患者さんは60歳男性、26歳時に大きな心筋梗塞を患い、次第に心不全が悪化し、不整脈発作や左室内可動血栓もあり来院されました。診断名としては虚血性僧帽弁閉鎖不全症をともなった虚血性心筋症です。
突然死のおそれもある危険な状態のため準緊急手術を行いました。
左が拡張末期、
右が収縮末期の像です。
左室の動きがほとんどありません
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左室前壁は僅かに心臓の筋肉が残っていますが、
大半は線維組織で置き換わり、力が出せなくなっていました。
仕事をしていない部分を切っても心臓の力はほとんど落ちません。
心臓は止めずに拍動させています。
これで脳こうそくなどが起こりにくくなります
こうした血栓をかかえて、無事病院まで来られたのは幸運でした。
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冷凍凝固(クライオアブレーション)で不整脈のもとを焼きました(矢印)
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5.セーブ手術の糸をかけているところです。
すでに心室中隔はかけおわり(矢印)、左室側壁を作業中です。
この間ずっと心臓は動いています。
心臓が動いていますと、左心室の悪い部分(つまり病変部分)と良い部分との差は歴然で、写真でも心室中隔後部はダムの堤防のようにはっきりと判ります。
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6.僧帽弁輪形成術(MAP)の糸をかけています(矢印)。心臓が動くと視野が狭くなるため工夫します。(僧帽弁形成術の項を参照)
MAPは左室基部の縮小と運動性の改善をもたらすことを私たちは動物実験で証明しました(英語論文192番)。
この患者さんのように以前の心筋梗塞で多量の心筋細胞を失ったかたには、
MAPは心機能改善のために有効と思います。
7.セーブ手術のパッチを固定しています。心臓内の空気抜きも同時に行います。
このパッチの向こう側が新しい左室となります。
手前側のスペースの分だけ左室が縮小されたことがわかります。
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を閉じているところです。
出血しないように何重かの処理を加えています。
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9.心筋に埋もれた冠動脈を
高速エコーで的確に見つけ(矢印1)、
これを心拍動下に
オフポンプバイパスの要領でバイパスします。
矢印2は左内胸動脈です。
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10.両室ペーシング(CRTと略します)のケーブルをつけています。
この患者さんでも有効でした。
心電図でQRS延長がないとCRTは効かないとお考えの先生も一部おられます。
実際にはエコーで左室各部の収縮タイミングを調べながら、QRS幅正常でも不同期の時間があればCRTを試みるようにしています。
かつ弁が左室側に引かれていました
(テント化、矢印)。
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弁のテント化も軽くなりました(矢印)
手術後6ヶ月の心機能も左室拡張末期径LVDdが81mmから62mmへ、駆出率も18%から36%へ改善しました。
術後5年経つ現在もお元気にしておられます。
米田正始の患者さんの会にもよく参加して下さいます。
◆余談 この患者さんの経過はスーパードクターのテレビで放映され話題になりました(メディアのページご参照)。
当時こんな重症の患者さんをテレビで発表してもし失敗したらどうするのとよく聞かれました。
しかしこの患者さんは絶対助ける、テレビカメラのあるなしは関係ないと信じて皆で頑張りました。
こうした治療法を多くの方々に知って頂くことが大切と考えたのです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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