最終更新日 2025年9月25日
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◆バチスタ手術とは?
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バチスタ手術(正式名称:左室部分切除術 partial left ventriculectomy, PLV)は、**拡張型心筋症(DCM)**に対する外科治療の一つです。
拡張型心筋症は、お薬による治療だけでは予後(長期生存率)が厳しいことが知られていました。その中で1990年代、ブラジルの心臓外科医ランダス・バチスタ博士が「心臓の一部を切除して小さくする」手術を発表し、世界的に注目されました。
心臓の壁にかかる張力を物理学的に減らすことで機能回復を狙うこの方法は、「奇跡の手術」として話題になり、多くの重症心不全患者さんを救いました。
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◆バチスタ手術の限界と課題
当初は大きな期待を集めたものの、従来型のバチスタ手術は「効果が一定しない」「予測が難しい」といった問題があり、欧米では徐々に行われなくなりました。
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さらに、欧米では重症心不全に対して人工心臓(補助循環装置)や心臓移植が広く普及しており、バチスタ手術の必要性が相対的に低下した事情もあります。
アメリカでは現在、保険適用もなく、ほとんど行われていません。
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日本では須磨久善先生らが改良を重ね、一部の施設で一定の成果を上げてきました。
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◆改良型バチスタ手術とは?
私たちは、従来の手術の課題を克服するため、心尖部(左室の先端)を残す改良型バチスタ手術を開発
しました。
心尖部は心臓の力を生み出す上で非常に重要です。これを温存することで、左室の形がより自然になり、術後の心機能が安定することがわかっています。
2002年、アメリカ胸部外科学会(AATS)で発表したところ、国際的にも注目を集めました。この改良型手術は、従来型より安定した良好な成績を示しています。当時の新聞・全国紙でも報道されました。
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(拡張型心筋症・事例1、事例2。)
この改良型バチスタ手術はスペインの高名な解剖学者Torrent-Guasp先生(写真)の筋束学説(心臓全体が一本の筋束からできており、心尖部がその中央に位置し機能上、極めて重要である)を臨床応用しました。
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◆実績と臨床経験
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これまでに私たちは多数の患者さんに改良型バチスタ手術を行い、ほとんどの方が元気に社会復帰されています。成果は国際的な医学誌 Journal of Cardiac Surgery にも報告しました。(英語論文243番)
また、日本だけでなく、心臓移植が十分に行われていない東欧などでも、この手術は大きな希望となっています。
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◆バチスタ手術が有効なケース
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左室が大きく拡張している重症心不全
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内科治療(薬)だけでは改善が難しい場合
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心尖部を温存できる解剖条件
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一方で、心筋が硬くなって拡張障害を起こしている場合や、肺高血圧を合併している場合は効果が限定的となるため、慎重な判断が必要です。
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◆まとめ ― バチスタ手術の未来
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バチスタ手術は「奇跡の手術」と呼ばれつつも、一部の課題により世界的には下火になりました。
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しかし、改良型バチスタ手術により安全性と効果が高まり、再び注目を浴びています。
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特に60歳以上で移植や人工心臓が適応になりにくい患者さんにとって、大きな選択肢となり得ます。
拡張型心筋症にお悩みの方、バチスタ手術にご関心のある方は、ぜひ当院の心臓外科へご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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