お便り33 心内膜床欠損症(一次口欠損症)の患者さん

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患者さんは69歳女性で、

12年前に心内膜床欠損症の不完全型あるいは一次口欠損症という病気にもとづく心房中隔欠損症ASD

心室中隔欠損症VSDの閉鎖術および

三尖弁閉鎖不全症に対して三尖弁形成術を受けておられます。

 

今回はかつての病気とくに心内膜床欠損症がもととなって、僧帽弁閉鎖不全症MR

大動脈弁下狭窄症IHSS(左室の出口近くの圧較差112mmHg(大変狭いです))、

巨大左房のため、

強い心不全となり、高度の肺高血圧も合併し、このままでは危険な状態となって来院されました。

しかも肺そのものが大変悪くなっていました。

少し専門的ですが、肺の一秒率38%(極端に低いです)、

%肺活量40%(これも大変低いです)は医療崩壊の現代では麻酔科の先生が手術拒否されるレベルです。

いくら超重症とはいえ、結果が悪いと心ない、医療の大変さを知らない周囲から糾弾されるからです。

 

私たちはこうした患者さんをお助けするために平素から努力して来ましたので、

厳しい状況を打開し元気になられた患者さんやご家族の勇気と努力に敬意を表したく思います 者さん・ご家族と一体となって手術や治療を頑張ろう、そして社会復帰して戴こうという方針になりました。

 

この心内膜床欠損症(一次口欠損症)という病気では

左室の出口がせまくなるのが特徴ですので、

弁形成術では出口をさらにせまくする恐れがあり、

治療法は人工弁とくに背丈の低い機械弁が安全で、推奨されています。

 

それらを十分考えた上で、左室出口の狭い部分を切除して広げました。

僧帽弁に機械弁を入れ、巨大な左房を小さくしました。

二回目の手術のため止血もいっそう念を入れました。

 

手術で心内膜欠損症がらみの弁も左室内の狭いところもすべてきれいに治りましたが、

肺は弱いため時間をかけて徐々に人工呼吸を外し、徐々に日常生活を取り戻すようにしました。

 

外来でお見かけするときには別人のようにお元気になられ、

旅行を楽しむほど元気になられました。

かつて大変お世話になったからと、病棟の看護師さん達にもお礼に訪問して下さり、

皆も努力が報われてよろこんでくれました。

 

以下はその患者さんの御家族からのお手紙です。医者冥利につきるお手紙で光栄に思っています。(2010.10.記)

*********お便り*********

米田先生さま

先生、母を助けてくださりありがとうございました。
早いものでもうすぐ手術から5ヶ月が経とうとしています。

思い返せば、まさかまた手術をすることなるとは思ってもいませんでした。 お便り33の実物写真

12年前に心臓の手術をし、その当時とても大変だった母の姿をよく覚えています。

 

 
70歳という年齢や肺の機能も悪く、

又その他の面からもリスクの高い手術はできれば避け、

このままお薬で維持していきたいと私達は考えていました。

でも、とうとう心不全をおこしてしまいました。

「手術をしなければ長く生きられないでしょう」と先生からお話があった時、悩みました。

先生は丁寧に時間をかけて、私達家族がわかりやすいように何度も何度もお話をしてくださいました。

そうやってコミュニケーションを図りながら信頼関係を築き、

「この先生なら大事な母を任せられる」と決心がつきました。

手術後も心配な状態がしばらく続きました。

先生はじめ、チームの皆さまにはとても良くしていただきました。


只、なかなか元気にならない母を目の当たりにして、

私達家族も気持ちにゆとりが持てず何かと先生には失礼なことを申してしまったかもしれません。

 
「どんなことでも良いので話してください」といつも母や家族の気持ちをわかろうとしてくださいました。

先生のお陰でまた穏やかな家族3人と犬一匹の暮らしが始まっています。

入院前から楽しみにしていたクラシックコンサートにも行くことができました。

 
以前なら上がれなかった階段も今は普通に上がることができるようになりました。

 
また、家族で旅行に行きたいと思っています。

先生と出会っていなければ今の幸せはなかったでしょう。

不安でいっぱいだった数ヶ月前が嘘のようです。

いつも1階玄関に飾ってある先生の写真に「母をお願いします」と心の中でつぶやいてから帰りました。

手術の前日は家族で病院の回りを散歩しました。

「これが最後になったら嫌だな」と切なかったことを思い出します。

大変だったけれども、今となっては良い思い出です。

 

最近は母と当時のことを「あれ、覚えてる?」と話しますが、

「え、そんなことあったの?」と記憶にないこともしばしばです。

「こんな失礼なことも言ってたんだよ」と教えてあげると「先生たちに悪いことしちゃったわね~」と苦笑いしています。

 

今の楽しみは数ヶ月に一度の外来に家族揃って先生たちに会いに行くことです。

最後になりますが、本当に本当にありがとうございました。

心から感謝しています。

平成22年9月26日

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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