4) バチスタ手術とは?―奇跡の手術となり得ますが時と場合を選ぶ必要が

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◾️バチスタ手術とは?

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拡張型心筋症に対する左室形成術の一つです。

この拡張型心筋症は内科治療での予後(お薬などで治療する場合の長期生存率)が厳しいにも拘わらず長い間、効果的な手術法がありませんでした。

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Dr. R Batistaところが1990年代にブラジルの畏友・バチスタ先生(左写真)が心臓の一部を切り取って小さくすることで元気な心臓に戻るという、有名な「バチスタ手術」を開発・発表されてから拡張型心筋症は手術治療の対象になりました。

バチスタ先生は物理学者でもあり、物理学で左心室の一部を切り取り、その直径を小さくすると、左心室の壁にかかる張力が軽くなることを、物理学・ラプラスの定理から知っておられたのです。実際、手術で元気に回復する患者さんが少なくありませんでした。

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◾️バチスタ手術の限界

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しかしバチスタ手術 (正式には左室部分切除術 partial left ventriculectomy と呼びPLVと略します)では当時は効果が一定ではなく、予測がつきにくいという問題のため、まもなく廃れてしまいました。

またアメリカでは現在、健康保険が出ないこともあって 114129862この手術 はほとんど行われていない状況です。それ以上に欧米では重症心不全は補助循環(つまり人工心臓)ついで心移植という道が広く、この手術に頼る必要が少ないという事情もありました。

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日本では須磨久善先生がこの手術を導入・改良され、一定の評価を受けるようになりましたが積極的に取り組んでいるのはごく一部の施設のみと言われています。

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◾️バチスタ手術は使い方が大切

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このバチスタ手術はそれを必要とする患者さんに、正しく行えば大きなメリットがある手術です。私たちはこれを守り、手術成績を良くし、さらに安全なものにすべく努力しています。

詳しくは以下の改良型バチスタの項目をご覧ください。

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Q: バチスタ手術の改良型(変法)とは?

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故 Torrent Guasp先生。スペインの解剖学者で心臓は一本の筋肉ベルトからなっていることを示されましたA: 私どもは左室形成領域の先人のお仕事を活かすべく須磨先生や故Torrent-Guasp先生(左写真)はじめ欧米の先 生方と連携を図りつつ、臨床検討のみならず動物実験で拡張型心筋症を作って、このバチスタ手術の更なる改良に取り組んで来ました。

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従来の手術法では心尖部を切り取ることが多く、その時の左室の形には構造上無理が感じられ、手術後の心機能も必ずしも予想どおりにならず、当たり外れがあるという印象をヨーロッパなど海外の仲間たちも感じていました。

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そしてこれまでのバチスタ手術より 朝日新聞バチスタ報道b数段安定し優れた成績を出すバチスタ手術改良型あるいは変法の開発に成功し2002年のアメリカ胸部外科学会でこれを発表しました(下図)

拡張型心筋症・事例1事例2。)

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このバチスタ手術改良型では左室の心尖部、つまり左室の先端部分を切除せずに温存します。心尖部が心臓構造の中で重要な要の役割をもっているというTorrent-Guasp先生のライフワークを手術に応用しました。

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アメリカ胸部外科学会総会(AATS)にて発表した私たちのバチスタ手術変法のスライドです左で左端と右上の図は心尖部を切除する従来のバチスタ手術の絵です。クリーブランド・クリニックの先生方が報告されたときの絵です。右下は心尖部を守る、私達の方法を示します。

つまりクリーブランド・クリニックの先生方が良くないと判断されたバチスタ手術とは心尖部を切除する従来のタイプの手術法だったわけで、私たちの新しい方法なら心配は少ないわけです。

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実際、手術中に左室の形がきれいになり、いかにもスムースに力が発揮できる、そういう印象を強く持ちました。

Guasp先生は他界されましたが、そのコンセプトは私たちの中に生きており、また彼のお弟子さんであるMladen先生らと協力してさらなる発展が図れればと考えています。

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Q: バチスタ手術の改良型(変法)、これまでの実績は?

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これまでに13人の患者さんに使用し、ほぼ全員元気にされています(複数の左室形成術とその他手拡張型心筋症の左心室は単に大きく拡張するだけでなく、形が丸くなります。左心室にとって丸い形はパワーの上で不利であることが知られています術を要した超重症の高齢患者さん一人を例外として)。 Journal of Cardiac Surgery というアメリカのジャーナルに掲載されました(英語論文243番)。その後また一人の患者さんを救命できました。

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心臓移植はドナーの不足のためにあまりチャンスがありませんので、バチスタ手術変法 (改良型)はこれから多くの患者さんたちの命を救うものと期待されています。

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旧ユーゴなど東ヨーロッパでは予算等の制約から心移植がまだ未発達で、バチスタ手術への期待が以前からあり、この改良型を教えたところ、使える、術後の立ち上がりが良いというご意見を戴きました。

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近年、テレビ・映画の「医龍」や「チーム・バチスタの栄光」でようやく多くの一般の方々の関心を集めるようになったバチスタ手術ですが、現実に安全に患者さんの役に立つ手術になりつつあるわけです。

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注意点は左室が拡張障害(筋肉が硬くなっている)を起こしているケースでは手術後も心不全が治りにくいことです。逆に左室の拡張が高度な患者さんでは重症でも元気に回復できる可能性がかなりあります。

また肺高血圧症をお持ちの患者さんも、この手術は慎重に計画する必要があります。

逆にそれらをクリアーできるときは手術の威力が発揮できるとも言えましょう。

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ヨーロッパの一部でもバチスタ手術を見直す気運が生まれています。とくに60歳を超える患者さんの場合は移植の適応からも外れ補助循環(人工心臓)のリスクも高くなるため、一層バチスタ手術の意義は大きいと考えています。

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6629578メモ1: バチスタ先生とは学会等で何度もお世話になった友人というより大先輩ですが、面白いことに著者の第二の故郷とも言えるトロントで研修を受けられた研修の先輩でもあります。

良いものは良い、悪いものは悪いと、クールに判断し、実質を追求する、竹を縦に割ったような人柄は付き合っていて最高に面白い、そういう方です。

ブラジルのジャングルの中で、お金もなく、高価な器械もなく、それでも患者さんを助ける、地に足をつけた先生です。

それだけにこの先生からは多くを学ばせて頂きました。

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メモ2: バチスタ手術が国際舞台に初めて Dr. J Cooper登場したのは1990年代の半ばごろです。

そのときのアメリカ胸部外科学会(略称AATS)でセントルイスのJoe Cooper クーパー先生が肺の縮小手術を発表されたとき、「私は心臓の縮小手術をやっています」とある先生が立ち上がりスライドを見せられました。

それがあのランダス・バチスタ先生だったのです。

私はそれまでも左室形成術をトロントのDavid先生らとともにちからを入れて来ましたので、すぐなあるほど!と感心し、それからこのバチスタ手術を研究し始めたのでした。

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それから私がメルボルンに移動し、動物実験を繰り返しているうちにこの手術は日本でも話題となり臨床の場に登っていきました。

そのころ、アメリカ心臓協会AHAでバチスタ先生が特別講演され、心臓外科の新しい幕開けとも言えるほどのインパクトで、1000人近い聴衆は総立ちになり拍手が鳴りやまなかったのを今も覚えています。

やり方、使い方によっては奇跡の手術となる、それがバチスタ手術なのです。


1998年に帰国してから、すでに先行してバチスタ手術の実績を積んでおられた須磨先生らのご教示をいただきながら、より科学的にこの手術を改良して行きました。それが次のバチスタ手術改良型です。

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メモ3: バチスタ手術をはじめとした 心不全の手術でつらいことは、患者さんが全身衰弱してから心臓外科へ来られることが多いことです。

もちろん常に全力を尽くすのですが、全身の余裕がある状態での手術ならもっと安全に快適に進むのにと思ったことがあります。

とくに肝臓が悪くなってからの手術はそれだけ厳しい状態となるため、それまでに治療を始めることができれば、患者さんにとってのメリットは大きいものと考えます。

まずは遠慮なく相談して下さい!

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メモ4: 患者さんの想い出

バチスタ手術の患者さんにもまた忘れられないケースが多々あります。

三重県から当時奉職していた京大病院に来て下さったAさんはまだ30代の若者でした。

拡張型心筋症のため心不全が発生、苦しくて仕事ができなくなり、入院と退院を繰り返す生活が続きました。

このままでは生きている意味がないと考えるようになったAさんは意を決して私の外来に来られました。

左室はひどく拡張し、動きの比較的悪い部位と比較的良い部位がはっきりしていたため、これはバチスタ手術の改良型が威力を発揮する場面と判断しました。

手術では心尖部を温存し左室を丁度良い程度に小さくするバチスタ手術の改良型そのもので、スムースにできました。

術後経過は良好でまもなく元気に退院して行かれました。すっかりお元気になられ仕事復帰もしておられます。

バチスタ手術が患者さんに役立つことを実感した一例でした。以後、ほとんどゼロに近い死亡率で多数の患者さんにこの手術がお役に立つことになるのです。

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◆メモ5: 患者さんの想い出2:

Bさんは滋賀県在住の50代男性ですが、大きな心筋梗塞を患われ、左室が大きく壊れ、そのため僧帽弁閉鎖不全症も合併し、ショック状態で当時勤務していた京大病院へ来られました。

このままでは危険な状態なので、緊急手術することになりました。

大きな心筋梗塞であちこちが壊れているため、安全を確保するため時間が許す範囲でできるだけそれぞれを治すことにしました。

まず左室は左室前壁と側壁の2か所でやられていたため、それぞれにセーブ手術とバチスタ手術を行いました。

さらに僧帽弁形成術を行い、冠動脈バイパス手術を加えて左室をできる限り回復するようにしました。

三尖弁も壊れていたため三尖弁形成術を併用しました。

これらの操作のほとんどを心拍動下に行い、心臓を守るようにしました。バチスタ手術は左室を治すだけでなく僧帽弁形成術をより効果的にするために行いました。なおこのバチスタ手術は私たちが改良した心尖部温存式のもので、手術後の心機能の良さが期待できます。

大変危険な状態からのスタートでしたが、患者さんは立派に回復し、お元気に退院されました。心機能もずいぶん改善しました。

以後も外来に定期健診に通院しておられますが、タバコがなかなかやめられないご様子で、これを含めてさらに状態を良くしたく考えます。

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