お便り84: 嚢状瘤に対して弓部大動脈全置換手術を

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弓部大動脈瘤とくに嚢状瘤つまり局所的にポコッとこぶになっているタイプはサイズが小さくても破裂する恐れがある病気です。

しかも症状がない場合が多く、いったん破裂すれば強い症状が出ますがその時にはすでに手術が間に合わずいのちを落とすことが多いというやっかいな病気です。

A335_009この患者さんは近くの先生の気転でCTを撮っていただき、未然に診断をつけて頂いたおかげで命拾いをしました。

普段はお元気な70代男性で、そうして弓部大動脈の嚢状瘤という診断をつけていただき、米田正始の外来へ来られました。

まもなく手術となりました。

人工血管で弓部大動脈をすべて取り換える手術(弓部大動脈全置換術)を行い、経過良好で術翌朝には集中治療室を退室され、手術後9日目に元気に退院されました。

以下はその患者さんからのお便りです。

お役に立てて本当にうれしいことです。

また私のチームの医師・看護師さんたちの名前をあげて感謝してくださり、こんなにうれしいことはありません。

また外来でお会いするのが楽しみです。

*********** 患者さんからのお便り **********

名古屋ハートセンター

米田正始 先生

このたび 1月16日に胸部大動脈瘤を手術していただいた****です。

 お陰さまで26日に退院し、日々少しづつリハビリに取り組んでおります。

 12月27日に妻ともども先生へ伺い、診察、検査の結果、早く手術したほうが良いと勧められて、迷ったのですが、先生の説明に納得して早期の手術を決断した次第です。

 手術を担当していただいた米田先生をはじめ、北村先生、深谷先生、木村先生、看護師の小中野先生、梅田先生、道木先生、病室のスタッフの方々に大変お世話になりましたこと、厚くお礼申し上げます。

 ハートセンターの取り組みは、宗田 理「いい病院」への挑戦という本が昨年春に出版されておりまして、事前に目を通しておりましたが、ご指摘通り素晴らしい取り組みをされている病院と納得しました。

 今回、***病院の**先生に病魔を見つけてもらったおかげと思っており、感謝の念で一杯ですが、手術をしていただいた「名古屋ハートセンター」の皆さんにも感謝、感謝です。

本当にありがとうございました。皆様にもよろしくお伝えください。

まずはお礼まで

平成25年1月29日

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例1 弓部大動脈全置換術 (79歳女性、ステップワイズ・アーチファースト法)

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11_2手術事例 1-1 まず体外循環で体温を冷やします。

79 歳女性でややご高齢のため脳と脊髄保護に特に注意して手術法を考えました。

矢印は弓部大動脈。

写真の左側が頭側です。

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12_2症例1-2 弓部大動脈を切開しました(矢印)。

血液が貯まっているところから奥が下行大動脈につながります。

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13_2症例1-3 弓部大動脈全置換を開始。まず第3枝(矢印A)を人工血管(矢印B)とつないでいます。

テレスコープ式プロレーン連続縫合で一気に縫いあげます。

この吻合は止血や確認も容易です。

なお吻合部はプラークのない、きれいな部位をもとめて末梢側に進み、そこで吻合します。

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14_2症例1-4 つぎに第2枝(矢印)を再建しています。

血管そのものはいじらず、もしも血管内にプラークなどのゴミがあっても逆行性脳灌流を適宜使用して洗い流し、脳梗塞等を予防します。

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15_2症例1-5 そして第1枝(矢印)をつなぎます。

逆行性脳灌流ついで巡行性灌流をもちいてエア抜きとゴミ取りを行います。

これで脳や上半身は循環再開できます。

20℃の低体温で20分台の脳虚血ですので余裕があり、術後の覚醒は良好です。

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16症例1-6 下行大動脈にもう一本の人工血管をつなぎます(矢印)。

ステップワイズ法 stepwise法を用いることで、深い場所ですが結構良く見えます。

吻合部全体を常に見ながら縫えるのは便利です。

またこの方法はステントグラフトを用いた追加治療が必要な時にも便利です。

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17症例1-7 これら2本の人工血管をつないで通常の体外循環を再開し、

心臓側の上行大動脈(矢印)とつないで弓部大動脈全置換術の完成です。

ここでもテレスコープ(望遠鏡)式の連続縫合を使います。

そのあと補強を行い止血します。十分な止血が有用です。

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18症例1-8 上行大動脈から弓部大動脈まで完全に人工血管で置き換えられ、瘤破裂の心配は消えました。

近年はこの方法をベースに、より体温を上げて、選択的脳灌流(脳を含む上半身に別回路から血液を送ります)が安全なケースではこれを活用し、スピードアップと低侵襲化(手術が短時間になるため患者さんへの体への負担が軽くなります)を図っています。

また針穴出血が少ない新型人工血管を使うことで今後一層出血が減り安全性が高まるものと期待されます

さまざまな有用な方法が使えるようになり、それらの適切な選択や併用などが重要になると思います。

これらにより弓部大動脈全置換術の成功率は95%レベルに達し、すでに安全な手術に入りつつあります。

近年急速に進歩をとげたステントグラフトを併用する、いわゆるハイブリッド手術も活躍を始めています。

 

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元・京都大学医学部教授
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