お便り16 マルファン症候群の患者さん

Pocket

Sakura_b患者さんは約30歳の女性で、

僧帽弁閉鎖不全症のためハートセンターへ来院されました。

以前からマルファン症候群(結合組織・弁や血管が弱くなります)のため僧帽弁が壊れ、他病院で手術を受けられましたが治らず、

このままでは心不全が進んで危険なので、ちかぢか弁置換手術(機械弁という金属製の人工弁で弁を取りかえる手術)を予定されていました。

 

しかし弁置換手術を受けると、一生涯ワーファリン(血栓予防のお薬)を飲む必要があり、

赤ちゃんの奇形を誘発する薬なので妊娠や出産はもうできなくなります。

そこで弁形成手術をしてくれる病院を探して私のところへ来られました。この手術は患者さんの命と人生を守る闘いという感があり患者さん・ご家族を含めたチーム全員で努力しました

 

私の経験ではマルファン症候群の患者さんの僧帽弁は弁が全体的に悪くなっているケースが多く、

一流の病院でも治せなかったほど「壊れた弁」でしたので、手術はさすがに複雑な弁形成となりましたが、

さまざまなテクニックを駆使して無事に完遂できました(心臓手術事例)。

手術の直後、結果をお話するときにご家族だけでなく私まで泣きそうになってしまったのは不覚でしたが、

それほど感慨深いものがありました。

自分が弁形成手術を長年勉強し取り組んで来たのはこうした患者さんたちのお役に立つためだと改めて想ったからです。

 

患者さんは手術のあと、どんどん元気になられ、まもなく退院して行かれました。

今は外来などで時々お会いするのが楽しみです。

 

マルファン症候群の患者さんは全身の結合組織たとえば血管や骨や眼の一部などが弱くなることがあるため、

外来でも心臓だけでなく全身に気をくばりながら、定期健診していく予定です。

 

以下はその患者さんからの御礼のお手紙です。

**********************************

 

この度は米田先生はじめ**先生、**先生そして担当して頂いた看護師の皆さまに心より感謝申し上げます。現在はとても元気になり、わんぱく盛りになった1歳半の息子を追いかける日々で、楽しく過ごしています。

2008年10月、私は毎日毎日泣いて過ごす日々を送っていました。

ある総合病院での2度目の手術が決まり、1度目は形成術でできましたが、2度目は90%機械弁の弁置換だと言われ、今後の人生がお先真っ暗になり、どう出産や子育てができるのか、不安に押し潰されそうでした。

そんな時、米田先生のホームページを偶然にも見つけ、10月に開院したばかりの名古屋ハートセンターの存在を知り、かじりついて読みあさり、気がついた時には病院を変えたい気持ちがとても大きくなっていました。

そして翌日には、主人と病院へ向かい経緯をお話しました。私自身、当然主人もそうですが、あと2週間後に迫った総合病院での手術を変えるなんて思いもよらない事で、実際家族からは不安な声もありました。

けれど、主人も私も先生にお会いして不安どころか”手術”という現実は変わらないのに、とても明るい気持ちとなり、そればかりか嬉しくて嬉しくて、小さな息子と三人で喜びの涙を流しました。あの日、私の心臓のエコーを見ながら「形成術はできますよ」と簡単に言われた事にビックリしたのと、変な言い方ですが、正直ワクワクしました。

今はどういう状態で、手術では何をどうするのか、、、手術が決まっている病院に対しての丁重な対応など、たくさんの話を冗談まじりに、でも真剣に、そして家族のように私の話を聴き、知って、説明して下さいました。

その安心感は、これから手術を受ける私にとって、なくてはならない気持ちだったように思います。そしてその温かい支えは病院嫌いの私にとって初めて味わう気持ちでした。あれだけ後ろ向きな気持ちが180度転換してしまった自分に驚き、「手術ということに変わりはなかったものの、本当に前向きに明るい気持ちで手術を迎えられた」事、感謝しております。

術後も回復は早く、入院生活も楽しく過ごせました。とても早く家に帰る事ができ、今ではキズもほとんど目立つ事なく、ファッションを楽しんでいます。

これからも長いお付き合いとなりますが、助けていただいた命を大切に楽しく生活をして行きたいと思っています。

本当にありがとうございました。

 

***************************

あれから4年が経ちました。

この患者さんには無事二人目のこどもさんが誕生しました。

妊娠中も一人目のときよりずっと楽で心不全もなく、順調だったようです。

2013年3月の定期健診外来に赤ちゃんとご夫婦の三人で来られました。

努力が実った、と共に喜び合いました。

何物にも代えがたい、感動のひとときでした。

 

 

患者さんからのお便り・メールへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。