大動脈瘤とマルファン症候群について

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結合組織の病気、マルファン症候群

エーラス・ダンロス症候群あるいは

ロイスディーズ症候群(Loeys-Dietz症候群(LDS))の方は、大動脈瘤大動脈解離になりやすいです。

また大動脈二尖弁には今まで、結合組織疾患という認識はなかった(手術をしている際、二尖弁の患者さんは大動脈が弱いねという話しはしていましたが)のですが、

ここ数年研究が進み、大動脈の壁と弁の両方の病気であることが解明されました。

遺伝子レベルで弱点があり、年齢とともに大動脈の壁が血圧に耐えられなくなり、

瘤になっていくわけです。

こうしてわかってきた病気を入れると、結合組織疾患はずいぶん多いようです。

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そうすると、長期的な支援や研究体制を組みやすくなる地盤ができだしたと言えるでしょう。

病気自体は、それぞれの病気に応じて、違う内容で少しずつ治療法も違ってきますが、

将来的には遺伝子治療とか組織工学で弱いところをきちっとマークしてしまえば、

手術なしで治るようになるだろうと思っています。

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ただしまだ時間がかかると思います。

従って、今のところ、病気とくに大動脈瘤の早期発見ですね。

CTなどで定期検診をして、できるだけ大事に至るまでに治療を始めることです。

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図 トータルアーチ (弓部動脈瘤手術の画像を見ながら手術のお話し)

マルファン症候群などの結合組織の病気じゃなくても、ある程度の年齢になれば大動脈瘤はけっこう多いです。

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血管の手術というのは、動脈瘤があったら、その両側を仮遮断して、血液の流れを止めておいて人工血管に替える。

基本コンセプトは比較的単純。

ところが、場所によっては、脳に行く血管、心臓に行く血管など、ただ単に遮断すると困りますので、

いろいろ工夫しなければいけないわけです。

いろんな方法があり、適宜それらを使いわけています。

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人工心肺(人工の心臓)という機械にのせて、

20度そこそこに冷やしておいて、循環を一時止めておいて、

をあけて、頭にいく三 本の大きな枝を切断。

血管の頭側はほぼ正常ですので、心臓側だけを取り替えれば元気になります。

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(別動画)
下行大動脈。動脈瘤のところに血栓がいっぱいあります。

動脈瘤の中の血栓ってこんな感じなんですね。

それをスプーン・・・普段、家で使っているスプーンですね。

血栓を取り除くためには これが一番便利。

もちろんちゃんと消毒しているものです。

血栓が飛んだらえらいことになりますので、入念に取っているわけです。

それで、背中側の下に降り て行くところのちょうどここから先はきれいというところでつかまえて、

そこに人工血管を吻合(ふんごう)します。

奥の深いところでも全貌が見えますので、 きちんと固定して引き抜く。

あれやこれやいろんな工夫をして、その結果として、成功率が非常に高くなってきました。

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昔、私が医者になった頃、20数年くらい前 は、まだ死亡率が高かったです。

15%とか20%とかですね。

ところが今はもう、普通ならまずいける、成功率95%かそれ以上。

100%にだいぶ近づいて きたというところですね。

それはいろんなことの進歩があるわけですが、

ひとつはこういうノウハウの積み重ねです。

大動脈手術は、確かに大動脈自体が全身に 広がりがありますので、比較的大きくなりがちなんですけど、

逆に言うと、出血さえカチッとコントロールできれば、かなり安全な手術になる、

今はそんな印象 です。

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もちろん全身を守りながら。頭と心臓、肝臓、腎臓などの内臓ですね。

手術の後はこの場所(人工血管)が破れるということはまずないです。

力自慢の人が思いきり 引っ張っても、破れることはありません。

そこで手術のあとはそれ以外の大動脈を守っていく定期検診などが必要です。

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(別画像)
患者さんはマ ルファン症候群の52才女性。

大動脈弁の逆流と、弁の根っこが広がって 図 ルート解剖 います(基部拡張)。

これは比較的よくある病気です。

大動脈の根っこが、本来のサイ ズの倍以上になっていました。

大動脈弁の付け根のところが伸びてしまったために、

弁が足りなくなって届かなくなって逆流して、

それで心臓が非常に大きく なって心不全が出てきて、ということで来院されました。

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それで、ここからここまで(つまり大動脈の根本の部分)を取り替える手術をするわけです。

そしてその時、全身の大動脈とか全体的 なところを将来計画もあって、必ず診るわけです。

手術の時は、心臓に近いところはなるべく自然な膨らみを持たせた人工血管を使って、できるだけ自然の状態 に近い形で再建します。

(手術前と手術後の画像の比較)

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上行大動脈の頭側は全く正常サイズです。

また、上行大動脈の中ほどはガードする効 果がありますので、将来何かの理由で弱くなって広がろうかなという所に人工血管でバチッとガードすればよいわけです。

弁については、患者さん自身の弁を治 す自己弁形成をしたかったのですが、

残念ながら弁が伸びて薄くなって何カ所かに小さい穴が空いていていたので、

これはもう人工弁のほうが患者さんにとって有利だということ で人工弁にしました。

きれいなら弁は残して再建するようにしていますが、

どれくらい長く持つのか不明という時は、生体弁を使うようにしています。

もちろん、年齢とか患者さんのライフスタイルなどを一緒に相談して、

金属の弁のほうが良い、明らかに有利ということであれば金属弁にします。

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●質問:大動脈瘤の拡張(大きくなること)は、どういう速度で進行するのでしょうか?どんな検査をするのですか?

Aneurysm ruptureお答え:大動脈瘤の拡大とか拡張と言いますが、その進行速度はいろいろです。

手術適応に近い大きさで、ひょっとしたら近い将来手術しなくちゃいけませんねと言っていて、何年経っても同じ大きさの人もいます。

そこで、定期検診が大事なんですね。

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ワンポイントだけ診て、すぐ手術(大きさや形によってはそういう時もありま すけど)というのではなくて2回診ればだいたい動向がわかりますので、

初めて来られてある程度大きい時は、早めに状況によってもう一回CT(あるいはエ コー)を撮って動向を診て、

これはやっぱり大きくなってる、これは何ヶ月か後には破けてしまいそうだということであれば、破ける前に手術する。

あるいは、 安定してるなら、

また半年後に検査しましょうという形でやっていきます。

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Ilm09_af14001-s経過をみるには単純CTでいけますので、造影剤はいりません。

もし、何かの理由で、足への血液の流れが落ちてきたねとか、解離腔どうなっているのかなという時は造影をします。

今はカテーテルしないで、造影CT(普通の点滴と同 じやり方で、内容物を造影剤にする)でわかります。

ちょっといい機械ですと、5分くらいで検査できます。

身体がちょっと熱くなる程度で、痛みや苦痛はほと んどありません。

患者さんにとってかなりやさしい検査になりました。

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●質問:どの部分の径の拡がりが、一番、問題になるのでしょう?

お答え:大動脈瘤はど れも直径5㎝にもなれば問題ではありますが、

ポコンと局所的に大きくなるものは、小さくても危ないです。

そこだけ壁が弱いので、小さくても放っておけない場合もあります。

大動脈の根っこのところ(基部)は、拡張すると、弁の破れも出てきますので、

そちらのほうで心臓が大きくなってきたりしたら一緒に治して しまいます。

手術のガイドラインがありますので、目安になっています。

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●質問:大動脈瘤はどの程度の大きさになったら手術するのでしょうか?

お答え:(マ ルファン症候群ではない)解離でない一般の瘤の場合は、胸は6㎝、お腹は5㎝ということになっています。

それを超えたら急激に破れる確率が高くなる。

ただそれは、場所や形によります。

そしてやはり、結合組織の病気(マルファン症候群など)がある方の場合は、

これより早い時期のほうが安全で、ガイドラインも そのようになっています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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