最終更新日 2025年9月10日
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■HOCMとは?
肥大型閉塞性心筋症(Hypertrophic Obstructive Cardiomyopathy:HOCM
、別名 IHSS 特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症) は、左心室の出
口付近(流出路)が心筋の肥厚によりトンネル状に狭くなる病気です。
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主な症状
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運動時の息切れや動悸
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胸痛
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失神発作
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病状が進むと突然死のリスクも
軽度であれば経過観察や薬物療法で対応できますが、重症化すると左室の出口が「蓋をされたように」塞がり、強い心不全や致死的不整脈を起こす可能性があります。
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■HOCMの外科治療
異常心筋の形態に応じて治療法が選択されます。
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手術効果(症例画像より)
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術前:心室中隔の肥厚とSAM(僧帽弁前尖の収縮期前方移動)で流出路が狭窄
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術後:左室流出路が広がり、僧帽弁の動きも正常化
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■カテーテル治療(PTSMA)の位置づけ
経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)では、冠動脈からアルコールを注入して異常心筋を縮小させます。
ただし課題もあります:
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冠動脈と肥厚部位の位置が合わないと効果が不十分
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過剰焼灼で壁が薄くなりすぎる可能性
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約10%で完全房室ブロック → 永久ペースメーカーが必要
したがって症例ごとの適応判断が重要です。
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■HOCMに見られるSAMとは?
SAM(Systolic Anterior Motion:僧帽弁前尖収縮期前方移動) はHOCMでよく見られる現象です。
血流が僧帽弁前尖を吸い込み、弁が閉じなくなるため僧帽弁閉鎖不全を引き起こします。
これは異常心筋による構造的問題であり、心筋切除術によって弁の動きが自然に改善することが多いです。 (事例1 )
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当院の経験と手術技術
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トロント総合病院 Prof. W.G. Williams (右)直伝のモロー手術を継承
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術前シミュレーションに基づく設計 → 狭窄の完全解除、再発ほぼゼロ
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日本国内外での発表・学会報告を通じて技術を研鑽
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高齢者から若年者まで幅広い症例に対応
これまでに多くの患者さんが息切れ・胸痛・失神発作から解放さ
れ、社会復帰されています
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■日本の現状と課題
残念ながら、HOCMの認知度は低く、循環器内科医でも十分な対応ができないケースがあります。
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失神発作を放置 → 心内膜炎から脳梗塞・死亡に至った例
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「治せない病気」と説明されたが、外科手術で改善できた例
👉 専門性の高い心臓外科医による評価と経験豊富なチームでの手術が不可欠です
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■今後の展望
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技術の進歩により、左室流出路だけでなく心室中部・心尖部まで安全に形成可能
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患者さん一人ひとりに合わせた包括的な手術戦略が可能になっています
■まとめ
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HOCMは突然死を起こし得る重い病気
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しかし、熟練した専門チームによる外科治療で改善できる病気です
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息切れ・胸痛・失神などの症状がある場合は、早めに専門医へご相談ください
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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