AATS 大動脈シンポジウム 2015 in Kobe

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アメリカ胸部外科学会(AATS)は心臓血管外科の領域では世界で最も権威のある学会です。その医学的水準や見識、社会的信用、倫理的正当性や自浄作用、さらには政治力に至るまで極めて高いレベルにある学会です。心臓血管外科の領域で世界中の学会のお手本になっているといっても過言ではありません。そのAATSが20年ほど前から大動脈シンポジウムを2年に1度、ニューヨークで開催するようになり、すでに歴史のあるシンポジウムになっています。IMG_1860

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この分科会を日本で初めて、アジアでも初めて、神戸にて開催されました。会長の大北裕先生とSundt先生のご尽力に敬意を表したく思います。

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記念すべき会で、発表もあったため私も参加しました。

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海外から高名な先生方が参加されたことと、国内からも近年の大動脈外科の進歩を象徴するかのように力作の演題がならび、内容が充実するとともに、日本の大動脈外科が世界からより評価されることにつながるものと感じました。

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心に残った発表をいくつか紹介します。

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まず初めに大動脈基部再建のセッションがあり、我が恩師Tirone E. David先生(Toronto大学)が基部再建のテクニックを解説されました。昔、トロントでこの方法を開発したころは大動脈弁がそう壊れていないケースが多かったのですが、成績安定とともにより重症例を扱うようになり半分の患者さんで何らかの弁形成を併用しているとのことでした。やはり基本はしっかりとしたCoaptationが大切で、とくにCoaptation Heightの確保ということでしょうか。

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弁尖の開窓は組織の弱さを示し、あまりうれしい所見ではありませんが、細いゴアテックス糸2列でしっかりと補強し、成績改善に役立っているようです。同先生はこれを20年以上昔からやっていますが、やる価値はあるようです。Yacoub法つまりリモデリング法は老人の3尖が良い適応になりやすく、二尖弁ではDavid法つまりリインプランテーションを使うとのことでした。

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LuebeckのHans-Hinrich Sievers先生はご家族のご不幸のため来日できず、スカイプをもちいたネット講演になりました。二尖弁の大動脈は解離を起こすリスクが10倍というのは実感にあう数字でした。大動脈は形成より置換が良いというのもうなずけました。面白かったのは大動脈壁が黄白色になると、それは細血管がないためで、危険なサインという観察でした。そういう眼で今後しっかりと大動脈を見ようと思いました。

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MGH(マサチューセッツ総合病院)のThoralf M. Sundt先生は大動脈基部の再手術を解説されました。心臓血管手術の中で比較的難易度の高い手術で、いろいろと注意点も多く、参考になりました。癒着が危険レベルのときには慎重なアプローチが必要で、場合によってはバルブインバルブを活用し基部再手術を回避するというのは役立つことがあると思いました。基部再建時のLMTの剥離は最小限に、時にキャブロール法を活用、あるいはキャブロールバッフルで基部全体を包む形で危機を逃れるなどは、経験豊富な同先生ならではのメッセージでしょう。

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日本勢の健闘が目立ったのは急性大動脈解離弓部大動脈全置換関係の領域でした。

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東北大学の斉木佳克先生はAcute Aortic SyndromeでIntimal Defectの検出で治療に役立てることを、神戸大学の大北裕先生は大動脈解離の術前のMalperfusion対策の試みを、自治医大の岡村先生・安達秀雄先生らは弓部のエントリー遺残が以後の大動脈拡大に影響することを、国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生はSundt先生の低体温に対する中等度低体温での選択的脳灌流を、東京医大の荻野均先生は弓部全置換術の最近のテクニックについて、大阪大学の倉谷徹先生はTEVARを積極的に活用したハイブリッド治療について、それぞれ述べられました。いずれもおなじみの内容でしたが、この領域では世界をリードしつつあることを感じました。

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私自身もこれまでと違って毎日大動脈解離の患者さんが来られる施設に移動したため、これからこの領域でも貢献できればなどと思ってしまいました。

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イタリア・ボローニャのRoberto Di Bartolomeo先生のエレファントトランクの詳細についてのお話も興味深いものでした。

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京都大学の川東先生の弓部全置換術と枝付ステントグラフトの比較は、かつてその初期導入を担ったものとして懐かしく興味深いものでした。外科手術はやはり脳梗塞の回避などで安定したちからを持っており、枝付ステントグラフトはハイリスク例を中心に適応を絞るのが良いとあらためて思いました。

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午後の胸腹部大動脈瘤のセッションでも内容あるディスカッションが続きました。

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フィラデルフィアのJoseph E Bavaria先生のB型解離の扱いでは、Good patientかつbad anatomyのケースに外科手術、その他はTEVARか内科治療という棲み分けでそれぞれの特徴を良く反映したものと感じました。
浜松医大の椎谷紀彦先生は胸腹部大動脈瘤の外科手術において、肋間動脈などの再建をより確実に、かつ長期の開存率をより高くするための工夫を論じられました。参考になりました。

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Terry P. Carrel先生のウシ心膜をもちいたTubeグラフトのきれいな姿を示されました。感染に強いとのことで、今後もっと積極的に使いたいと思いました。私も大動脈基部膿瘍などでホモグラフトの代わりにこの方法を用いたことが何度かあり、その裏付けを頂いた気分でうれしく思いました。

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その他にも興味深い発表が続き、充実した一日でした。
ポスターも同様で、心臓血管研究所の國原孝先生の大動脈弁形成IMG_1837b術は完成度が高く、今度のスタンダードになるものとあらためて思いました。

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私はバルサルバ洞破裂に対する新しい手術を発表し、これまでの術式より安定度が良く、他院で失敗したケースの救命例複数も含めて、さまざまな状況に対応できるものと思いました。恩師Tirone E. David先生も私のポスターを見に来て下さり、良いコメントを頂きました。

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たっぷり丸一日勉強してもまだまだやることがあるといった印象ですが、アメリカの外でこうした機会が創られたことに大きな意義を感じます。大北先生、Sundt先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

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2015年10月20日

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米田正始 拝

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米田正始   医誠会病院スーパーバイザー 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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