最終更新日 2025年9月15日
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◆ 左室形成術とは?
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左室形成術は、心筋梗塞や拡張型心筋症などでダメージを受けて大きくなった左心室を、外科的に整えて機能を回復させる手術です。
重症心不全に対する外科的治療の中核であり、僧帽弁閉鎖不全症などを合併した患者さんに大きな効果を発揮します。
私たちはこの左室形成術を**より安全に、より長持ちさせるための「強化法」**を組み合わせ、患者さんの生活の質(QOL)と予後の改善に取り組んでいます。
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◆ 強化法1:僧帽弁輪形成術(MAP)や乳頭筋前方吊り上げ(PHO)の併用
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左室形成術と同時に 僧帽弁輪形成術(MAP) を行うことで、左室基部の働きを高められることが研究で確認されています。
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また、病態によっては 乳頭筋前方吊り上げ(略称PHO) を併用し、逆流防止とポンプ機能改善を両立させています。
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◆ 強化法2:両室ペーシング(CRT)・ICDの活用
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CRT(心臓再同期療法) は、ペースメーカーの進化版で、心室の収縮を整えることで心不全症状を改善します。
さらに、重症心不全では不整脈が命を脅かすことがあり、**ICD(植込み型除細動器)**が有効です。
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必要に応じて CRTとICDを兼ね備えたCRTD を導入し、左室形成術との併用で大きな治療効果を発揮しています。
これらの機器は手のひらサイズで、患者さんの負担を最小限に抑えられます。4.虚血性心疾患の項をご参照下さい。
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◆ 強化法3:合併手術の最適化
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高齢や体力低下がある患者さん → 手術内容を最小限に絞り、安全を優先。
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若い患者さん → 必要な合併手術をしっかり行い、根本治療を目指す。
実際に虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する複合左室形成術を行い(左図)、重症ショック状態から社会復帰した患者さんもいます。
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◆ 強化法4:手術手技の進化 ― 心尖部凍結型左室形成術
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ここ数年で、手術時間を短縮しつつ確実に行えるよう工夫を重ねてきました。
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SAVE手術やドール手術の長所を統合
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心尖部凍結型左室形成術 で、さらに体に優しい手術を実現
また、僧帽弁逆流に対しては 乳頭筋最適化術 など新しい方法を導入し、短時間で確実に修復しています。
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◆ 強化法5:薬物療法との併用
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β遮断薬(カルベジロールやビソプロロールなど)
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ACE阻害薬 / ARB(アンギオテンシンII受容体ブロッカー)/ARNI
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アルドステロン拮抗薬(例:スピロノラクトン、エプレレノン、フィネレノン)
- SGLTII阻害薬
これらを適切に使用し、副作用を確認しながら長期的に心機能を安定化させています。
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◆ 強化法6:リハビリ・栄養・チーム医療
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心臓リハビリや適切な栄養管理も重要です。
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ASV(加圧マスク) で呼吸・循環をサポート
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循環器内科や地域医療との連携 によるチーム治療
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糖尿病・高血圧・肥満・睡眠時無呼吸症候群(SAS)の管理も必須
心臓手術は手術単独ではなく、全身を診る総合治療として取り組むことで、真の回復につながります。
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◆ まとめ
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左室形成術は進化を続け、
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Mクリップ、僧帽弁形成や乳頭筋吊り上げ
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CRT・ICDの併用
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新しい術式の導入
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薬物・リハビリ・生活習慣管理
といった総合戦力を駆使することで、重症心不全患者さんの予後改善に大きな可能性をもたらしています。
「もう治らない」と言われた方でも、最新の左室形成術と包括的治療で新しい人生を歩めるかもしれません。ぜひ一度ご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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