第27回日本冠疾患学会の報告記

Pocket

この12月13日ー14日に和歌山で開催された日本冠疾患学会に参加して参りました。

この学会は冠疾患つまり狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の診断や治療を内科と外科の両方で協力して論じ、学ぶ会として発展してきたものです。

JCA27HPそのため、この2年あまり世界的に認められるようになったハートチームを提唱する魁とも言える立派な学会で、いつもそうした交流のなかで学ぶことが多いため、私は好んで参加しています。

今回はまず前日の理事会や評議委員会などの重要会議に出席する予定でしたが、かんさいハートセンターで緊急手術があり、どうしても私がやらねばならない、以前からなじみのある患者さんで、4回目の心臓手術(再々々手術)という大変リスクの高い状態でしたので、学会にお願いして理事会を欠席させて戴きました。

しかしお陰さまで緊急手術はうまく行き、大動脈弁を置換し、僧帽弁(人工弁)は形成して治すことでスムースに経過しました。

その日のよるから和歌山に入りました。

今回は和歌山県立医科大学・循環器内科の赤坂隆史教授が内科系会長を、同大学第一外科(心臓血管外科)の岡村吉隆教授が外科系会長を務められ、いずれもハートチームにふさわしい立派な先生方で、昔からお世話になっている畏友でもあり、張り切って参加させて戴きました。

今回の学術集会は華岡青洲から引用された「内外合一」という、ハートチーム時代にふさわしいもので、内容的にも内科外科それぞれの進歩だけにとどまらぬ、共同作業とも言える内容が随所にみられ、学ぶことの多い学会だったと思います。

スペースの都合で、ここでは私関係の活動報告を主にさせて頂きます。

まず初日の第17回再灌流療法フォーラムでは上松瀬勝男先生と本宮武司先生らのご厚意で外科系講演という栄誉を賜りました。

内科系は国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長の安田聡先生の微小血管レベルでの再灌流障害と心筋保護というテーマでお話しされました。平素の疑問点に応えてくれる、優れた内容のご講演だったと思います。カテーテルによる冠動脈造影でも映らない細い血管が患者さんの予後に影響を与えており、これからこうした細動脈にもっと目を向けるべきと思いました。

ご意見を求めて頂きましたので、心筋梗塞後の左室破裂の所見や対策についてコメントさせて戴きました。これは病理的には心筋解離によるジグザグ型破裂で、その出口つまりre-entryの位置によって左室破裂心室中隔穿孔VSPかに別れ、治療法も部位により工夫するが基本は同じことをお話ししました。

私は外科手術(on-pump、off-pump)後の再灌流障害というテーマで講演いたしました。現代主流のオフポンプ冠動脈バイパスでは虚血再灌流障害はかなり少なく、特殊な状況たとえば急性心筋梗塞後のバイパスなど以外ではもはや再灌流障害は見られず、これも治療成績の進歩に役立った。しかし心臓を止めて行う通常型の心臓手術では、重症例を中心にまだ虚血再灌流障害を見ることがときにある。それに対するさまざまな対策をこれまでの研究データをもとにしてお話ししました。

たとえばポリフェノールを心臓手術の前に投与しておき、十分な抗酸化対策を立ててから手術すると、虚血再灌流障害はうんと軽くなる、あるいは他の薬剤たとえば free radical scavengerなどを用いても同様の効果が見られるなどですね。

この問題は心臓手術や急性心筋梗塞後の治療だけでなく、心筋梗塞後慢性期の心不全にも大いに影響し、これへの対策が大きな意味をもつことを、ACE/ARB研究やHANP研究、さらには再生医学でも酸化ストレスを減らす治療で長期的な心機能を改善することを示しました。

虚血再灌流障害の治療からもっと幅広く酸化ストレスの対策までを臨床から再生医学まで論じ、この領域の重要性をお示ししましたが、座長の上松瀬先生から壮大なお話しとお褒めいただき、恐縮してしまいました。

ともあれこのテーマのおかげで虚血再灌流障害をもう一度勉強しなおし、おまけに肺や肝臓などのそれも理解が進んだのはありがたいことでした。

会長要望ビデオのセッションでは、同時間のシンポジウムに私の発表が重なったため、高の原中央病院かんさいハートセンターの増山慎二先生に代演してもらいました。

虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療の努力ということで、私、米田正始のオリジナルの2手術を発表して戴きました。ひとつは拡張型心筋症や左室瘤に対する新しい左室形成術、一方向性ドール手術で、いまひとつは機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋適正化手術(papillary heads optimization, PHO)でした。

会場から温かいコメントを頂いたようで、皆様に感謝申し上げます。増山先生、ご苦労様でした。

その発表と並行する形で、「この症例をどうするか」というセッションで最近私たちが経験した感動の症例を提示しました。お便り99に掲載した患者さんで、普通ならもうダメ、どうにもならない状況から元気に退院して行かれたケースでした。

私にとっては京大を辞めてから6年、日々磨きあげて来た新しい心臓手術の成果を端的に発揮できたケースでした。かつて助けられなかった患者さんへの想いや、これほどまでに私たちを信じて頑張って下さったこの患者さんへの感謝の念、そしてその間私に協力してくれた多数の方々への熱い想いが重なって心にしみるものがありました。

医学的には、こうした難症例の治療の選択肢をいくつか提示し、その中にはこれから普及するであろうTAVIやM clipなどのカテーテルベースの治療も含めて内科外科の皆さんと議論しました。

これほどの低心機能の患者を7年も生存させているだけでも素晴らしいとお褒め戴き恐縮しました。ともあれ、これからもっと記録を伸ばしていけると思います。患者さん、頑張って下さい。

夜の懇親会では楽しいひと時を持つことができました。余談ながら和歌山城が見える会場は素晴らしいとあらためて感心しました。

よく2日目は主に勉強させて戴きましたが、最後のセッションは内科外科合同のパネルで、左冠動脈主幹部病変や多肢病変への内科外科のアプローチというテーマでした。大阪大学の南都伸介先生と私、米田正始で司会をさせて頂きました。

Syntaxトライアル5年後の結果がでて、複雑冠動脈病変は基本的に外科手術つまり冠動脈バイパス手術が勧められるというガイドラインが出て、たまたま天皇陛下のバイパス手術などもあり、世の中は外科のほうに揺り戻しているように見えます。

しかし内科の御意見としては、すでに次世代のステントが広く使われており、Syntaxのころより優れた結果を出している、これからガイドラインも再検討すべきという声がありました。

一方、外科の御意見として、オンポンプバイパスが中心のSyntaxと違って日本ではオフポンプバイパスが中心であるため、外科はより一層安全で有利、だからガイドラインは一層外科寄りであるべきという空気がありました。

それぞれ優れたものがより優れた結果を目指しての内容で、素晴らしい議論と思いました。元小倉記念病院チーフの横井宏佳先生はより良いハートチームという観点からエビデンスとエクスペリエンス経験をそれぞれEBMとレジストリーからデータを出して極めていくべきと提唱されました。

近年カテーテルのときに多用されるようになったFFRをもっと活用して、より実際に合った適応やガイドラインを提唱されました。またDAPTと呼ばれる強い抗血小板治療の考え方やハイブリッド治療の重要性にも言及されました。

これから日本独自のより正確で安全なガイドラインへ向けて研究を進めて頂ければとお願いしてしまいました。

いろいろと勉強できる優れた学術集会になったと思います。会長の2先生や関係の皆様に御礼申し上げます。

平成25年12月21日

米田正始 拝

 

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。