収縮性心膜炎( 略称CP)は心膜の病気とは言え恐ろしいものです。
というのは心膜が鎧(よろい)あるいは卵の殻のように厚く硬く石灰化すると重症心不全になりますし、そのために肝臓その他の臓器がやられます。いのちにかかわることも少なくありません。
治療は軽症のあいだはお薬その他で水があまり貯まらないように、肺その他がなるべくうっ血しないように、二次的な肺炎その他の病気を予防するなどします。
しかし重症になるといのちの危険性から心臓手術が必要となります。
術式は心膜切除つまり厚く硬くなった肥厚心膜を丁寧に剥がして切除することです。
その場合、左心室や右心室を覆う心膜を完全に除去するとともに、できれば左心房や右心房にもなるべく負担がかからぬよう、しっかりと切除することが大切です。
私たちはこの収縮性心膜炎(CP)の外科治療をつぎの原則をもとにして組み立てています。
1.きちんと肥厚心膜を切除する。心臓の裏側や横隔膜面、横隔神経の背中側まで、必要に応じて対処できること。
2.原則として体外循環を使わないオフポンプで
3.なるべく創が小さいミックスMICSで。できれば侵襲が少ないポートアクセス法で
これまで標準アプローチは胸骨正中切開という、胸の前真ん中を縦に二分するような切り方でした。この方法の弱点があるとすれば心臓の裏側、左室後壁がやや盲点になりがちなことです(下図の左)。
左胸を開胸するMICS(ミックス法)(左図の右)では左室エリアの剥離は後壁も含めて比較的視野が良いです。しかし世間一般には右房までやや届きにくい傾向があり、右室などの心基部の剥離が不十分になる懸念があります。
いずれの場合でも体外循環を使えばやりやすくなりますが、出血が増え、それが将来の収縮性心内膜炎の再発原因になりかねないうえに、からだへの負担が増えて危険性が上がるためできるだけ体外循環を使わないオフポンプが望ましいと考えています。
またこれまでも他病院で心臓の裏側は心膜切除できないといわれて私のところへ逃げるようにしてこられた患者さんもおられます。裏側の処理ができない病院では不十分手術となり将来の再発が心配です。
私たちはオフポンプバイパス手術の技術を応用して、心臓を安全にひっくり返し、裏側の心膜を切除するようにしてきました。
しかし胸骨正中切開では骨を切るため術後の痛みもやや強く、仕事復帰も遅くなりがちです。そこでミックス手術を考慮するようになりました。
そのなかでも一番傷跡(外科では創と書きます)が小さく体への負担が小さいポートアクセス法で収縮性心膜炎の手術を行うようにしています。この場合も右房右室がしっかりと剥離できるよう、ミックスの経験を活かして視野確保をしています。
写真右はその一例です。胸を持ち上げなければ創はほとんど見えません。
安全第一ですので、通常の心房中隔欠損症ASDや僧帽弁形成術、大動脈弁手術などの傷跡よりはやや大き目ですが、あまり目立たず、骨を切らないため痛みが少なく、あとの回復も良いという利点があります。
これから収縮性心膜炎の手術も進化していきます。高い質を維持しつつ、より安全により早い仕事復帰をめざします。
心臓手術のお問い合わせはこちらへ
患者さんからのお便りのページへ
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。