須磨ハートクリニックの訪問記

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心臓外科の大先輩である須磨久善先生が心臓手術の現場から仮引退され、あたらしいクリニックを開設されたことは存じておりましたが、詳細がわからずそのままになっていました。(須磨先生、開院祝いもまだできておらず、失礼しました!)

 

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じっくり相談できることは心臓外科医療の原点です

先日の研究会の場で須磨先生と歓談しているときに、ふとその須磨ハートクリニックのお話しになり、いちど遊びにおいでと仰ったので早速後学のために行って参りました。

 

須磨久善先生のことはご存じの方が多いと思いますので、ここでは簡略にご紹介いたしますが、あのNHKプロジェクトXでも紹介されたバチスタ手術を日本で最初にされ、それも単に初めてというだけでなく、工夫を重ねて多数の患者さんを救命され、その成果を世界へ発信され、心不全の外科治療に貢献をされました。これは目の前の患者さんを、それも多数お助けするというにとどまらぬ、世界の、直接目に見えない患者さんたちにも恩恵を届けるという意味で素晴らしいことだったのです。

それともうひとつ、冠動脈バイパス手術でバイパスに使う血管として胃大網動脈という胃の周りにある動脈を初めて用い、それを実用レベルにまで完成され、これまた世界にその真価を発信されたというお仕事もしておられます。

こうした海外への発信がどれほど大変で、かつ有益かは、海外で長年汗を流したものにしかわからないところがあります。須磨先生のはそれを国産で、海外より恵まれない環境の中で、自分のあたまで考えて実行されたところが素晴らしいと思うのです。

その須磨先生が上記のように手術現場を仮引退され、開業されたのが須磨ハートクリニックです。私がしつこく「仮」引退とお書きしたのは、まだまだ引退ではなく、少し視点を変えて心臓外科をさらに発展させて戴きたいという気持ちからです。

須磨ハートクリニックは東京の話題の地、代官山の蔦屋書店T-SITEの中にあります。

個人的印象をお書きしますと、それはカリフォルニアのスタンフォード大学エリアを想起させてくれるようなおしゃれな知的空間の中にある、ゆっくりと心臓病の相談ができる場でした。蔦屋書店そのものが、ゆったりとしたスペースの中で幅広い文化書を網羅し、お茶を飲みながら読書できるという、少し日本離れした運営でした。その周辺にドイツのおもちゃ屋さん、デジカメの専門店、電気自動車の専門店、動物病院などとともに須磨ハートクリニックは位置づけられていました。聞けばこれは蔦屋書店の社長さんの新しいポリシーとのことでした。

須磨先生が以前に造られた新構想の心臓病院である葉山ハートセンターも私の心を惹きつけて離さぬものがありましたが、今度の須磨ハートクリニックはそれ以上のものでした。

葉山ハートセンターのときも、快適な病院、最高の環境、居心地が良い、富士山が見える、そもそも天皇陛下の保養所と同じエリア、もちろん優れた心臓外科医がいる、などの賛辞が聞かれ、いずれも正解だったと思いますが、私が感嘆したのは、そうしたものがセレブと言われる方々のみならず、普通の庶民の患者さんにも提供されていたことでした。こうした患者さんを大切にする病院というのは当時、国立大学病院にいた私にとってはどんなに努力しても真似できないことでした。(いずれこんなとこ辞めて患者本位のハートセンターを造るぞーと公言していたら、本当にそうなってしまいました)

今回のクリニックも同様で、須磨先生の考えられる医療の在り方に大変共鳴したものです。

 

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正しい情報を得ることが大切です

その診療内容は、どこか他の病院で心臓病と言われて、どうしたら良いか迷っておられる患者さんに適切な助言をし、必要に応じて病院を紹介するという、医療のブレーン役です。

 

そうしたブレーンがないため苦労した患者さんが世の中に多いことを考えますと、このクリニックの意義が理解できると思います。たとえばエキスパートなら弁形成ができるような僧帽弁膜症を、そうとは知らずに近くの病院で弁置換(機械弁を使うばあいは一生ワーファリンというお薬が必要)を受けて後で後悔した、などのケースが大半防げるのです。

また私がもうひとつ素晴らしいと感じたことは、そうしたセカンドオピニオン提供が、他の医療機関に良い刺激となり、地域医療のレベルを上昇させてくれるという二次効果です。わかりやすく申し上げれば、須磨先生から紹介して頂けるように頑張って良い医療をやろう、という機運が生まれるのではないかというわけです。

そしてまた、私自身もこれから新しい「かんさいハートセンター」で様々な患者さんの悩みを聴き、適切な助言と治療、病気内容によっては他院を紹介するほどの自信と幅をもった診療をやって行こうと思いました。

須磨先生、見学の機会を戴きありがとうございました。

平成25年8月18日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【第十八号】 日記と患者さんの声に新記事upです

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【第十八号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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台風が過ぎたらとたんに暑い日が戻って来ました。半端ではない残暑です。如

何お過ごしでしょうか。

さて心臓外科医の日記に新しい記事をUpしました。テレビ映画「外科医須磨

久善」への雑感です。わたしにはあらためてジーンとくるものがありました。
http://www.masashikomeda.com/web/2010/09/cvdiary_drsuma.html
です。
関心がおありの方は本HPの心筋症・心不全の項目などもご参照ください。

それから患者さんの声にも新しい記事をUpしました。イギリスはスコットラ

ンドから名古屋まで手術に来て下さった患者さんからのお便りです。
http://www.masashikomeda.com/web/2009/05/post-00b2.html
からお入りください。

それでは皆さま、ご自愛のうえ、残暑を楽しんで下さい。

2010年9月9日

敬具

米田正始 拝

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テレビ映画「外科医・須磨久善」を拝見して

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9月5日の夜、テレビで「外科医・須磨久善」が放映されました。

須磨久善先生は昔から敬愛する心臓外科の大先輩であるため、その歩んで来られた道は私にとって初めてのことではありませんでした。

しかしあらためて心に響くものがありました。

 

胃大網動脈を用いての冠動脈バイパス手術バチスタ手術を日本で最初に行われたこと、

その後それをさらに発展させられたことなど、

いずれも日本の心臓外科が世界に誇れる立派な業績です。

私自身、バチスタ手術セーブ手術をはじめとする左室形成術の共同研究でも大変お世話になりました。

 

しかし私をそれ以上に動かすのは、

医師の進む道、外科医の歩み方を、これまでにない形で示して下さったことにあります。

テレビでもそれがある程度うかがえたのは幸いでした。

 

須磨先生が医者の新しい生きざまを見せて下さるまでは、

大学で矛盾に耐え我慢を重ねて業績を積み、教授になるのが医者が一番光る道のように思われていました。

もちろん教授には教授ならではの社会貢献や喜びがあるのは私自身の経験でもよく理解できるのですが、

須磨先生が示されたのは多くの大学教授さえ認める外科医の誇り高い姿でした。

 

それは病気の本態を追求する研究マインドであり、

手術テクニックを突き詰める職人気質でもあり、

それ以上に患者を預かる医師という職業に対する誇りと畏敬の念であったと思われます。

当然の結果として患者中心というスタンスは徹底しておられ、

ひとりの人間が組織の歯車として動くという水準を遥かに超えた、医師人生とはかくあるべしというべき姿でした。

 

心臓外科という領域の仲間には敬愛すべき方が少なからずおられます。

手術の技量、医療への情熱、患者を助けるための溢れるばかりのエネルギー、タイプはさまざまですが、立派な方が少なからずおられます。

しかしその中で須磨先生が突出しているように思えるのはその哲学や姿勢を含めた全体像でしょうか。

たとえば後輩の良い点を見逃さずに評価してくれるとか、優れたものを見抜けばサポートする、人生いかに生きるべきかという問いへの大きなヒントを持っておられる、などの姿勢・ひととなりですね。

そして困難な中でも何とか解決策を見出す問題解決能力でしょうか。後輩の私が申すのも僭越ですが。

 

個人的な話で恐縮ですが、数年前、私が京大病院を去るかどうか考えているとき、須磨先生に相談したことがありました。

京大教授の立場でできる社会貢献が多くある、どんな我慢をしてでも大学に留まり、時が来ればまた全力を上げて頑張れ、今は耐えよ、という答えでした。

私は大学教授であることよりも手術で患者を助ける意義のほうが遥かに大切と確信し、

須磨先生のように民間の医療現場で精いっぱい患者さんを救命するのが筋と思っていただけに悩みました。

結局教授よりも手術を選択しましたが、そうしなければ一生後悔したものと思います。

 

当時、多くのサポーターの方々、たとえば2万5千を超える署名を集めて下さった患者さんたちや激励を下さった医師や医療者の方々、

あるいは立場上公には支援できずとも静かに支えてくれた方々、

家族や生活を守るために私に反対せざるを得なかった人たちにさえ、

今も感謝していますが、

その中でも須磨久善先生のご厚情は今も忘れられないものがあります。

 

医療崩壊が叫ばれてすでに時間が経ちます。

状況は悪化の方向にあります。

しかし須磨先生が示された外科医の生き方の中に、医療崩壊の解決策が見えると私は思っています。

もちろん仕組みとして改革すべきことは多々ありますし、個人でできることに限界はありますが、

それでも従来のパラダイムにこだわらぬ、医師のなんたるかを理解した須磨先生の生きざまには医療を変えるものがあると思います。

 

テレビ映画・外科医須磨久善を見てどこか清々しい気持ちになりました。

また力を頂いたような気が致します。

 

平成22年9月6日

米田正始  拝

 

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