これからこどもを産みたい患者さんにーーー妊娠・出産に合う心臓手術 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.妊娠・出産に合う心臓手術とは?

それは弁膜症や心不全を残さず、かつワーファリンなどの薬を不要にする、そうした手術です。
以下、順々にご説明します。

重い弁膜症の女性患者さんにとって妊娠や出産は現在でも大変なことです。

というのは弁膜症を手術で直さずに妊娠に至れば心不全などで母子共に危険な状態になる恐れがありますし、もし心臓手術することになり、
弁置換つまり人工弁でご自分の弁を取り換えることになれば、別の意味で将来の妊娠も出産も大変危険なことになるからです。

2.人工弁が妊娠出産に支障を来す理由は

機械弁つまり金属の弁を使った場合ではワーファリン(血栓を予防するお薬です)が不可欠ですが、そのワーファリンが胎児の奇形を引き起こし、かつ流産することが多いからです。母体のいのちの危険さえあるのです。
かといって生体弁つまりウシやブタの材料から作った弁は赤ちゃんの発育のためもあって短期間に壊れてしまうのです。年齢や状況によっては生体弁が5年も持たないことがあるほどです。そうなると次の心臓手術が必要になり、再手術ゆえ危険性が高くなります。

そこで弁形成の意義が大きくなるわけです。

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3.弁形成の利点は

弁形成がきれいに決まれば、妊娠や出産の時期はもちろん、若い10代から30代の患者さんでも長持ちし、生体弁よりも永い間、うまく行けば何十年も弁として活躍できる可能性があるのです。
しかも多くの場合ワーファリンなしで。赤ちゃんがお腹の中にいる時でも、弁形成なら患者さんご自身の弁ですので急に硬くなるとか石灰化するなども少ないのです。

言葉を変えれば、きちんとした弁形成ができるかどうかが、その女性患者さんの妊娠と出産の可否を決めるのです。その患者さんの人生を変えるといっても過言ではないのです。

そうしたことから、私たちは良い弁形成を行うことに全力を挙げて参りました。中でも将来妊娠の可能性のある女性の弁膜症手術では弁形成に執念を燃やして頑張ってきました。
そうした渾身の努力、ハートチームの底力のお陰でこれまで多数の患者さんたちの弁形成ができ、無事に妊娠出産にまで到達した方は大勢おられます。中には生まれた赤ちゃんやすでに小学生になったお子さんを外来にまで連れて来て下さった方も数名おられます。
あの時の感動は忘れられないものがあります。

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4.僧帽弁や三尖弁だけでなく大動脈弁でも弁形成

こうしたお話はこれまで僧帽弁形成術が中心でした(お便り129など多数)。
しかしこの10年は大動脈弁形成術でも同じ努力ができるようになり、より広範囲な患者さんの人生を上むきに支援できるという喜びと責任を感じています。
さらに三尖弁形成術でも同様の恩恵が患者さんにもたらされています(お便り130)。
患者さんの会のページをご参照ください)

5.そしてミックスの手術


前腋窩線MICS

また話が10代から30代(時にそれ以上の年代の方々も)の若い患者さんが中心ですので、ミックス(MICS、骨も切らず傷跡が見えにくい低侵襲手術)を使えるケースが増え、いっそう喜ばれるようになって来ています。もちろん中高年の患者さんにも喜ばれています。

5年単位で振り返れば、昔とは全然違う手術が出来ているという達成感と、今後さらに質を上げて行こうという責任感を併せ感じています。

参考

いい心臓・いい人生 【第九十五号】弁形成手術とお若い女性患者さん

重症弁膜症でこれからどうしようと悩んでおられる患者さんたちにおかれましては、老若男女を問わず、しっかり調べ、そして聞いたり問い合わせたりして情報を集め、前向きに熟考いただければと思います。私たちも及ばずながらお手伝いさせて頂きます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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