メイズ手術―心房細動の多くは治せます

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◾️メイズ手術とは?

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心房細動という不整脈を治すための心臓手術です。左心房の中で悪い電気信号が通る道を食い止めることで不整脈が起こらないようにするのです。以下もう少し詳しく解説します。

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心房細動は脳梗塞などを起こす怖い病気ですが、

普通はまずお薬や生活の指導で改善あるいは安全確保できます。

それでもダメなときはカテーテルによって心房の悪いところを焼く、アブレーションを行います。

右図の電気信号がくるくる回る悪い道筋をブロックするのです。

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それでもダメなときや、弁膜症あるいは今にも飛びそうな大きな血栓が心臓内で動いているときに外科手術が役立ちます。

もちろんメイズ手術をそのときに同時に施行して心房細動そのものを治すわけです。

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◾️メイズ手術の生い立ち

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DrCox2 1987年にアメリカ・セントルイスにあるワシントン大学のコックス先生(Dr. James Cox、左写真です)が開発された術式です。

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心房の中をまるで迷路(英語でメイズ)のように複雑な切開を入れ、

心房細動の原因になる悪い電気信号を遮断するというのが

この心臓手術の考え方です。

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心房の壁をいったん切ってつなぐため、

壁の切り傷が治っても心臓の筋肉は治らないため、電気も通らなくなるわけです。

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この手術が発表されたとき、トロントで仕事をしていた著者もアメリカの学会でその講演を聴き感心したものでした。

さすがアメリカ人のパイオニア精神はすごいと思いました。

メイズ手術はその後改良を重ねられ、バージョン3ともいえるメイズ手術まで進化しました。

これが cut-and-sawつまり切ったり縫ったりの方法です。

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ワシントン大学のデータではメイズIII手術では術後10年で96%の患者さんが心房細動なしで過ごしておられるそうです。

その間、脳卒中なしで行ける確率は99%を超えます。

現在はさらに低侵襲化を加味したメイズIV手術まで開発されています。

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◾️メイズ手術はなぜ効くか?

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この手術は電気信号が心房の中を異常な形でぐるぐる回る、

マクロリエントリーと呼ば Classic CoxMaze れる状態を止めることで心房細動を治す方法です。

悪い電気信号を止めるために心房のあちこちを系統だってきちんと切り、

そしてそこから出血しないようにつなぎなおします。

こうすることで洞結節(SA nodeという、自然のペースメーカーです)からの正常信号が正しく心房を通過し、

きれいな脈になります。

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昔の不整脈手術とはちがってメイズ手術は心房と心室の正しい同期や規則正しい脈拍を回復させることができます。

そのため脳卒中も減るわけです。

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◾️現代のメイズ手術へ

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そうしてこの手術は心房細動治療の主流になりました。

メイズ手術は当時このように革新的な治療法だったわけですが、

その名のとおり手技が複雑で一部の心臓外科医しかできない手術でした。

1999年のアメリカのメイヨクリニックの検討でも手術死亡が1.4%、ペースメーカーが3.2%必要でした。

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Maze ATS
その後メイズ手術は進歩をとげ、心房壁をinsicion(切る)する代わりにablation(焼く)するようになり、

出血の心配も減り安全性が高くなりました。

心房壁を焼くことで筋肉は瘢痕(すじのような組織です)となり悪い信号は伝わらなくなります。

この方法をメイズIVと呼ぶことがあります。

ラジオ派焼灼と言われる温熱法で比較的簡単な手術ができるようになりました。

私たちはそれに先立って1990年代の終わりごろから、冷凍凝固法を改良し、短時間でできるメイズIV手術で成績を上げました。

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◾️メイズ手術、これからの展開

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心房がそれほど大きくないときや心房細動の期間が10年以内であれば

この方法で十分な成果つまり除細動ができるようになりました。

そしてそれでも治らない重症例に対して心房縮小メイズ手術を開発して

治療の恩恵が広がる努力を進めて行ったのです。

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また重症例だけでなく軽症例にはより低侵襲つまり体への負担が少ない同手術が発展しました。

たとえばラジオ波焼灼をもちいて体外循環なしでメイズ手術ができる簡易型の方法や、

心臓を止めてもより短時間で焼灼できる方法などです。

私たちは体外循環なしで、しかもお腹に小さい切開を入れるだけで完全メイズができる低侵襲完全メイズ法をヨーロッパから導入し、内科の不整脈の先生方とチームを組んで日本で実現できるよう、努力をはじめています。

これらは心房細動に悩む患者さんにとって朗報となるでしょう。

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MICS3 あわせてMICS法で僧帽弁形成術などの僧帽弁手術をすることが増えたのを活かして、

メイズ手術をミックス手術(MICS)の小さい皮膚切開でも行えるようになりました(ミックスメイズ手術のページ)。

右図で左側が従来手術の皮膚切開、

右側がMICS法による皮膚切開の創です。

患者さんにやさしい治療の一翼をになえれば幸いです。

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◆患者さんの想い出:

Aさんは70代の女性です。僧帽弁、大動脈弁、三尖弁という3つの弁が高度に逆流し、30年来の心房細動もあって来院されました。肝臓や腎臓も弱っていました。

このままでは見通しが暗く、長生きできない状態でした。

そこでオペすることになりました。

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まず僧帽弁を見ました。形成できないことはないのですが、4つの術式を行うため時間が押していることと、ご年齢から生体弁でも20年は持ちそうな状況のため、安全確実に生体弁で弁置換しました。

左房はひどく拡張していたためこれを縫縮して小さくし、そのうえでメイズ手術を行いました。いわゆる心房縮小メイズ手術です。通常の同手術では歯が立たないようなケースでも効果があります。

それから壊れた大動脈弁を生体弁で取り換え、最後に三尖弁を形成して手術を終えました。

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術後は心臓がうんと小さくなり胸の中にしばらく空間ができて水が貯まったためこれを抜くなどの操作を行い、お元気に退院されました。外来でお元気なお顔を拝見するたびにうれしい気持ちになります。医師ー患者の関係というより同志か同級生という感覚で雑談ばかりしています。

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この方法は30年ものの心房細動にも効果があり、患者さんの回復を助けてくれました。

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