第一回江東豊洲心血管カンファランスに行って参りました

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この会は新東京病院で活躍して来られた畏友・山口裕己先生が昨年、昭和大学江東豊洲病院に循環器センターを立ち上げられたのを機に開催されました。就任祝賀会もあわせておこなわれました。

山口先生は岡山大学の佐野俊二教授のもとで研修し、その後ニュージーランドにある有名なグリーンレーン病院でコンサルタントにまでなられ、腕をあげて帰国された仲間です。

祝賀会ということもあり、同先生がかつてお世話になられた恩師や友人の先生方も内外から参加され楽しい会になりました。

私はチーム山口の研究発表に対する指定発言という重責を頂いての参加でした。

昭和大学江東豊洲病院
カンファランスはまず研究発表から始まりました。

新東京病院のころから優れた手術をそれも多数こなしてこられたチームですので私も楽しみにしていました。

三尖弁閉鎖不全症で右室の拡張が高度なものや弁尖が不足する状態では三尖弁形成術はかなり難しいことがあります。そこでパッチをもちいて前尖を拡大しゆうゆうとしたかみ合わせで弁の逆流を止めるという手術を行って来られました。

私はつぎのようにコメントしました。これは三尖弁形成術の限界をさらに高める立派な方法であること、同時に弁膜症とはいえ右室拡張がその病態の本質であるため、右室機能を高めるための方法たとえば乳頭筋の位置移動なども併せ検討してくださいとお願いしました。なお個人的にはこうした拡大形成術と将来のTAVI、バルブインバルブを考慮した生体弁TVRを傷跡の目立たないMICSで行うことの二本立てが良いのではと考えています。


つぎに巨大左房縫縮術のあとの呼吸機能をCPXで検討された結果を示されました。

僧帽弁形成術や置換術、そしてメイズ手術と同時に行う手術で、良い経過ながら肺機能の向上というレベルには至っていないようでした。

私はこの努力は意義があり続けて下さいとコメントしました。さらに欧米の方法では出血リスクが高いため10年ほど前にJTCVSやEJCTSに発表した私たちの方法なら出血ゼロのためさらに安全にでき、除細動率もあがり、患者さんはお元気であることをお話しました。巨大左房の患者さんは5年もたてば大半が亡くなるというEBMがあり、この手術は極めて有意義で、さらに進められるようにお願いしました。


さらに大動脈弁輪縫縮術を応用した大動脈二尖弁形成術の経験を発表されました。

これも素晴らしい仕事で、VAジャンクション(心室と大動脈の接合部)の本格的な形成・縮小は理に適ったことですが、シェーファーズ先生らの簡便な方法とも比較して最適術式を探って下さいとお願いしました。これから大動脈弁形成術はさらに進化すると思います。

 

ランチョンセミナーは2つあり、まずオークランド市立病院のMilsom先生のグリーンレーン病院のお話がありました。

私も弟子がお世話になった素晴らしい病院で今からでも機会をみつけて訪問したく思いました。


もうひとつの話題はタイの畏友Taweesak先生が僧帽弁形成術が患者の人生を治すというタイトルでのご講演でした。

リウマチ性僧帽弁膜症への形成術ではすでに世界的権威のTaweesak先生ですが、通常の僧帽弁閉鎖不全症でも新しいコンセプトで弁形成をより進化させておられるのがわかりました。リウマチの弁膜症は現代の日本では少ないですが、それでもときどき患者さんが来られます。例数が多いタイの経験も加味してしっかりと形成したいものです。


それから山口先生らの僧帽弁形成術後の狭窄の報告がありました。

運動負荷エコーの進歩でこれまであまり見えなかった問題が見えるようになったのです。今後の僧帽弁形成術の展開に重要なテーマです。私たちはこれへの対応を始めており、やはり弁尖で不要なものは切除する、リングは大き目である程度やわらかいものを使う、などの工夫をしています。これは「respect rather than resect」行き過ぎへの警鐘と、かつてトロントで柔軟リングと硬性リングの差は運動負荷によって明らかになることをジャーナルで発表したことを踏まえてのことです。


機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する前尖や後尖へのパッチ拡大術を発表されました。この方法は弁逆流の制御には良いのですが、左室機能改善には直接役立たないため、乳頭筋吊り上げなどを検討して下さいと後でコメントしておきました。なるほどと思ったのは後尖へのパッチは前尖へのそれより長期成績が良いことで、後尖テザリングの制御が重要であることを裏付けるもので、この意味でも有用な研究と思いました。

 

ここから特別講演で、まずメイヨクリニックのシャフ先生が症状のない大動脈弁狭窄症の予後や治療についてお話されました。症状がなくても長期生存率は低いため、患者も医師も十分理解したフォローが必要とあらためて感じました。日本では循環器の病院でも症状がなければ放置して良いと思っている先生がまだおられ、これからの啓蒙活動が必要です。と同時に外科はさらなる治療成績の改善も重要です。

 

順天堂大学の天野篤教授は冠動脈バイパスの過去・現在・今後についてお話されました。すでに世界のトップレベルに達した感のある日本の冠動脈バイパス手術の原動力のような先生のお話はためになり、夢のある内容でした。

私の橈骨動脈グラフトの研究成果にも触れていただき、ありがとうございました。これから日本のバイパスの良さつまり動脈グラフトとオフポンプを守りつつ、MICSなどで新たな展開をしたいものです。

 

トリは岡山大学の佐野俊二教授のお話、夢の扉をひらく、でした。

佐野先生とのお付き合いは長いのですが、一貫して進めてこられた先天性心疾患の外科治療が社会活動、国際協力、国家プロジェクトの一環というレベルにまで上がり、夢のあるお話でした。

そういえば昔、ベトナム・ホーチミン市のチョーライ病院に心臓血管外科を私たちが立ち上げたことを想いだし、こうした活動を国を動かすレベルで大掛かりにすることの意義をあらためて感じました。

 

カンファランスは多数の参加者を得て盛会裏に終了しました。

その合間をぬって、昭和大学江東豊洲病院内を見学させて頂きました。ウォーターフロントの見事な景色と新しく高機能な病院、広々として見事な手術室やICUなど感心することばかりでした。我が高の原中央病院かんさいハートセンターもこうしたものを参考にして地域の中で患者さんに喜ばれるセンターにしたく思いました。

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そのあと会場をホテルへ移して山口教授就任祝賀会が開かれました。

大勢の先生方のご参加で楽しい会になりました。こうした病院全体が支援するハートセンターで山口先生とそのチームが大きな展開をされることを確信し、また応援したく思いました。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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