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カテーテル治療 や 外科手術(オフポンプ・MICS) で治療可能 (ハートチーム)
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術中エコーを用いた丁寧な確認で 再発予防・安全性向上 を実現
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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