左室形成術とは

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◾️左室形成術とは?

左室形成術とは左室瘤拡張型心筋症その他の状態に対して左室の容量・サイズと形を整え調整することで左室の機能をできるだけ回復させる手術です。

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古典的なものとしては心筋梗塞のあとの左室IMG_0690b3瘤(右図、左室の一部がこぶのようにポコッと膨らみそれが左室機能を悪くしたり血栓ができて障害が起こる)に対しての瘤切除があり、多数の患者さんを救命して来ました。1990年代はまだこうした時代でした(英語論文 15番などをご参照ください)。

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その後カテーテル治療PCIやさまざまな薬の登場でいわゆる左室瘤が減ったものの、それに代わって虚血性心筋症という、左室全体が動かないタイプが増えました。

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図 梗塞後リモデリング

◾️この10-20年の流れ

これまでの左室瘤の手術では、左室の悪いところを切り取るために術後は良くなるのはある程度自明でしたが、虚血性心筋症となると左室の悪いところと良いところの差が小さく、良いところも切り取ってかえって悪くなるという心配がでてきたのです(左図)。

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さらにこうした患者さんたちは手術前から心不全のため内臓が壊れたり全身の体力が落ちていることも多々あり、手術はできても体がついて来ない、ということのないように、注意が必要なのです。

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それをさまざまな工夫をして左室機能を良くするような切り方としたのがバチスタ手術であり、セーブ手術ドール手術オーバーラッピング手術、エリート手術なのです。詳しくはそれぞれのページをごらんください。

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それぞれ特徴があり、長所と短所をもっているため、一概にこれがベストと言いづらいところがあります。

どの左室形成術が良いかを考えるよりも、どれがこの患者さんに一番ぴったりくるかを考える、これが大切と思います。

そのため私はこれらの左室形成術をすべて活用しており、適材適所で選ぶようにしています。

そしてこの数年間、より患者さんの負担を減らし効果をあげる心尖部凍結型左室形成術を考案し、成績を改善しつつあります。左室形成術で死亡する患者さんはほとんどない、というレベルに達しました。

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◾️もっと患者さんを救うために

心移植がまだまだ患者さんのニーズを満たすほどに普及していない現在、左室形成術はうまくやれば患者さんをお助けする奇跡の手術になり得ます。心移植の手前の段階での治療と位置付けられている補助循環つまり人工心臓は太いケーブルにつながれている不自由さとその感染症などの合併症の多さからQOL(生活の質)が低く、なかなかなじめないというのが現状です。プロモーションビデオでは補助循環をつけた形でゴルフなどしておられる一コマもありますが、では実際に1ラウンドし、その後皆でお風呂に入り、食事を楽しみ、、それも隣に監視の医療者がいない状況で、といった普通の楽しみができるかとなればかなり???マークがつくでしょう。

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あるいは年齢その他の医学的、社会的条件のため、心移植や補助循環が許可されない患者さんでは左室形成術は唯一の治療法となることさえあります。

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このように患者さんにとって極めて有用有益な左室形成術ですが、内科の先生方の評判はそれほど良くありません。というよりあまり知らないという先生が多いのです。

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それは左室形成術そのものがそう多数行われている手術ではないこと、その成果を見る機会が内科の先生方に少ないこと、さらに欧米で行われたSTICHトライアルという欠陥研究で左室形成術は効果がないという結論を出されたため、頭からこれが消えてしまっているという現実があることも理由のひとつです。

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しかし私たち左室形成術を得意とするグループはこの良さを科学的に数字で示そうと研究会(重症心不全外科研究会)を立ち上げてデータを蓄積しているところです。

また私たちは2017年の日本胸部外科学会と重症心不全研究会で改良型ドール手術と心尖部凍結型左室形成術を発表し、前向きのコメントを多くいただきました。2018年のアメリカ胸部外科学会でもこの成果を発表し、世界に問いかけました。

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心不全でお悩みの患者さんにおかれましては左室形成術を熟知した医師に相談され、ベストの選択をされることをお勧めします。

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■ 患者さんの想い出:

Aさんは60代後半の男性で、虚血性心筋症のため心不全になって来院されました。

駆出率23%というのは健康人の心臓の半分-3分の1程度のパワーしかない状態で、冠動脈バイパスだけでどれほど良くなるか、これまでの日本あるいは海外のデータを見ても心配な状態でした。それは以前の心筋梗塞のため生きて仕事ができる心筋(心臓の筋肉)があまり残っていないという恐れでもありました。

このままでは予後不良のため、バイパスに加えて左室形成を検討しました。

しかし左室全体が力を落としており、とくにここが悪いとか、ここを切除すれば良くなるという部位がない、そうした状態でした。

そこで近年私たちが試みている方法で左室の形を整え、一番悪いところを中心に正常のサイズと形にもどすという手術を行いました。

特に悪い部分はない(全体に悪い)ため、左室壁は切除しませんでした。

冠動脈バイパスは2本つけ(ca010a-s左前下降枝と回旋枝)、計測しますとバイパスグラフトに良く血液が流れており、まずバイパスとして成功でした。

手術を終えてみると心臓はかなり元気です。

リハビリもどんどん進み、まもなく普通の運動さえできるようになり、笑顔で退院して行かれました。

退院直前の心エコーでは駆出率は手術前の23%から48%まで増えていました。正常値は55-65%ですので、正常の近くまで回復したことになります。

循環器内科の先生方も驚かれ、左室形成術ってこんなに心臓を元気にしてくれるのですか!と言って下さいました。

長年左室形成術の開発・改良を続けて来た私にとっては、この程度の改善はそう驚くほどではないのですが、大切な仲間である循環器内科の先生方にこの新しい左室形成術の真価を認めて戴けたことは大変うれしいことでした。

患者さんはその後も回復を続けられ、外来では駆出率50%台をキープし、元気に普通の生活を楽しんでおられます。

この成果は学会でも発表し、評価を頂きました。

自分たちの経験だけでなく、全国の実績ある心臓外科医と協力して重症心不全研究会を立ち上げ、左室形成術の特徴や利点、有用性を証明すべく全国データを集めて発信する努力を続けています。実際、左室形成術のおかげで命拾いした方、移植が受けられない年齢でも左室形成で元気になられた、などうれしい知らせが結構あります。

昔、テレビで左室形成術を「奇跡の心臓手術」と形容されたことがあります。それほどではなくても、着実に、左室のどこがどう悪くてパワーダウンしているかを今後も研究し、より短時間で、より負担少なく、より効果的な左室形成術を開発して行きたく思います。

Aさん、また外来でお元気なお顔を見せてください。今年は山登りか海外旅行でも如何ですか。

 

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