第二回豊橋ライブ・TAVIコースにて

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第二回豊橋ライブに参加して参りました。

 

技術の伝承をメインテーマとした実際的な勉強会研究会で、おもに内科の会ですのでPCI(冠動脈のカテーテル治療)が中心ですが、最近の流れのなかでTAVI(TAVR、カテーテルで行う大動脈弁置換術)のセッションもまる一日あり、それに参加しました。

 

豊橋ライブ2012TAVIの会場では、大動脈弁の解剖整理から始まり、心エコー、外科治療の現状とTAVIへの期待、バルーン大動脈弁形成術、TAVIの総論、Sapien弁とCore Valveの使い分け、Transfemeralアプローチ、Transapicalアプローチ、合併症や対策、コメディカルの役割などが半日かけて論じられました。

いずれも基礎から応用までをきちんとまとめられた聴きごたえのあるものでした。

 

Massyの林田健太郎先生の見事なオーガナイズによるものでした。

林田先生ご自身の講演、さまざまな合併症と対策も実に示唆に富む、貴重な内容の連続でした。

 

東京ベイ・浦安市川医療センターの渡辺弘之先生(最近、榊原記念病院から異動されました)のエコーの講義は圧巻でした。

高齢者などの重症ASの手術適応のなかで、こんなになるまで放置するほうが問題と、すばり本質を突く鋭い内容でした。

 

私の担当は外科治療の現況とTAVIに期待するものでした。

 

大動脈弁狭窄症ASは高齢化社会のため増加の傾向にあり、患者さんの重症化も進んでいます。

その中で死亡率や合併症を最小限に抑える努力をして成績を予想死亡率の3分の1近くまで下げているところをご紹介しました。

そうした中で全身状態が悪い患者さんとくに超高齢の方を中心にTAVIが役立ちそうなお話しをしました。

 

また生体弁での大動脈弁置換術AVRの患者さんで、将来再手術が必要になったとき、TAVIによるバルブインバルブつまり新しい生体弁を古い生体弁の中で広げることは、患者さんにとって大きな福音になることをお話ししました。

そうした考え方をすでに治療方針に組み込み、大動脈弁形成の患者さんでも、生体弁AVRの患者さんでも、将来必要におうじてTAVIの恩恵が受けられるような心臓手術を現在すでに行っていることをお示ししました。

 

そしてSutureless valveつまり手術中にTAVIのように入れる方法の良さをご紹介しました。PARTNER試験という臨床研究で、超ハイリスク例ではTAVIと外科AVRの成績に差があまりないことが示されましたが、今後外科がさらに良い仕事ができる可能性が示唆されたわけです。

 

ランチオンでは豊橋ハートセンター・名古屋ハートセンターの大川育秀先生の司会で、榊原記念病院の田端実先生がASの治療戦略をハートチームの観点から話されました。

田端先生は心臓血管外科の若手のホープでTAVIを含めたMICS手術で活躍中の先生です。

 

この中でTAVIのあとはPLVつまり隙間からの血液の漏れが起こるケースが多く、しかもその漏れが軽度でも患者さんの生存率が下がるというデータが紹介されました。

 

私もこの研究には注目していたため、少し討論に参加しました。

まだまだ外科のAVRは患者さんの役に立つとあらためて思いました。そのためには外科の治療成績をさらに向上させることが大切で、その観点で上記の Suturelessバルブはこれから期待できると思いました。

 

午後にはビデオライブが2つあり、1つはTransapicalアプローチ(小さく左胸を開けてそこからTAVIを行います)、もうひとつはTransfemoralアプローチ(下肢の付け根の動脈からTAVIを行います)の実例でした。

小倉記念病院の白井伸一先生や川崎市立川崎病院の古田晃先生、昭和大学藤が丘病院の若林公平先生ら熱い若手のディスカッションが良かったと思います。

すでに大御所の渡辺弘之先生はここでも存在感のあるコメントをして下さいました。

 

私はTransapicalアプローチの方のコメンテーターのひとりでしたので、外科の観点からさまざまな議論をさせて頂きました。

倉敷中央病院の小宮達彦先生と田端先生そして私と外科系が3名参加していましたので活発な論議ができ、Transapicalアプローチの問題と解決が比較的まとまったように思いました。

出血がきれいに予防あるいはコントロールできればこの方法は安全で応用範囲も広く、患者さんに益するものであるとあらためて実感しました。

 

一日中TAVIばかり議論した最後の締めくくりは「ハートチームの構築」のシンポジウムでした。

それぞれの施設でこのハートチーム作りのためにどういう努力をしているかが紹介されました。

 

私たち名古屋ハートセンターでは毎朝、循環器内科と心臓血管外科の医師および一部コメディカルが集まり、親睦や密な連携をかねた症例検討を行っていることをご紹介しました。

以前からこうした会を開きたく思っていましたが、事情あって計画倒れでとどまっていました。

構造改革が実ってようやくこの4月から実現したもので、ようやく先進的な施設の先生方と一緒に議論できるレベルになって少しうれしく思いました。

 

休憩時間ほとんど無しの充実した一日を終えて、豊橋ライブはめでたくお開きになりました。

鈴木孝彦先生や関係の皆様方に厚く御礼申し上げます。

 

平成24年5月26日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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TAVRに関する治療ガイドラインや位置づけ・方向性

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TAVRでもちいる弁のひとつです本格的なTAVR(別名TAVI)のガイドラインはまだこれからですが、それに準ずるものとして、ヨーロッパのデータ(2008年)からつぎの状態の患者さんにはTAVRはやってはいけないと考えられる項目があります。

1.    大動脈弁輪径が18mm未満か25mmを超えるとき。バルン(風船)で押し広げるタイプのTAVRの場合です。

2.    大動脈弁に非対称性に高度の石灰化があり、TAVRによって冠動脈を圧迫する恐れがあるとき

 
3.    大動脈基部のSTJ径が45mmを超えるとき(自動展開式デバイスの場合)
 

4.    左室内血栓があるとき

5.    二尖弁(大丈夫とするデータもあります)

6.    経大腿動脈アプローチの場合: 腸骨動脈に高度石灰化があったり、曲がりくねるとき、直径が6-9mmより小さいとき、あるいは大動脈―大腿動脈バイパスの既往があるとき

7.    経心尖部アプローチの場合: パッチをもちいた左室形成術の既往があるとき、心膜の石灰化、高度の呼吸不全、左室心尖部にアクセスできないとき

このようにTAVRは将来性はあるものの、まだまだ多くの合併症、危険性、課題があり、自由に使って良いというものではありません。

それを踏まえて、日本でも施設基準が現在検討されており、正しい適応と正しい方法で、それも熟練したチームでこのTAVRが患者さんの役に立つ治療となるよう、努力が続けられています。

バルン(風船)で狭い弁を広げる治療法は一時的な改善が図れます
ここまでのEBMデータから、大動脈弁狭窄症 ASの治療全体を通じての現在の考え方はつぎのとおりです

現時点での治療の選択肢としては

①適度の運動や塩分制限その他の食事療法、生活指導

②お薬

③バルン(風船)カテーテルにより大動脈弁を広げる治療

④カテーテルによる大動脈弁植え込みTAVR

⑤外科手術によるAVR

現在まで、外科手術のときにもちいる代表的な生体弁です。長期のデータが確立しているのも利点ですなどがあります。これらを整理すると現時点ではつぎのようになります。

なお将来は⑥外科手術時におこなうTAVR(いわゆるSutureless valve、縫わない弁) が加わりさらに成績が上がるでしょう。

さらにTAVRも従来の大腿動脈経由や心尖部経由以外に、上行大動脈経由やその他の動脈経由などの方法が開発され、選択肢が広がりつつあります。

 

1.    外科手術による大動脈弁置換術AVRが症状のあるASの患者さんには中心的治療法です。これによって症状は改善し、長生きしやすくなります

2.    経皮的バルン大動脈弁形成術は治療時に10-20%の危険性があり、かつ血行動態や臨床的な改善も一時的ですし、長期の成績も薬による治療と大差ありません。

3.    そのため経皮的バルン大動脈弁形成術はAVRの代わりにはならず、おもに弁の石灰化がない若い患者などに使えます

4.    TAVRは症状の強いASで外科的AVRが危険すぎる患者さんに対して使えます

5.    強い症状があり、外科的AVRができないようなASの患者さんの中にはTAVRで従来治療(つまりお薬やバルンなどによる治療)より優れた成績が期待できます

6.    強い症状があるASの患者さんではTAVRと外科的AVRは同じ1年生存率が得られますが、TAVRのほうが大きな合併症が多く、外科的AVRでは出血や心房細動が多いという弱点があります

7.    そこでこうした患者さんの治療では内科外科などをあわせた心臓チームでの治療が勧められるわけです

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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TAVR(経皮的大動脈弁植え込み術)のパートナートライアルとは?

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Ilm18_ad04017-sはじめに、

TAVRとはTranscatheter Aortic Valve Replacementの略称で、これまでTAVI (Transcatheter Aortic Valve Insertion)と基本的に同義語です。

アメリカ等の保険の事情で最近はこのTAVRという言葉が使われるようになっています。

 

さてTAVRは急速に進化を遂げ、当初は外科的な大動脈弁置換術AVRができない症例に限定して行われていましたが、

成績が年々改善したため次第に「普通の」ハイリスク例にも使われるようになってきています。

この2つの治療法の成績が出つつあります。

 
それがパートナー臨床研究(PARTNERトライアル)で、このコホートAからの解析が2011年にNEJMから発表されました。

それによれば699名の患者をTAVRとAVRに無作為に振り分けられました。

1.    まず術後30日死亡率がTAVR3.4%、AVR6.5%(p=0.07)、1年でも24.2%と26.8%と差がない

2.    脳梗 Ilm17_aa02001-s塞やTIAは術後30日でTAVR5.5%、AVR2.4%、1年で8.3%と4.3%で外科AVRの方が良い。

大きな脳梗塞でも同様の傾向が見られた。

3.    症状の改善は術後30日ではTAVRのほうが良いが1年では差はなかった

4.    血管の合併症ではTAVR11.0%、AVR3.2%と外科AVRが良かった

5.    出血ではTAVR9.3%、AVR19.5%、心房細動の発生でも8.6%と16.0%と、いずれもTAVRの方が良かった

総じて、ハイリスクの患者ではすでにカテーテルによるTAVRは外科AVRに匹敵する生存率を達成しているが、脳梗塞ではまだかなり劣っているということでしょう。

この結果を踏まえてTAVRでは脳梗塞を防ぐ網状のデバイスが開発され成績改善が期待されます。

こうしたデバイスはかつて外科でも開発されましたが、成績が安定せずすたれた経緯があり、一層の努力が求められるでしょう。

 

外科AVRでは出血や合併症の減少を進める努力がなされています。

たとえば外科AVRでこれまでの人工弁を弁輪に縫い付ける作業を止めて、その視野でカテーテルによる弁置換を行えば、脳梗塞が少ない状況はそのまま維持しつつ、これまでより短時間で手術が終わるため合併症が減ります。

これをSutureless valveと呼び、欧米では臨床試験が進んでおり、成績の改善がみられています。

日本ではまだ時間がかかりそうです。いわゆる drug lagと言われる、行政がゆっくりなので認可が遅いのです。

外科 113の立場からさらに言えば、ヨーロッパのデータは死亡率も出血も脳梗塞もやや多いように思います。

大動脈遮断部位の適正化や縫合閉鎖部の徹底強化を行っている私たちから見ると外科の成績はさらに上がるものと感じています。

もちろんどういう患者さんを手術するかで結果は異なりますから、その慎重な検討は重要ですが。

 

ともあれTAVRとAVRのうまい活用・使い分けで今後は治療成績がさらに改善し、患者さんにとって朗報となるでしょう。

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