関西胸部外科学会にて

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この6月19日、20日に大阪で関西胸部外科学会第57回総会が開催されました。会長は畏友かつ大先輩の佐賀俊彦・近畿大学教授でした。

この IMG_0449 (2)学会は昔から多数の熱い先達の想い入れからユニークな発展をしてきたものです。ふつうは学会の地方会といえば近畿地方とか九州地方などの限定されたエリアでアットホームにやるのですが、この関西胸部だけは西日本の大半を網羅する大きな学会です。当然これまで多数の若手を育て、登竜門としても、また心臓血管胸部外科の学術的発展にも貢献してきました。私自身もその昔、何度も発表の機会を頂き、尊敬する先生方から何度も貴重なコメントを頂き勉強の糧とした思い出があります。

ちょうどそれは世界の心臓血管胸部外科の最高峰と言われるアメリカ胸部外科学会(AATS)に対してアメリカ西部の先生方が西部胸部外科学会(WTSA)を隆盛に維持してこられたのに似ていると私は思っています。

今回は佐賀先生がそのユニークさをいかんなく発揮された素晴らしい内容になったと思います。多数の座長を若手から登用し、若手の登竜門を前面に打ち出すべく症例報告のAwardセッションを多数組んだり、ヨーロッパ心臓胸部外科の受賞論文を発表していただいたり、海外からの招請演者も来日歴のないフレッシュな顔ぶれになったり、海外で活躍する同朋にシンポジウムをやってもらったり、腕によりをかけた学会でした。

中でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロダクトマネージャーである森田泰弘さんに教育講演・安全管理セミナーとして講演していただいたのは圧巻でした。日本が世界に誇るイプシロンロケット、ミューVの開発秘話とその品質管理つまり医療における安全管理への努力を知ることができました。そもそも糸川博士のペンシルロケットからラムダロケット、ミューロケットがそれぞれ時代の最先端を行く優れものであったことをあらためて知りました。予算も少ない人員も少ない恵まれない環境の中で、これほどのものができたこと、さらにイプシロンロケットの場合はたった3年で完成させるという離れ業であったこと、その合間に皆で撮った写真の中の笑顔が素晴らしい、疲労困憊のはずなのに、なぜこれだけの笑顔があったのか、そこから先駆的プロジェクトにおける人材の大切さ、チームワークの大切さが実感できました。

最後にイプシロンロケットの打ち上げのシーンを見て私は感動し涙を抑えるのに苦労しました。ただ美しいロケットが飛翔しているだけではない、それを支える人たちの尊さを実感したからです。素晴らしいセッションでした。

それ以外でも興味深いセッションは多数ありました。

たとえば最近ホットな領域のひとつであるMICSでは教育セッションが2つ組まれ、MICS手術を安全確実に導入するかを大阪大学の西宏之先生、慶応大学の岡本一真先生、愛媛大学の泉谷裕則先生らが解説されました。これからミックス手術をやっていこうという若い先生らの参考になったと思います。

ミックスの教育セッションの後半の前に、アフタヌーンティセミナーというちょっとおしゃれな休憩が入りました。ここではちょっと方向を変えて滋賀医大の浅井徹先生が冠動脈バイパス手術のときに高速エコーとドップラーでより精度の高い手術を行うことを紹介されました。これは私が10年前に発表(論文のページ参照)した内容を器械の進歩でさらに便利に進化させたもので、あの頃の努力が無駄ではなかったとうれしく思いました。

ミックス教育セミナーの後半はより細分化した領域の話でした。心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICSでの冠動脈バイパス手術を、金沢大学の石川紀彦先生はダビンチをもちいたロボット手術を、そして都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生は心房細動のミックス手術を解説されました。それぞれこれからの展開が期待される、ホットな領域で皆の参考になったと思います。

なかでも大塚俊哉先生のオフポンプで左心耳を切除する方法はこれでワーファリンが安全に止められるデータとあいまって、これから皆で推進しようと盛り上がりました。循環器内科の先生方と一緒に展開したいものです。

ミックス関係では会長要望ビデオ演題で不肖私・米田正始もポートアクセス法による僧帽弁形成術と大動脈弁形成術の同時手術をご紹介し、さまざまなご意見を頂きました。私自身、つい数年前まではこのような手術ができるとは思っていなかったため、今昔の感がありました。

若手のための症例報告コンテストはにぎやかに多数の発表が行われました。私のかんさいハートセンターからも松濱稔先生と小澤達也先生が面白い症例を報告してくれました。松濱先生は、あと1週間のいのちと言われた心臓悪性腫瘍を心臓手術で治し、2年近くも自宅で人間らしく生きられたケースを報告しました。ネバーギブアップ精神が患者さんを2年とはいえ、有意義に延命できたこと、これからさらに治療法を磨きたく思いました。小澤先生は肝硬変と三尖弁閉鎖不全症の患者さんにポートアクセス法で三尖弁形成術を行い、元気に退院されたケースを発表しました。ポートアクセスに代表されるミックス手術は美容に良いだけでなく、体力の落ちた患者さんの救命にも役立つことを示してくれました。ご苦労様でした。

恒例の会長講演はもちろん佐賀先生がされました。ドン・キホーテ・デラマンチャの心臓外科人生というタイトルで、力強い心臓外科医の半生を知るなかから、どうすれば立派な心臓手術ができるか、どうすれば一流になれるのかというヒントを多くの若手諸君が学んでくれたのではないかと期待しています。

弁膜症のシンポジウム「複雑な修復法を用いた僧帽弁形成術の遠隔成績と成績向上のための工夫」ではさまざまなタイプの僧帽弁閉鎖不全症への外科治療の検討がなされました。倉敷中央病院の小宮達彦先生はBarlowタイプ(バーロータイプ)のそれを、小牧市民病院の澤崎優先生は砂時計型切除法を、大阪大学の戸田宏一先生は1ノットループテクニックを、大阪市立大学の柴田利彦先生はループ法200例の検討を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は自己心膜による僧帽弁再建を、そして私・米田正始は機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術(PHO法と呼んでいます)を検討報告しました。なかでも機能性僧帽弁閉鎖不全症は世界的に予後が悪く、心臓外科の位置づけも不透明になっていますが、これから優れた治療成績を世に問うて、安心して心臓手術を受けていただけるよう、努力したく思いました。

興味深いディスカッションが続き、時間の都合で尻切れになりましたが、大変有意義なシンポだったと思います。たとえば僧帽弁形成術のあとSAM(前尖がまくれ上がってMRが再発する)をどうするかで熱い議論になりました。私はSAMは解決できる、だからSAMのために弁置換になるのはもったいない、手術中に十分直し、患者さんがスポーツでもなんでものびのびできるようにしよう、とコメントしました。静岡県立総合病院の坂口元一先生、良い質問と議論をありがとう。

大動脈のシンポジウムでは広範囲に進展した弓部大動脈病変に対する治療戦略と展望というタイトルでこれまた熱い議論が交わされました。大阪大学の倉谷徹先生と国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生の軽快な司会のもとで、通常手術、術中ステントグラフト、ステントグラフト+デブランチ、などの方法が詳細に論じられました。倉敷中央病院の島本健先生の発表はそれぞれの方法の弱点を正視した優れもので大変参考になりました。他先生方のご発表もいずれも立派で今後に役立てるセッションになったと思います。

招請講演ではメルボルン大学 IMG_0435オースチン病院時代の畏友・George Matalanisが弓部大動脈手術と大動脈基部再建の講演をされました。私も是非聴きたかったのですが、同じ時間帯に別のセッションの司会がありできませんでした。しかしGeorgeとはその前の夜のパーティでゆっくり話でき、相変わらず活躍している内容を子細に学べてうれしく思いました。

アメリカはNorthwestern大学の Chris Malaisrie先生は2回講演されました。そのうち1回はランチオンセミナーで私が司会をさせて戴きました。講演は僧帽弁形成術と、MICSのAVRでいずれもしっかりとした準備と勉強・研究の上に成り立つ立派な内 IMG_0431容でした。実際米国を代表するアカデミック外科医になりつつあると思いました。この先生はかつて私の古巣であるスタンフォード大学で修練を受けたことがあり、いっそう親しみがわきました。講演のあとも一緒に食事しながら将来の交流がますます楽しみになると思いました。

学会1日目の夜に全員参加の懇親会がありました。和やかな楽しい会でしたが、近大マグロの解体ショーがあり、とれとれのマグロがふるまわれました。とくに中トロは絶品でした。これからマグロが入手困難になるだろうという予想のあるなかで、これだけ立派なマグロが養殖できるとなれば、私たちは一生マグロに別れを告げることなく楽しめることになり、一同感謝感謝の夜でした。

こうしてユニークかつ立派な関西胸部外科学会総会は盛会裏に終了しました。

会長の佐賀先生、関係の皆様、お疲れ様でした。おめでとうございます。

 

平成26年6月22日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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