■大動脈基部に対する手術は?
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まず右図の真ん中にある弁が大動脈弁でその周辺が大動脈基部です。
ご覧のとおり周囲がさまざまなものに囲まれているため病気や治療そして手術も複雑になりがちです。
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大動脈基部再建手術では自己弁を温存しないベンタール手術(ベントール手術)(弁膜症 事例10)と
自己弁を温存する大動脈基部再建手術(デービッド手術(事例1)やヤクー手術など)をその患者さんの状態に応じて使いわけています。
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■自己弁を守るために
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大動脈基部の構造(左図)のうち、弁尖(ひらひらと動き、開閉する部分です、閉じるときはぴたっと完全に閉じます)以外はこれまでも手術にて再建が可能でした。
弁尖も effective heightと呼ばれる弁尖の有効な高さとそれによる十分なかみ合わせを回復させることで手術成績の向上が見られます。こうした弁形成術の進歩に支えられ、より理想の手術に近づきつつあります。
長持ちする弁形成ができれば、ワーファリンというお薬を飲まずにすむことが多いため、患者さんの生活の質を長期間高められるという期待が上がって来ています。
乞うご期待です。
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■弁輪が狭すぎるとき
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なお大動脈弁輪や大動脈基部が小さいとき、いわゆる狭小弁輪ではどうでしょうか。
左図のようなニックス手術やマノージャン手術などの大動脈基部拡大術を併用し、十分なサイズの人工弁が入るようにします。
患者さんは元気になり、普通の生活に戻れるため喜ばれています。
詳しくは大動脈弁輪拡大術のページをご覧ください。
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■自己弁温存式基部再建術とは
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自己弁つまり患者さんご自身の弁を温存する大動脈基部再建手術(いわゆるデービッド手術やヤコブ手術)では長期間少なくとも10年以上は大丈夫と考えられる症例に施行しています。
(デービッド手術の事例1を参照)。
デービッド手術はとくに10代―40代の若い患者さんでは長期成績が安定しやすく、大きなメリットがあると考えられています。
慢性大動脈解離のため大動脈基部が拡張し瘤になった場合も、患者さんご自身の大動脈弁が壊れていなければデービッド手術が威力を発揮します(事例)。
なお近年、フロリダスリーブ手術という、デービッド手術の簡便型ともいえる方法がアメリカのフロリダ州を始め一部で試用されています。
大動脈基部の外側に設置するだけなので出血の可能性がほぼゼロで便利な一面がありますが、すでに基部拡張があるケースでは基部にしわが寄ったり冠動脈が圧迫されるなどの合併症が報告されており、こうした諸点に注意した確実な手術が必要です。私たちはこれまでのデービッド手術などの経験を活かしてこのフロリダスリーブ手術も役立てています。
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■弁尖がどうしてもだめなとき
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自己弁が10年持たないと考えられる患者さんにはベントール手術(ベンタール手術)を行います。大動脈基部を再建するだけでなく、弁そのものを取り換えるわけです。
生体弁をもちいたベンタール手術が適応になる患者さんにはさらに良い方法があります。
それがミニルート法(またはインクルージョン法)です。これは入れ子のように大動脈基部に入れ込んで固定するだけですので、さまざまな利点があります。
こうした多数の選択肢のなかから、前もって十分に相談しご希望を聴いて、その患者さんにベストのものを選ぶわけです。
なお私たちは、大動脈基部再建手術といえども創が小さいミックス法(MICS法)を用いています。若い患者さんにはもちろん、どの年代の方にも喜ばれています。
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メモ: 基部の心臓手術がやや複雑になるのは、左右冠動脈 の入口があり単に弁だけ取り換えるのではなく、大動脈や冠動脈まで作り直す必要があるからです。
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メモ: 大動脈基部が拡張するAAEという病気にはマルファン症候群などの結合組織が弱くなる病気の患者さんが多いです。
同様に、二尖弁という通常3枚あるはずの大動脈弁が、何らかの原因で2枚しかない状態の患者さんでも、大動脈基部の組織が弱いことが証明されており、この病気に注意する必要があります。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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