お便り106: 人工弁感染性心内膜炎PVEの患者さん

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感染性心内膜炎(IE)の中でも人工弁のそれ(PVE)は重篤です。

IMG_1636b人工弁には抵抗力がなく、抗生物質をしっかり使ってもバイ菌を消しづらいからです。

日米のガイドラインでも人工弁のIEは基本的に手術適応となっています。

しかしばい菌が少しでもいるところに新たな人工弁を入れることは新たなPVEを発生させる恐れが高く、入念な治療戦略が必要です。

下記の患者さんは北海道在住で、この人工弁感染性心内膜炎で厳しい状況におかれていました。

見るに見かねた娘さんが米田正始のところへメールを送って来られました。
ポイントをしっかりと押さえられ状況が良く分かるお便りでした。

***** 患者さんのご家族からのお便り1 *****

父は73歳で、2年前に人工弁に取り替える手術をしました。

私は娘で東京都在住、父は北海道在住です。

昨年末に高熱を出し、結果、つい数日前に人工弁感染性心内膜炎PVEと診断されました。

今は白血球の数も減り、食欲も戻りましたが、

今後、大きな合併症(菌体の塞栓による脳梗塞や動脈瘤など)が起こる可能性があり、手術も体力が持たないから2回目は無理と言われ、

それがどういう意味なのかすぐわかりましたが、そんなはずはないと思い調べたところすぐこちらのサイトを見つけることができました。

出来るだけ早い方が良いのはわかったので、まずは何をすれば良いか教えてください。

父を助けたいです。

よろしくお願いします。

********************

お便りを拝見し、これは何とか救命しなければ、そして救命できる!と思い、ただちにお返事をお出ししました。

地元の先生とも直接間接にご相談し、患者さんのご希望にて奈良にあるかんさいハートセンターまでお越しいただくことになりました。

もちろん重症の患者さんをご家族とだけで移動していただくわけには行きません。

私の方から医師を派遣し、護送する形で来院していただく準備を整えていました。

しかし次のメールが届きました。予断を許さぬ状況となり予定を繰り上げての転院へと進みました。

 

***** 患者さんのご家族からのお便り2 *****

米田先生、ますやま先生、おざわ先生
いさみもと様

父の容体が急変し、出発は明日に

こちらでも無事になんとかすべて変更できました。

ますやま先生から16:30すぎにお電話頂いてかなり気も動転してびっくりしましたが

そのあとは行くしかないと思い、

すべてを変更するので大変な状態でしたが

結果、父に意思を確認した時に早く行けることのほうがかえって良かったようすで
良かったです。

たくさんご面倒おかけしていますが、

私達は米田先生はじめ、チーム皆様の迅速な対応には本当にもう、、、

何と言って良いかわからないくらい感謝しております。

ありがとうございます(泣)

米田先生は今日も手術でいらっしゃったようですしこの時間ですので
今は取り急ぎ、お礼のメールをお送りします。

私は金曜の夜にそちらに伺う予定でいますが何かあればすぐ行けるように調整するつもりです。

明日、まずは無事に辿りつけると祈っております。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

********************

患者さんは無事に救急車、飛行機、また救急車を乗り継いでかんさいハートセンターに到着されました。

当院の医師もコーディネーターそして各部門のサポーターもよく頑張り、周囲をがっちり固めたことが幸いしたようです。

安心感からか、意外なほど落ち着いておられました。

さっそくご報告のメールをご家族に入れ、手術や治療の準備を開始しました

以下はご家族からのお返事です

***** 患者さんのご家族からのお便り 3***** 

米田先生

ご連絡ありがとうございます。

飛行機内で何事もなくて本当によかったです。。

小澤先生と看護師さんに付き添っていただき父もとても安心できたんだと思います。

さっき母と話して、米田先生にもお会いしたと聞きました。

私は今までぜんぜん親孝行できてなかったので、今回ばかりは必死で(泣)

母も個室で数日は一緒にお世話になると思うので、どうぞよろしくお願いいたします。

またご連絡いたします。

**********************

十分な準備のもと、心臓手術いたしました。

もとの人工弁はその付け根からえぐられ、外れていました。

いわゆる大動脈基部膿瘍(大動脈弁輪膿瘍)という厳しい状況でした。

まだばい菌が組織の中にいそうな印象があったため、十分きれいに廓清しました。

新しい人工弁を私たちが工夫した方法で、ばい菌がもしいても人工弁には接触しない形で植え込みました。

術後経過は順調で、弁も心臓もばい菌も良い形で安定しました。

以下はそのころに頂いたお便りです。

なお術前は何としてもばい菌をできる限りたたくことが必要なため、腎臓を少々犠牲にしてもしっかりと抗生剤を使い、まずいのちを救うという方針で臨みました。そして少し余裕が出たところで腎臓を治すという二段階作戦で、うまく行きました。

***** ご家族からのお便り 4 *****

米田先生、お世話になっております!

今月5日に手術していただいた****です。

その後、父とは電話で話していますが日に日に声が元気になっていて、昨日はお風呂にも入ったとのことで回復早くびっくりしました…最先端の医療技術はすごいですね。

今回は予定が早まったにもかかわらず、無事に飛行機にも乗れて、早急に腎臓の手当てをしていただき手術出来たこと、当初のメールのやり取りから始まり、先生の医師としてのお志には感銘し、感謝でいっぱいです。

ありがとうございます。

母や弟もまさかスーパードクターにやってもらえるとは思っていなかった…と言っていました。

このご縁をいただけたことは家族全員がラッキーだったと感じております。

***病院の**先生には、手術の日に報告とお礼のお電話をしました。

無事に行けたことを喜んでくださってる気持ちがすごく伝わって来たので嬉しかったです。

これも米田先生とチームの先生方のお心遣いあってだと思っております。

ありがとうございました。

手術が終わって数日、しばらく私は放心状態でした。。

こんな早くに父の生死に直面するとは思っていなかったので、

勉強になったことや改めて感じたことがたくさんあり

家族の信頼関係が深まった良い出来事になったと思っています。

両親は退院後の1ヶ月検診まで奈良に滞在することになりました。

私も週末や連休を利用してまたそちらに行く予定です。

検査結果もこれからかと思いますし、退院までまだしばらくお世話になると思いますが
どうぞよろしくお願いいたします。

それと今回の手術で、米田先生と増山先生についてジャーナリスト取材があったと父に聞いたので可能であれば是非記事を読んでみたいです!

では、日々おいそがしい身でいらっしゃると思いますが

どうぞお身体ご自愛くださいませ。

またご連絡いたします。

*********************

患者さんはその後も経過良好で日々元気さを増し、毎日しっかり食べて歩いてという健康生活への道を進んでおられました。

心臓はすでにすっかり回復し、腎臓も着実に良くなっていました。

そのころに頂いたお便りです。

***** 患者さんのご家族からのお便り 5 *****

米田先生、お世話になっております。

昨日父から電話で今週末には退院できる予定と聞きました!

腎臓の治りも早かったようで
ありがとうございます^ ^

父はかんさいハートセンターに来て良かった、としみじみ言っています。

先生達が毎日顔を出してくれたことや

術後の痛みがまったくないのは前と全然違うと。

苦痛や不安がないのは患者にとってはすごくありがたいことだと思いました。

もう先はないと諦めていたのに、こんなに早く帰れるとは!と言っておりました。

今後は早く落ち着いて、親孝行したいと思っております。。

最近は「医龍」を一気に観ていました。先生のHPも引き続き読ませていただいております。

ドラマは脚色されていますけれども
手術シーンはけっこうリアルに感じました。

米田先生のチームもあんなふうに手術されているのかな…などとまた感動しています^ ^

予定では20日頃の退院と聞いています、私は次の3連休に行く予定だったので、もしかしたら退院後になってしまうかもしれませんがナースステーションにご挨拶したいと思っております。

増山先生にもお会い出来ると嬉しいです。

ではまたご連絡いたします。

**********************

患者さんが元気に退院されてしばらくしてからお便りを頂きました。

感染性心内膜炎とくに大動脈基部膿瘍は心臓手術の中でも難易度が高いものとして知られています。

自分が若いころ見た手術のように、、、術後、人工弁は再感染し外れてしまい、、、という恐ろしい事態を回避したかったのです。

これまで山ほど再手術やIEを治して来た経験が多少でもお役に立てたのであればこれほどうれしいことはありません。

患者さんにはこれから楽しい生活をご家族と送って頂けましたら幸いです。時間ができれば奈良へまたお立ちより下さい。

 

***** ご家族からのお便り 6 *****

米田先生

東京も桜が咲き始めて、季節が変わったのを感じます。奈良もますます情緒豊かな季節になりますね^ ^

Facebook承認ありがとうございました。
先生の日常のご活躍が見れて嬉しいです。

この間、お電話で先生に直接お聞きして実感したのですが、やっぱり手術や移動のタイミングを逃して手遅れになられる患者さんは多いのですね…

今回の父の件でじかに体験したので私もそこはとても気になっていました。

地方の人はとくに知らない人は知らないまま、治るのに簡単に諦めてしまったり、痛みや苦しい思いをしてもなお亡くなる方が多いのでは…と考えるとつらいです。

今回は長文になってしまい申し訳ないのですが、今までお送りしたメールや今回のいきさつなどは、是非、ご自由に使っていただいて転院まで踏み切れない患者さんの手助けになればと切に思っております。

私の世代になると周囲で親が心臓手術したという話はよく聞きます。

いろいろ記事も読むと多くの病院ではごく当たり前の手術はできるけれど…というのが現状のようですね。

**先生と初めてお会いして父の病状を聞いた時、父や母に聞いていた通り一方的でこちらの話はほとんど聞いてもらえませんでした。とにかく諦めてくださいということで…

でも、無事に手術に入っていると報告をした時はまるで別人のように(笑)優しくなられていてすごく嬉しかったです。きっと米田先生のお志が連鎖したんですね!

その後、父は地元に帰れたことでとてもホッとしている様子で、声を聞くと安堵感が伝わってくるのでわかります。

高齢者で田舎の人達は保守的で、地元を長く離れることはストレスになるんですね。

沖縄から来られた患者さんも、なるべく早く元の生活に戻るよう促した結果、良かったという実績を例にあげて伝えてもらったのがとてもわかりやすかった、と父が言っていました。

私たち世代はインターネットで何でも知ることができますが、PCをツールとして使えない人は高齢者に限らず、想像も出来ないくらい情報が偏っていく時代だと思います。

転院しないとまずいというのは私は調べてすぐにわかりましたが、そのことを両親にどうやって伝えたらいいのか苦労しました。

本人が納得していないのに無理に転院を勧めても意味がないですし、弟や父母には冷静に何度も話しました。

「そんなことまでして本当に治る保証はあるの?」

「飛行機になんて乗れるわけない」

「名医の先生にお願いしたほうがいいのはわかるけど今の病院での手術日が決まっているし、今から転院なんて無理がある」

父にも「そこまで迷惑かけてまでこれ以上生きたくない」と言われた時はもう何も言えなくなってしまいました。

主治医の先生から私が直接話を聞いたのが手術予定日の12日前で

「ここまで進行していると術後も再発する可能性がある、いつまで生きられるのか保証はできないことは了承いただきたい」と言われてしまったので、転院を考えているとだけお伝えして、父にもう一度話をしなければと思いました。

先生が心臓手術は一生に一度あるかどうかの大事なので、納得するまで熟考するべきと言っていただいていたのが何より心強かったです。

父はとにかく体調が悪いので、先生のHPの記事をなるべく疲れさせないように興味のあるところをたくさん見せて話しました。

PVEはとても厄介だけれど頑張れば完治もできる、執刀医の経験や知識がとくに求められること、遠方からもたくさんの方が転院して手術を受けていること、元気になった患者さんの声、同じように北海道から飛行機で移動して転院した患者さんも実際にいて、その後は元気に回復したことなどを話しました。

それといちばん父が心配だったのは、行って治ったとしても、地元に戻った時に今の病院と気まずくなって通院できなかったら困る、ということでした。

でも、そこもきちんと対応してもらえると書いてあるよと伝えると、「そんなことまで本当にやってくれる先生なんているの?!」とびっくりしていました。

「今からでも間に合うなら転院して、元気になりたい」とはっきり父の意思が言葉に出たのですぐに先生に電話をしました。

あとは、主治医の先生に了承をもらうだけでしたが、やはりここがいちばん大変でした。

土日だったせいもあるのですが、転院を具体的に進めたいと伝えても、先生ではなく看護師さんからそれは無理ですと伝言が来るだけで、先生同士で話すこと自体を避けている状態なのがわかったので…

「命に関わることを伝言で済ませるわけにはいかないんです」と伝えたところその看護師さんも「私もそう思います」とおっしゃってくれて

「とにかく1度先生同士でお話いただかないことにはこちらは何も決められない状態です」と看護師さんにお伝えしたところ、翌日(日曜ですが先生が病院に来て頂くことになり)直接お話することになりました。

父と私と母と3人で面談したのですが

もう10日後に手術日が決まっている、今の病状で飛行機を使って移動した患者さんはいない、今までそういう事例がなかった訳ではないけれどトラブルになりそうになったことがある、など、やはりまったく話を聞いてもらえなかったのですが

付き添いのお医者さまに空港まで迎えに来てもらえることを伝えたところ、やっと先生同士でお話していただくということになりました。

その日の夕方に無事に転院できることになったと先生から連絡いただいた時は、本当に安堵感でいっぱいでした。。

今回、一通りやってみて転院の流れはわかりました。急に予定が早まるというアクシデントも含め、介護タクシーやJALの手配など、昔、旅行会社にいたことと旅行好きが役に立ちました。

もし差し支えなければですが、例えばメールの問い合わせをして来た方などで実際に転院した人の話が聞きたい、主治医の先生に転院を切り出せない(ここはけっこうな難関なのではないでしょうか…)など、メールやLINEの無料通話であればお金もかからないですし、直接お話するのも私はかまいません。

少しでもお役に立てれば嬉しいです。

今回は家族みんなで困難を乗り越えられて私自身も人間的に成長できました。

素晴らしい思い出をたくさんいただけたこと、なんとお礼を言っていいのかわかりません。

日々休むことなく救命にエネルギーを注いでいらっしゃる皆様の姿勢には本当に感銘いたしました。

今後ともずっと応援させていただきます。

かんさいハートセンターのさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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