最終更新日 2025年9月14日
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◆ 大動脈弁形成術とは?
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大動脈弁形成術は、壊れた大動脈弁を人工弁に置き換えず、弁尖や弁輪・大動脈基部の形を整えて自分の弁の機能を回復させる手術です。
人工弁に取り替える大動脈弁置換術(AVR)と比べ、条件が合えば抗凝固薬を避けられる・心機能を自然に保ちやすいといった利点があります。
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◆ これまでと今の違い(形成術の進化)
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以前の形成術(弁尖中心)
かつては弁尖だけを整える手法が主流で、適応が限られる・長期耐久性が不安定という課題がありました。結果として、高齢者や中年の方では生体弁の耐久性向上もあり、置換術が選ばれやすい状況でした。(弁膜症 事例8)(事例、10代の患者さん)
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現在の弁形成術(ジオメトリー重視)
近年は、弁尖だけでなく**AV接合部(弁輪の付け根)やST接合部(弁輪頂部)を含めた“弁の幾何学”**を総合的に整えるアプローチが普及。
これにより、これまで形成が難しいとされた症例でも良好な修復が期待できるようになっています。
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◆ どんな人に特に有用?
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若年者(10代〜30代前半)
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生体弁が長持ちしにくい(石灰代謝が活発で劣化が早い)
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機械弁はワーファリン(血栓予防薬)の長期服用が必要で、スポーツや妊娠計画に制約
→ 大動脈弁形成術は第一選択になり得る治療です。二尖弁(BAV)の方にも有用なケースが多く、のびのびとした日常生活につながります。
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中年層(30代後半〜50代)
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生活・仕事の制約を避けたい方、抗凝固薬を可能な限り回避したい方では、適応が合えば形成術を優先します。
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一方で高度石灰化や弁組織の質によっては置換術が安全なケースもあり、**個別評価(画像・術中所見)**が重要です。
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(お便り71 :ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん)
(お便り121: 決意して二尖大動脈弁を弁形成で克服した中学生の患者さん)
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◆ ロス手術(肺動脈弁自家移植)という選択肢
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ご自身の肺動脈弁を大動脈弁に移植する手術(ロス手術)は、若年者で有力な選択肢ですが、
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二尖弁の方では肺動脈弁の強度が十分でない場合がある
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日本では**肺動脈弁の代替(ホモグラフト)**の入手が難しい
ため、**小児や特殊な感染症(基部膿瘍など)**に限られることが多いのが現状です。
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◆ 自己心膜による再建(再構築)の位置づけ
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自己心膜(ご本人の心膜)で弁尖を作り直す再建は、有用な選択肢として研究・臨床が進んでいます。
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歴史的には心膜弁の耐久性に課題がありましたが、近年は設計・材料・手技の工夫で改善が報告されています。
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とはいえ、長期成績や感染リスクなど、追加検証が必要。
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若年〜中年で形成術が不適なケースに限って、慎重に適応を検討します。
※「弁形成」と「弁再建(置換に近い概念)」は異なるため、**最優先は可能な限りの“真の形成”**です。
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◆ MICS(低侵襲)での大動脈弁形成
私たちは、可能な症例で**MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲手術)**を導入。
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傷跡が目立ちにくい
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痛み・出血を抑えやすい
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仕事や学業への復帰が早い
といった利点があり、とくに若年者の方から高い満足度をいただいています。
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◆ 形成か置換か――私たちの方針
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形成可能なら形成を第一選択
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二尖弁を含む若年者では最優先で検討
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中年でも条件が整えば積極的に形成
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形成が不適なら置換
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自己心膜再建
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適応を厳密に絞って選択肢に加える(若年〜中年で形成不適例など)
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さらに大動脈基部拡張が原因なら、私の恩師が開発した**デービッド手術(自己弁温存)**なども検討し、人工弁回避の可能性を広げます。
参考:いい心臓・いい人生 【第九十三号】カナダでも頑張りました(大動脈弁形成術サミット) .
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◆ 将来展望:再治療の選択肢も拡大
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TAVI(タビ)(経カテーテル大動脈弁置換)の進歩により、将来的に生体弁が劣化したときに“弁中弁”で再治療できる選択肢が広がっています。
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**Sutureless Valve(縫合不要の生体弁)**は、MICSとの相性が良く、治療の幅を広げる可能性があります。
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これらのオプションも踏まえつつ、**現時点では「形成が可能なら形成を主軸」**に、安全第一で個別最適化を図ります。
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◆ まとめ:若いほど形成術のメリットが大きい
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若年者ほど形成術の恩恵(抗凝固回避・自然な心機能・QOL)が大きい
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中年でも適応が合えば形成を優先
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形成不適なら置換や自己心膜再建を慎重に選択
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MICSで傷跡・回復への配慮も可能
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「置換しかない」と言われた方も、形成の可能性を一度はご相談ください。
生活・仕事・学業の目標に沿った最適な治療選択を一緒に考えます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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