不整脈外科研究会にて

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この2月19日に第28回不整脈外科研究会(於、熊本)に参加しました。

日本心臓血管外科学会のサテライト研究会として毎年開催されている、不整脈外科についての実力派専門家の集まりです。今回は京都府立医科大学の夜久均教授が当番世話人でした。

数年前には私自身が当番で、充実したひとときを過ごさせて戴きました。

今回は「Maze手術後の心房機能について」、という渋いテーマでした。大変重要で患者さんにとって、大きな意味をもつものですが、意外に心臓外科医の世界ではあまり理解されていない領域でもあります。

はじめに代表世話人である日本医大の新田隆先生が心房細動手術における心機能というタイトルで講演されました。基調講演とも言える、内容のある、よくまとまった内容でした。

ついで不肖私、米田正始がMaze手術後の心房機能Update―心房縮小メイズ手術の検討からというタイトルで講演いたしました。

この10年ほど、メイズ手術でも治せない重症心房細動を心臓手術で治そうという意気込みで考案した「心房縮小メイズ手術」で、術後心房機能がけっこう回復することを示し、それゆえ、普通の心房細動の患者さんなら術後心房機能はもっと良くなるというメッセージを盛り込みました。

巨大左房と言えどもここまで小さくなり、これだけ動く、ということを実際の症例のエコーやMRIで示しました。かつてJTCVSやEJCTSから論文として世に問うた内容をリバイバル風にお示ししました。

さらに名古屋ハートセンターかんさいハートセンターで行った101例の強化メイズ手術の検討から、心房機能が術後半年の間にかなり回復し、術後1年以後は除細動率・心房機能とも100%近いレベルに達することをお示ししました。

さすが超専門家の集まりで、さまざまなご質問を戴き勉強になりました。

1.心臓外科の大先輩である川副浩平先生の心房縮小手術とどうちがうのですか、

2.どういったラインで心房縮小するのですか

3.なぜこれだけ成績が良いのですか

などですね。

1.は、川副先生の術式が発表された時代はまだメイズ手術の概念が十分でなく、メイズ手術の切開線とは違う縫縮線を用いられたため、現代のメイズ手術→除細動へとはつながらなかった。私の術式はメイズ手術を考慮した縫縮線であるため、心房縮小と除細動を同時に達成できるという利点があることをお話ししました。

2.については、言葉でご説明するのは少々わかりづらいと考え、ちょっと違った形でお示ししました。つまり、Autotransplant(自家移植)の縫合線と同じラインを縫縮することをご説明しました。

3.は、左房が術後うんと小さくなること、MRI計測でなんと3分の1の容積になること、そして心房拡張の原因である僧帽弁閉鎖不全症が手術で解消されていることから術後には時間とともに心房が小さくなって行くこと、それが時間とともに除細動率が高くなっていくことにつながる旨をお話ししました。

弁形成のリングのためMRIのシグナルが乱れて計測が不正確になるのではないかという鋭いご質問を頂きましたが、幸い私は当時、デュランリングというもっとも柔らかい、金属がわずかしか入っていないリングを用いており、MRI画像への影響はほとんど問題なかったことをお答えしました。

その後のディスカッションの中でも、巨大左房が患者さんの長期生存率を下げるため、これを手術で解消することは患者にとって大変役立つことをご説明しました。

いろいろ御意見やご質問を戴き、感謝の発表になりました。

それから名古屋大学と京都府立医科大学から心房機能の検討の報告がなされました。

特別講演は愛知医大の磯部文隆先生の「Maze手術後の心房機能について」で、豊富な文献的考察と同先生の経験とがあわさり、学ぶところが多く、つい調子に乗っていろいろご質問させて戴きました。

あっという間に過ぎた2時間でしたが、これからの不整脈外科手術に役立つ情報が得られた充実したひとときでした。

新田先生、夜久先生、関係の皆様、ありがとうございました。東京医科歯科大学の荒井裕国先生、来年は当番世話人がんばって下さい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り74 ポートアクセス法で僧帽弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

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Hana_1

 

僧帽弁形成術は僧帽弁閉鎖不全症の患者さんを長期にわたって守る、優れた手術法です。

なかでもポートアクセス法による、小さい創で骨も切らずに行うミックス手術(低侵襲手術)は、患者さんの社会復帰が早く、僧帽弁形成術の良さをいっそう引き出す方法と思います。

つぎのお便りは、大阪から来られた50代男性患者さんからのものです。

僧帽弁閉鎖不全症と心房細動のため、ポートアクセスで僧帽弁形成術と左房メイズ手術を行いました。

弁の逆流はきれいに取れ、リズムも正常にもどりました。

経過良好で、遠方のためすこしゆったりとリハビリをしながら入院していただき、術後10日目に元気に退院されました。

 以下はその患者さんからのお便りです。

 

 *******患者さんからのお便り*******

6月7日に手術を受け経過も良く本日6月17日退院させていただく事になりました

心臓弁膜症とメイズ手術を同時に受けました。

ポートアクセス法にて(メイズ手術)も同時にして頂き、体への負担も少なく、痛みもそれ程感じませんでした。

経過も良好で本日6月17日退院します。

お世話になった米田ドクター、北村ドクター、深谷ドクター、木村ドクター始め沢山のナース、スタッフの方ありがとうございました。

若い看護師さんも沢山いて皆さん元気で頑張っておられます。

上司の方や、特に若手の医師の方にお願いです。 看護師さんを大事にしてあげて下さい。 また たまには励ましの
一言をかけてあげて下さい。

また、米田先生の外科医としての高い技術を頼りここに来て本当に良かったと思います。

本日6/17 日 退院します。

ここに来て思った事の1つに一流の方はどこまで行っても謙虚であられるという事です。

また米田先生はもちろんのこと北村先生を始め全スタッフの方に感謝いたします。

ありがとうございました。

 

************************

その後、この患者さんはたまたまお腹の急病を発生し、危篤状態となられ近くの病院でお腹の緊急手術を受けられました。

大きな手術でしたが、心臓はびくともせず、患者さんももちまえの頑張りで見事に回復され、私の外来へ健診と報告にお越しになりました。

こうした不慮の場合も考えますと、僧帽弁置換術に比べた僧帽弁形成術の良さは一段とひかると思います。

それだけばい菌にも強く、出血もしにくく、他手術も安全に行いやすいわけです。

患者さんがこれから健康を完全に取戻し、楽しい生活を送られることを信じ、また祈っています。

 

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ミックスによるメイズ手術―切り札がより身近に? 【2022年最新版】

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最終更新日 2022年2月4日

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◾️ミックスの展開

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ミックス(MICS、小切開低侵襲心臓手術、代表例はポートアクセス)が

患者さんに喜ばれています。

MICS3 僧帽弁形成術三尖弁形成術

あるいは僧帽弁置換術にミックス法は大変役立っており、

安全性を確保しつつ、心臓手術の質を落とさず、

術後の苦痛軽減・早い社会復帰や少ない輸血とともに創が小さくみえにくいというメリットが喜ばれています。

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◾️そしてミックスのメイズ手術

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上図で左側は従来の胸骨正中切開のときの創、右側はミックスのメイズでの創です。

最近はさらに創が小さくなっています。

143069344

胸骨正中切開は安定した、良い方法なのですが、

骨をいちど切る必要があるため、

完全に治るまでに2-3か月かかるのが弱点です。

皮膚や筋肉だけなら1-2週間でほぼ治りますから社会復帰が早くなるのは当然かも知れません。

私たちはミックス手術には肋間神経ブロックも併せて行うため、

術後の痛みが少なく、それが回復をさらに速めているように感じます。

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◾️弁膜症手術+メイズ手術もミックスで

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弁膜症手術と同時に心房細動に対するメイズ手術もミックス 142148374で行っています。

僧帽弁や三尖弁の手術ができる以上、メイズ手術も当然できるのですが、

実際にやってみるとその良さがさらに際立ちます。

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メイズ手術そのものは左心房の内側から冷凍凝固法をもちいて、完全メイズ手術を意識した形で行い、冠静脈洞の心外膜側も処理をして、よりしっかりと除細動ができるようにしています。

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2012年4月の日本不整脈外科研究会で発表しましたが、9例での除細動率は100%でした。

必要に応じて右房側のメイズも行います。冷凍凝固法では食道その他合併症もこれまでありません。

心臓手術・事例:視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術とメイズ手術)

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139373093◾️どんな患者さんにミックスのメイズ手術を?

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現在のところ、オペの適応は不整脈の薬が効きづらく、

内科のカテーテルアブレーション(カテーテルの先端につけた電極で熱により悪い信号をブロックします)が不成功であったりできなかったりという患者さんに行っています。

また近年注目を集めている心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症に対しても心房縮小メイズ手術を弁形成と同時にミックスで行うとより良い状態になると期待されています。

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近い将来、オフポンプ小切開メイズ(内科とのハイブリッド手術です)が実用化するまでは

このミックスでのメイズ手術がお役に立ちそうですし、

その後も患者さんによっては良い適応となるケースがあるかも知れません。

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◾️孤立性心房細動(ローンAF)へのミックスメイズ手術

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IMG_0565b心房細動単独、つまり

いわゆるlone AFと呼ばれる病気に対するMICSメイズの手術事例を供覧します。

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写真はミックス(MICS)でのメイズ手術の6か月後の創です。

カテーテルアブレーションを2回受けても治らなかった心房細動がきれいに治って喜ばれました。

わたしたちのLSH法とよぶ、副次創を最小限におさえる方法でメインの傷以外の傷跡は1つだけです。普通のMICSよりもより目立たなくなります。

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乳腺を持ち上げても傷跡はあまり目立ちませんので、普通の状態ではほとんど見えません。

患者さんの肉体的・精神 Ilm16_aa02003-s的負担を軽減するためにも役立っているようです。

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◾️心房細動は怖い病気です

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心房細動は野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんの例を見るまでもなく、

予後が悪い病気で、その悪さは最近まであまり知られていませんでした。

これからはきちんと治し、

あるいはコントロールすることで健康な生活を守れるようにしたいものです。

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは

  とくにポートアクセス手術とは
  
  その位置づけ
  
  それが前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

ハートポートとは
  


危険なの

  
  それと術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成

  同、弁置換

  ポートアクセスによる弁形成術

三尖弁

  ミックス法による弁形成術

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成術を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成を受けられた患者さん

お便り62: ミックスの弁形成と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックスで受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動を同法手術で克服

お便り74: ポートアクセスで弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん

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医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
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メイズ手術―心房細動の多くは治せます 【2025年最新版】

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AF scheme最終更新日 2025年1月4日

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◾️メイズ手術とは?

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心房細動という不整脈を治すための心臓手術です。左心房の中で悪い電気信号が通る道を食い止めることで不整脈が起こらないようにするのです。以下もう少し詳しく解説します。

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心房細動は脳梗塞などを起こす怖い病気ですが、

普通はまずお薬や生活の指導で改善あるいは安全確保できます。

それでもダメなときはカテーテルによって心房の悪いところを焼く、アブレーションを行います。

右図の電気信号がくるくる回る悪い道筋をブロックするのです。

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それでもダメなときや、弁膜症あるいは今にも飛びそうな大きな血栓が心臓内で動いているときに外科手術が役立ちます。

もちろんメイズ手術をそのときに同時に施行して心房細動そのものを治すわけです。

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◾️メイズ手術の生い立ち

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DrCox2 1987年にアメリカ・セントルイスにあるワシントン大学のコックス先生(Dr. James Cox、左写真です)が開発された術式です。

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心房の中をまるで迷路(英語でメイズ)のように複雑な切開を入れ、

心房細動の原因になる悪い電気信号を遮断するというのが

この心臓手術の考え方です。

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心房の壁をいったん切ってつなぐため、
壁の切り傷が治っても心臓の筋肉は治らないため、電気も通らなくなるわけです。

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この手術が発表されたとき、トロントで仕事をしていた著者もアメリカの学会でその講演を聴き感心したものでした。

さすがアメリカ人のパイオニア精神はすごいと思いました。
メイズ手術はその後改良を重ねられ、バージョン3ともいえるメイズ手術まで進化しました。

これが cut-and-sawつまり切ったり縫ったりの方法です。

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ワシントン大学のデータではメイズIII手術では術後10年で96%の患者さんが心房細動なしで過ごしておられるそうです。

その間、脳卒中なしで行ける確率は99%を超えます。
現在はさらに低侵襲化を加味したメイズIV手術まで開発されています。

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◾️メイズ手術はなぜ効くか?

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この手術は電気信号が心房の中を異常な形でぐるぐる回る、

マクロリエントリーと呼ば Classic CoxMaze れる状態を止めることで心房細動を治す方法です。

悪い電気信号を止めるために心房のあちこちを系統だってきちんと切り、

そしてそこから出血しないようにつなぎなおします。

こうすることで洞結節(SA nodeという、自然のペースメーカーです)からの正常信号が正しく心房を通過し、

きれいな脈になります。

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昔の不整脈手術とはちがってメイズ手術は心房と心室の正しい同期や規則正しい脈拍を回復させることができます。

そのため脳卒中も減るわけです。

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◾️現代のメイズ手術へ

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そうしてこの手術は心房細動治療の主流になりました。

メイズ手術は当時このように革新的な治療法だったわけですが、

その名のとおり手技が複雑で一部の心臓外科医しかできない手術でした。

1999年のアメリカのメイヨクリニックの検討でも手術死亡が1.4%、ペースメーカーが3.2%必要でした。

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Maze ATS
その後メイズ手術は進歩をとげ、心房壁をincision(切る)する代わりにablation(焼く)するようになり、

出血の心配も減り安全性が高くなりました。

心房壁を焼くことで筋肉は瘢痕(すじのような組織です)となり悪い信号は伝わらなくなります。

この方法をメイズIVと呼ぶことがあります。

ラジオ派焼灼と言われる温熱法で比較的簡単な手術ができるようになりました。

私たちはそれに先立って1990年代の終わりごろから、冷凍凝固法を改良し、短時間でできるメイズIV手術で成績を上げました。

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◾️メイズ手術、進化の道

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心房がそれほど大きくないときや心房細動の期間が10年以内であれば

この方法で十分な成果つまり除細動ができるようになりました。外科が先鞭をつけたメイズ手術ですが、内科のカテーテルでも外科のメイズ切開あるいは凝固ラインをカテーテルで焼き(カテーテルアブレーション)治療できるようになりました。

しかし左房が巨大になると通常のメイズ手術もカテーテルアブレーションも歯が立ちません。巨大化した心房を小さくしないと効かないのです。

そこで巨大に拡張した心房壁を切除してから組み立てる心房縮小が開発されましたが、時間がかかり、もし出血すると心臓の外から止血するのは容易ではありません。そこでこうした重症例に対して侵襲の小さい、心房壁を主に折りたたんで小さくする 心房縮小メイズ手術を開発して

治療の恩恵が広がる努力を進めて行ったのです。

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また重症例だけでなく軽症例にはより低侵襲つまり体への負担が少ない同手術が発展しました。

たとえばラジオ波焼灼をもちいて体外循環なしでメイズ手術ができる簡易型の方法や、
心臓を止めてもより短時間で焼灼できる方法などです。

私たちは体外循環なしで、しかもお腹に小さい切開を入れるだけで完全メイズができる低侵襲完全メイズ法をヨーロッパから導入し、内科の不整脈の先生方とチームを組んで日本で実現できるよう、努力をはじめています。
これらは心房細動に悩む患者さんにとって朗報となるでしょう。

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MICS3 あわせてMICS法で僧帽弁形成術などの僧帽弁手術をすることが増えたのを活かして、
メイズ手術をミックス手術(MICS)の小さい皮膚切開でも行えるようになりました(ミックスメイズ手術のページ)。

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◾️メイズ手術、新たな展開と課題

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体外循環を使わないWolf-Otsuka手術が考案され実績を上げています。この場合は左右両方の胸に小穴を数箇所開けて心臓の外から簡略メイズ手術をするため、心房拡張したケースでは限界が指摘されています。早期治療のタイミングが必要でしょう。

その中で、ただ左心耳を閉鎖するだけでも脳梗塞を減らせるというデータも報告され、心房細動よりも左心耳閉鎖に注目が集まる傾向があり、内科のカテーテル左心耳閉鎖(ウォッチマンデバイス)や外科の左心耳クリップなどが進歩しつつあります。いずれも低侵襲治療で今後の展開が楽しみです。

同時に巨大左房を放置した場合の予後の悪さも指摘されており、単なる左心耳閉鎖だけで患者さんの予後やQOL(生活の質)が本当に改善できるのか、さらなる検討が必要と思います。

 

右図で左側が従来手術の皮膚切開、

右側がMICS法による皮膚切開の創です。

患者さんにやさしい治療の一翼をになえれば幸いです。

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お便り26: メイズ手術の患者さん

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患者さんは40代の男性で、

以前に関東の大学病院で、

肺動脈弁狭窄症心房中隔欠損症(ASD)および心房細動への手術(いわゆるメイズ手術)を合計2度にわたって受けられました。

心房細動が難治性で手術でも治らず、

それを治して下さいと希望してハートセンターへはるばる来院されました。

 

このホームページの弁膜症のページなどでも論じていますように、

心房細動は近年、長期死 Hana_16 亡率の高い、予後の悪い疾患であることが認識されるようになりました。

それは心房細動が心房内に血栓を造りやすく、

それが壁から外れて血流に乗って脳に届くと脳梗塞になるからです。

たとえば野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんらのように。

 

そこで心房細動の患者さんにはワーファリンという血栓予防のお薬を用いて対処するのですが、

ワーファリンは切れ味の鋭い薬で、

毎月病院へ通って血液検査を受け、薬の量を微調整することが安全上必要という、

患者さんにとって負担の大きい薬でもあります。

しかもワーファリンを飲んでいても、

時に脳梗塞や脳出血なども起こることがあるという困った状態なのです。

 

この患者さんは昔からよく勉強しておられ、

私たちが普通のメイズ手術では治せないような心房細動でも新しい術式や工夫で何とか治していることを知って、

心房細動をぜひ治してほしいと希望して遠方からお越し頂いたわけです。

 

外来で調べますと、上行大動脈が拡張して瘤になっていましたので、それだけでも手術が必要な状態でした。

一般に心房細動単独で手術することはほとんどないのですが、

他の心臓・大動脈の手術が必要ならそれを治すついでに心房細動も治すというのはガイドラインでも認められていることですので、

手術することになりました。

 

3度目の手術のため、いつもどおり丁寧に癒着(心臓と周囲組織が貼りつきます)をはがし、

それから上行大動脈を人工血管で置換し、

強化メイズ手術(心房縮小メイズ手術)を行いました。

術後経過はスムースでまもなくお元気に退院されました。

今回のメイズ手術は威力を発揮し、無事心房細動も正常リズムに戻りました。

 

以下はその患者さんからのお便りです。

特定の病院等の批判になってはいけませんし、

患者さんに迷惑がかかるのは避けたいものですから、

固有名詞は一部省略してあります。

表現は褒めすぎのところも多々あり、私はそれほどのものではありません。

ただ患者さんの苦悩を何とかしようと努力する執念が人一倍強いだけと思います。

 

より強力なメイズ手術もそうした気持ちから生まれたもので、発表して5年ほど経ちますが、

最近は欧米の学会等でも評価され始め、うれしく思っています。

 

 

******************************

私は、4*年前、先天的に心臓に奇形がある未熟児として、東京に生まれました。

 

当時から心臓の権威と言われていた、**大学病院(以下大学病院)で診察を受け5才までの成長を待ち、

昭和44年に1回目の心臓外科手術が行なわれました。

病名は、肺動脈弁狭窄でした。

心房中隔欠損も認められましたが、成長に従って閉じるであろう。と言う判断から放置されました。

 

Carnation_1 その後、母が心臓病で他界し、父が私を育ててくれました。

私は自分のハンディに負けまいと努力を重ね、美大のグラフィックデザイン科から最大手広告代理店に入社し第一線の現場で10年以上働きました。

その後一人息子と言う事情もあり実家に、

戻り鍼灸師と整体師の資格を取得して治療家の道を歩み始めました。

 

しかし長年の無理のせいか、私の心臓はとても悪い状態でした。

ついに平成20年6月私は急性心不全を起こし、大学病院に緊急入院しました。

検査の結果、慢性不脈脈があり、心房中隔欠損は1cm以上開き、

右心房と大動脈は拡大し、左心室は小さくなっていました。

 

経食道エコー検査では、左心耳のくぼみに血栓が見つかり、

血栓が完全に解けないと手術はできないと言うことで、

1年に渡るワァーファリンの治療が始まりました。

 

翌平成21年7月、2回目の胸部大手術が行われました。

目的は、中隔欠損の閉鎖と不整脈根治のためのメイズ手術でした。

東京ではこと心臓において同大学病院が日本一の病院であると、多くの人に信奉され、

実際多くの心臓病患者は同病院に頼るのが現実です。

 

私たち親子も、必ず手術は成功し、治ることを信じていました。

病院側も最大の努力はして頂いたと思います。

当初、手術は成功に見え、チアノーゼもなくなりました。

しかし、不整脈は残りました。

2度のDC(除細動)を行いましたが、治りませんでした。主治医は、私にワァーファリンを飲み続ける事、将来ペースメーカーを入れる事を進めました。

私は、将来を悲観し深く絶望してしまいました。

人はどんな境遇でも生きなければなりません。

しかし、なぜ自分だけがという無念の思いは、多くの心臓病患者に共通するものだと思います。

 

退院後、悩んでいた時、知人から名古屋に心臓外科専門の病院がある事を聞きました。

大学病院でも治らなかった、今の私の病気を本当に治して頂ける先生が居るのだろうかと、私は、藁をもすがる思いで、インターネットを検索していました。

そして、名古屋ハートセンターを見つけたのです。

そのホームページにあった米田正始先生の聡明なお顔を見て、私の胸は、不規則ながら高鳴りました。

先生のメイズ手術における論文や、輝かしい経歴を拝見しながら、

この先生なら私を助けてくれるかもしれないと思い、

父に相談すると早速、連絡する事を、承諾してくれました。

名古屋ハートセンターに電話すると、

担当の看護師さんが、米田先生の外来の日を速やかに決めて頂き、

先生にお会いすることができる事となりました。

私は茨城県に住んでいましたが、

先生に会うためにはどんな距離も厭わないと、名古屋行きを決めていました。

 

同センターの最新のCTなどの検査機器での検査後、初めて米田先生のお話を聞くことになりました。

先生は、私の画像データを見ながら、

一般に行なわれている簡易型メイズ手術と本物のメイズ手術では、その成績に差があると話され、

メイズ手術開発者のアメリカの先生と、この問題について議論されるそうです。

ですから名古屋ハートセンターでは、米田先生が本物のメイズ手術を行う事ができるので、

殆どの確率で心房細動を取る事かできる。とおっしゃっていました。

 

更に、先生は、わたしの拡張した上行大動脈瘤の将来の危険性を指摘され、

人工血管に置換する事を勧められました。

先生はこれらの話を、気さくにごく自然に話され、私は夢でも見ている心境でした。

同時にこの時、私の最後の救世主は、米田先生以外にいないと確信しました。

時期を見て、父との面談も経て、先生は心よく執刀を約束してくれました。

先生は、京都大学教授時代から日本を代表する心臓血管外科の名医として知られていた方で、

私は本当に幸運な患者の一人だと思います。

 

平成22年3月31日、私は三回目にして、

大学病院では治らなかった心房細動を治すための新メイズ術と、

最難関心臓血管外科手術と言われる大動脈瘤置換術を、

名古屋ハートセンターで、米田先生の執刀により受ける事となりました。

 

そして、集中治療室で、目を覚ました時、手術が成功した事を聞かされました。

 
米田先生からお父さんに電話してあげなさい。と言われ電話すると、

父は、嬉しさで号泣していました。

米田先生の優しさと偉大さには、心から感謝しています。

その後度々、先生が回診に来られ、私は順調に回復して行きました。

 

私は、大学病院と、米田先生の新メイズ術にどのような技術的な違いがあるのかわかりません。

しかし、はっきり自らわかる事は、拍動が以前より安定して、自分は助かったという実感につながったと言う事です。

あのままでは、一生薬を飲み続けなければならず、いつ脳梗塞になるかわからない、と言う状態から、

米田先生の手術で、健常者に近い状態にして頂いたという事です。

 

私は、幸運な偶然と皆様のお陰で、先生の手術を受ける事ができました。

しかし、全国の多くの心臓病患者は、先生の様なスーパードクターの存在をもっと知る必要があり、

心臓血管外科などの高度な専門医療おいては、

一般の社会通念では理解できない、技術に差がある現実を知る必要があると思います。

 

開かれた高度な日本の医療の発展と実現のために日々努力される先生方に対し、

我々患者も社会も国も深く理解を示し、敬意を持つ事が大切です。

米田先生も、日々後進のご指導にご尽力されている事と思いますが、

この分野において一人でも多くの経験豊かな先生の様な、名医が育つ事を、一患者として願ってやみません。

 

最後に私の治療のためにご尽力頂いた、米田先生はじめ若き先生方や、

ハートセンターのスタッフの皆様に心より感謝を表し、

私の手記とさせて頂きます。

本当にありがとうございました。

 

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