第二回ハートバルブ(心臓弁膜症)カンファランスに参加して

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第二回 Heart Valve Conference (心臓弁膜症カンファランス、代表:川副浩平先生)がこの3月31日に東京で開催されました。(第一回の心臓弁膜症カンファランスのご報告はこちらです)

世話人の一人として参加させていただき、楽しく勉強できました。大変内容豊かな会でしたので少しご報告したく思います。

IMG_0652この会は心臓弁膜症の治療戦略と手術手技を考える研究会で、ケーススタディを通じてというのが特長の会です。

 

ケーススタディつまり個々の患者さんの治療経験を検討するというのは、学会とくに地方会や研究会などでも見られますが、

このハートバルブカンファランスが際立っているのは、一例いちれいに十分な時間をかけて深く掘り下げることができる点と、

そのために内科外科放射線科などを含めた心臓弁膜症のオーソリティの先生方が集まっておられ、

大変内容あるディスカッションができる点にあります。

 

今回はまず第一部として虚血性僧帽弁閉鎖不全症(虚血性MR)の術後の逆流再発が論じられました。

産業医大の尾辻豊先生と不肖私・米田正始の司会で進めさせていただきました。

前日の打ち合わせのときから、議論が盛り上がりすぎるのではという心配をしていたとおりのセッションとなりました。

 

江石清行先生と夜久均先生がそれぞれ難症例を提示されそれをもとに深く検討しました。

高梨秀一郎先生と尾辻豊先生がコメンテーターを務められました。

後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引っ張られる症例は心機能も悪く何かと不利な条件をもっているだけに、一層しっかりとした手術治療が必要です。

いずれもそうした一面をもった症例で、多くの意見が寄せらせ熱いセッションになりました。

 

そうしているうちに、弁輪形成用のリングのサイズ合わせも、まだしっかりとした基準がなく、おおむねのコンセンサスはあっても、細部で微妙に異なることが判明し、皆反省しながらの議論になりました。

 

私は乳頭筋を前方へ吊り上げると弁にも心臓にも良いということをこの10年間、提唱して来ましたので、その最新型である両乳頭筋ヘッドを最適化吊り上げして前尖はもちろん、後尖さらに左室もけっこう治せることをお示ししました。この術式はBileaflet Optimizationつまり両弁尖最適化と呼んでいましたが、オーソリティの先生方のご意見でPapillary Heads Optimization乳頭筋ヘッド最適化と名前を改めました。

外科医だけでなく内科の先生方からも有意義なご意見をいただき、これからの発展が楽しみな領域と思いました。

 

第二部はこれまた難しい感染性心内膜炎(IE)で感染性塞栓をともなうケースの検討でした。

大御所である川副先生みずからの力作といいますか、きれいな心臓手術を提示していただき、手術のタイミングから感染組織の処理、石灰化部分の取り方から感染に強い弁形成の方法まで話は尽きることなく盛り上がりました。

座長の芦原京美先生と大北裕先生も困るほどの議論白熱であったと思います。

 

1995年にこのIEの日本のデータを検討された江石先生のコメントと、中谷敏先生のレヴューも的確でした。

上村昭博先生のMRIの読み方の講演は外科医にとってはとくに参考になったと思います。

脳出血と脳梗塞をしっかりと区別して戦略を立てることの重要性をあらためてデータで示して頂きました。

 

第三部は不肖私・米田正始が面白い症例を提示させていただき、様々なご意見を頂くセッションとなりました。

大門雅夫先生と橋本和弘先生の安定感ある司会でした。

大動脈弁狭窄症(AS)は近年増加している疾患ですが、それへの弁置換(AVR)で、手術はきれいにできても、術直後僧帽弁前尖が左室流出路に引き込まれて起こるSAM(前尖の前方への異常運動、結果として僧帽弁閉鎖不全症が起こります)と呼ばれる現象がまれに起こります。いわゆるIHSSのかたちに突然なるわけです。

そのときどうするか、さまざまな良いご意見を戴きました。

それからそのSAMを生体弁越しに、異常心筋を切除することで治してしまうという、ちょっと珍しい方法をご紹介しました。かなりの注意が必要な方法ですが、こうした状況では患者さんを救命する特効薬と信じています。

 

きわめてまれな、しかし難しい状況だけに、実にさまざまなご意見が出て混乱するほどでした。

いわく、前もって異常心筋切除しておけば?、

患者さんが元気になったのは心筋切除のおかげではない?、

もっと別の方法で粘ったら?もっと素敵な切除方法はないの?などなど、

しかしいずれも検討の価値ある貴重なコメントでした。

泉知里先生はこうしたケースの文献的検討と、多少でも似た自験例の検討をして下さいました。

畏友大北先生は辛口のコメントだけ残して次の研究会へと去られ、食い逃げの料金は次回支払って頂こうと皆で盛り上がりました。

これだけの良いディスカッションを何かの本かビデオにして若い先生方の参考にして頂ければ良いね!と思ったのは私だけではなかったと思います。

 

最後のセッションはビデオワークショップで僧帽弁形成術で逆流が残るとき、どうやって解決するかという、なかなか奥深いテーマでした。

大西佳彦先生が国循での面白い症例を多数レヴューされ、渡辺弘之先生も矯味深い症例を提示されました。

さらに阿部先生、橋本先生、内田先生、新田隆先生らが苦労して解決したケースを提示され大いに参考になりました。形成後の後尖自然クレフト部の「漏れ」や、低形成後尖をもつ僧帽弁の形成術、バタフライ形成術のあとの遺残逆流などですね。

自分的にはすでに解決済みと思っている問題でも、さらに改善の余地があると思えたものもあり、大変勉強になりました。

どこまで行っても勉強することばかりです。

まあ磨けば磨くほど、患者さんに喜ばれる確率が上がるためどんどんやろうという気持ちでした。

 

このセッションのトリとして加瀬川均先生が以前から提唱されている自己心膜パッチによるスムースな表面を造る方式を紹介されました。

以前から直接お聞きしていましたのでその進展をうれしく思いました。これもその発展形をやりましょうと後で相談しました。

 

一日中、心臓弁膜症をよくここまで勉強したと思えるほど充実した研究会でした。

次のテーマはいくらでもあると思えるほどの盛り上がりぶりでした。川副先生、関係の皆様、ありがとうございました。

 

平成24年3月31日 米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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