両弁尖形成術(Bileaflet Optimizaiton)は
虚血性僧帽弁閉鎖不全症あるいは機能性僧帽弁閉鎖不全症の解決のために私たちが開発した新しい心臓手術です。
これはこれまでに発表して参りました腱索転位法Chordal Translocationをさらに改良し、
より高い効果をより安全にあげるための手術法です。
できるだけ患者さんの体力に負担をかけないようにすること、
そしてしかも左室の保護やパワーアップに役立つようにすること、
の2点を考えた結果です。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症の患者さんは心筋梗塞の後の状態で、
かつ弁の逆流のため心機能も全身も弱っておられます。
しかも弁の修復が通常の僧帽弁閉鎖不全症とは違うため
これまで成績がなかなか改善しませんでした。
腱索転位法 Chordal Translocationを2000年代の半ばに開発し、
治療の成績がかなり安定しました。
しかしそのころ次第に明らかにされた僧帽弁後尖のテント化が逆流の再発をおこし、
課題になっていました。
転位法では乳頭筋を前方へ吊り上げるため、
他の方法よりも後尖のテント化が起こりにくく、
左室を拡張から守るというメリットもあり(実験でも証明しました)
これまでは一番安定した成績を上げやすいと考えていました。
これは海外の主要ジャーナルでも発表しました(英語論文187番、193番、225番、232番、236番など。開発の歴史のページをご参照ください)。
明らかに良好な成績をあげていました。
重症例になると後尖のテント化の治療には十分とは言えず、
そこから開発したのが両弁尖形成術 Bileaflet Optimization法です
(左図の真ん中の方法、右側が従来の僧帽弁輪形成術です)。
この両弁尖形成術 Bileaflet Optimizationは僧帽弁を支える2つの乳頭筋つまり前乳頭筋と後乳頭筋が
それぞれ前尖をささえる枝(しばしばヘッドと呼びます)と後尖を支えるヘッドを持っていることに着目し、
まず前尖ヘッドと後尖ヘッドをつなぎ、
あとはこれまでの腱索転位と同様に前つまり僧帽弁輪前中央へ吊り上げるのです。
これにより僧帽弁は前尖だけでなく後尖まできれいに開くようになり、
逆流の解決のみならず弁が狭くなることも防げるのです。
しかも、この両弁尖形成術 Bileaflet Optimization法では左室の大きさや形を守る作用もあるため、
虚血性僧帽弁閉鎖不全症の病気の本質である心室の弱さをある程度治すあるいは守るというメリットもあるのです。
もちろん弁の逆流を解消することで心室がうんと楽になり、
良くなることは言うまでもありません。
共同研究チームである川崎医大循環器内科の吉田清教授や
尾長谷喜久子先生、斉藤顕先生らのお力添えは極めて大きいものがあり
この場を借りて感謝申し上げます。
この手術法は2011年の米国胸部外科学会の僧帽弁シンポジウムとも言われるMitral Conclaveにて発表させていただきました。
さらに同年の日本心臓病学会のパネルディスカッションで
共同研究者の尾長谷先生が、
また教育講演(右写真はそのときの表紙のスライドです)で私、米田正始が詳しく発表し
多くの先生方からありがたいコメントを頂きました。
このようにいいことずくめのような両弁尖形成術 Bileaflet Optimizationですが、
課題もまだあります。
たとえばこの手術は左室の中での操作が多く、深いところでの作業となるため、
僧帽弁形成術と虚血の心臓に熟練した心臓外科医でなければできないほど
デリケートな一面があります。
また患者さんによっては乳頭筋の構造がこの術式に合わないことがまれにあります。
現在その課題を解決すべく手術法を改良しており、すでに実績が上がりつつあります。
こうして今後さらに安全性と効果の安定性を向上させるつもりです。
なおこの手術術式は、専門家の先生方のご意見をいただき、乳頭筋先端形成術または乳頭筋適正化手術(Papillary Heads Optimization、略称PHO)と改名いたしました。
この方がより正確に手術内容を示しているからです。今後はこちらの名前で呼んで頂けましたら幸いです。こちらをご覧ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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