最終更新日 2025年9月15日
<目次>
1. 妊娠・出産に合う心臓手術とは?
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妊娠・出産を希望する女性にとって、心臓手術の選択は非常に重要です。
理想的なのは、弁膜症や心不全を残さず、かつワーファリン(抗凝固薬)を使わなくて済む手術です。
心臓の弁膜症を放置して妊娠すると、心不全が進行し母子ともに命の危険が高まります。
一方、弁置換術(人工弁)を選んだ場合も、妊娠・出産に大きなリスクを抱えることになります。
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2. 人工弁が妊娠・出産に不利な理由
機械弁(金属弁)
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- ワーファリンが必須
- ワーファリンは胎児に奇形や流産のリスクを高める
- 妊娠中も母体の命に関わるリスクあり
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生体弁(ブタやウシ由来の弁)
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- ワーファリンは不要
- しかし若い女性では耐久性が短く、5年以内に壊れることも
- 再手術が必要になると、妊娠出産どころか再手術自体のリスクも増える
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👉 つまり「人工弁」は妊娠を希望する女性には不利なのです。
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3. 弁形成術(修復術)の利点
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ここで大きな意味を持つのが弁形成術です。
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自分の弁を修復するのでワーファリン不要
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生体弁よりも耐久性が長く、数十年持つケースも
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妊娠中も弁が急に硬化・石灰化する心配が少ない
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妊娠・出産を安全に迎えやすい
実際、私たちのチームでは、弁形成術を受けた多くの女性が無事に出産を経験し、その後も元気に育児・仕事を続けておられます。
外来にお子さんを連れて来られる患者さんもおられ、医療者として大きな喜びです。
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5. 低侵襲手術(MICS/ミックス)でさらに安心
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対象となる患者さんは10代~30代の若い世代が中心です。
この世代では美容面・早期社会復帰の希望が強いため、私たちは**MICS(ミックス:骨を切らない低侵襲心臓手術)**を積極的に採用しています。
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傷跡が目立ちにくい
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術後の痛みが少ない
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早期に仕事や家庭生活に復帰可能
医学的にMICSが不適な場合でも、痛みの少ない胸骨正中切開の工夫を用い、同様のメリットを得られるよう配慮しています。
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6. メッセージ
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過去10年で、妊娠・出産に対応した心臓手術は大きく進歩しました。
「弁膜症があるから子どもをあきらめなければならない」――
それはもう昔の話です。
妊娠・出産を望む女性患者さんには、**弁形成術+低侵襲手術(MICS)**という選択肢があります。
どうか一人で悩まず、まずはご相談ください。
私たちは、患者さんと赤ちゃんの未来を守るため、全力でサポートします。
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参考
いい心臓・いい人生 【第九十五号】弁形成手術とお若い女性患者さん
重症弁膜症でこれからどうしようと悩んでおられる患者さんたちにおかれましては、老若男女を問わず、しっかり調べ、そして聞いたり問い合わせたりして情報を集め、前向きに熟考いただければと思います。私たちも及ばずながらお手伝いさせて頂きます。
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患者さんの声はこちら
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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