最終更新日 2020年3月4日
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◾️心臓手術に心カテーテル検査は必要?
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心臓血管の手術の前に心カテーテル検査(右図)は必要ですか?と、よく聞かれます
お答は:ケースバイケースですが、病気によっては不必要な場合も多いです。
その理由は次の通りです。
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◾️冠動脈疾患の場合
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狭心症・冠動脈疾患でバイパス手術(左図)を受けられる患者さんでは、
冠動脈をすみずみまで正確に把握しておくことが治療上きわめて重要かつ有用です。
なので心カテーテル検査の中の冠動脈造影にて十分な情報が得られますので、術前にこの検査を行うわけです。
細いくだが使えるため、手の動脈から入れる場合が多く、その場合は検査直後から歩くことができ、苦痛も少なくてすみます。
私たちの施設では熟練した循環器内科医がカテーテルを行いますので、安全性も高く比較的快適といえましょう。
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◾️弁膜症や心筋症などでは?
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弁膜症や心筋症あるいは胸部大動脈疾患の患者さんの場合は異なります。
冠動脈に病気 がないかどうか未然にチェックしておくだけであれば、
現在は MDCT (右図)という、高性能CT検査で、苦痛少なく直径1mm弱の血管まできれいに調べることができますので、術前の心カテーテル検査は不要になります。
もしMDCT検査で冠動脈に病気が見つかれば、安全のためにバイパス手術などを術中に併用することがあり、カテーテルにて冠動脈造影を行うことが多いです。
病気があり、それを治す分だけより元気になるわけですし、
患者さんもこうした場合の心カテーテル検査には納得・満足されることが多いです。
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◾️お若い患者さんの場合は?
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また若い患者さんなどで、放射線被爆量を少しでも減らすために、患者さんと相談の上、前向きな意味で心カテーテル検査をおこなうことがあります。
熟練した循環器内科医の先生方がされればMDCTより少ない被爆量で、しかも短時間で検査は完了しますし、上記の細いくだを腕から入れれば検査後も楽です。
心機能や心不全の状態は、現在の高精度の心エコーと、MDCTでの左室造影、そして必要に応じてMRI検査などの画像診断技術によって細部までわかります。
弁の逆流も、造影剤を使わない、より自然な状態で、苦痛なく、必要なら時間を追って繰り返し検査も安全にできますので、こうした画像診断を活用しています。
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◾️心不全がらみでは?
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最近増えた心不全やそれによる弁逆流では、心エコー等によりそのメカニズムの詳細に迫る情報が得られることが多く、この意味からは心カテーテル検査をすでに凌駕しているとも言えましょう。
とくに心エコーは機動力にも優れ、エコロジーの視点でも優れた方法ですので、
手術室から入院中、外来、さらに遠方から来られた患者さんではその地域でも使えるため重宝しています。
欧米や日本のトップ学会が作成しているガイドラインも、心エコーのデータを基本にして造られているほどです。
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しかし術前に強い心不全や肺高血圧症、あるいは右心系疾患がある患者さんの場合は、安全のため右心カテーテル検査を行うことがあります。こうした患者さんでは心エコーではわからないことがカテーテルでわかることが多いです。
これは静脈から入れるため、検査後の止血も短時間で済み、患者さんも比較的楽です。
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◾️心臓手術後の心カテーテルは?
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術後は、通常は心カテーテル検査は不要と考えています。例外として冠動脈バイパス術後にバイパスや細かい枝の状態を確認するために検査することはときおりあります。
その他、稀な病気などを中心に何かとくに確認しようとか、念のためにポイントを絞って調べるなどのケースはまれにありますが、
すべて患者さんの納得を頂いてから行っています。
ということで、冠動脈疾患以外の多くの場合、術前には心カテーテル検査は不要と考えています。
ただ内科の先生方がケースバイケースで患者さんのために有用と判断され、心カテーテル検査を前もってやって下さった場合は、
その情報も積極的に活用し、努力の無駄がないように配慮しています。
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◾️総じて、、
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私たちの基本姿勢として、どれが良いとかどれが劣るという偏狭な議論ではなく、
それぞれの検査法の特長を活かし、
こだわりなくケースバイケースでその患者さんの治療に役立つ検査は行い、
やらなくても良い検査はいざという時のために温存して使わない、
というスタンスで臨んでいます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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