お便り107: 収縮性心膜炎を合併した慢性血液透析の患者さん

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収縮性心膜炎(略称CP)の原因はいくつも知られていますが、慢性腎不全・血液透析もそのひとつです。

IMG_2111bおそらく心膜炎を繰り返しているうちに心膜が変化を起こすものと考えています。

いずれにせよ、心不全が重くなれば心臓手術が必要となります。

下記の患者さんはお若くして血液透析が必要となり、

その後上記の収縮性心膜炎を合併された40代後半の関東在住の女性です。

***** 患者さんからのお便り 1*****

はじめまして。
突然のメールにて失礼します。

当方、**県在住の****と申します。

私は199*年にIgA腎症となり、200*年に腎不全へ進み人工透析導入、200*年に生体腎移植するも、20**年に人工透析再導入となりました。

1年程前に心外膜の石灰化が見られ、経過観察となってましたが、症状が進み、一昨日はカテーテル検査もしました。収縮性心膜炎と診断が確定され、それもかなり良くない状態で手術の話も出ております。

血圧が上50 台、下が20台ということも頻繁にあり、アベレージでも上が60台で、特に透析した日は息苦しさと立ちくらみが続きます。

アベレージ血圧が確実に下がってきていることもあり、自身の希望では症例の多い病院、先生に一日も早く手術をしていただけたらと思います。

(担当の循環器内科の先生は私自身が納得のいく先生に手術してもらうのが一番良いと、おっしゃってくださってます。)

現在、**県在住で東京都内の**大学病院にかかっておりますが、貴院で手術をお願いすることは可能でしょうか?

また、可能でしたら、どれくらいのタイミングで手術可能なものでしょうか?
おおまかでも構いませんので、ご教示頂きましたら幸いに存じます。

どうぞよろしくお願い致します。

*******************

血圧が低下し、透析ができなくなりつつある、危険な状態ですし、熟練した心臓外科医が手術する意義は大きいため、さっそくお返事を出しました。

まもなく米田正始の外来へ来られました。

予想どおりの重症の収縮性心膜炎でした。

まだ比較的お若いご年齢と、今後もし心臓や血管に新たな病気が起こった際に手術がやりやすく安全なようにと、ミックスMICSとくにポートアクセス法で心膜切除をすることにしました。

私自身、トロント時代に左開胸でこのオペをしたこともあり、現在は僧帽弁形成術などでポートアクセスを多用していて熟練の強みもあり、そうすることになりました。

心膜切除手術はうまく行き、取るべき肥厚・石灰化心膜はほぼすべて取れました。左室の裏側や右室とくに根本の部分から右房や主肺動脈まできれいになりました。

右房圧や右室圧その他血行動態も正常化しました。

お元気に退院されてから下記のお便りを頂きました。

***** 患者さんからのお便り2 *****
 

拝啓  米田先生におかれましては、ますますご壮健のこととお慶び申し上げます。

 過日の入院、手術に際しましては、大変良くしていただき、ありがとうございました。

 先生にはメールでのご相談の段階から迅速なご対応をいただき、また、術式などいろいろとご検討いただいたおかげをもちまして、回復も早く、心より感謝しております。

手術の傷跡も思ったより小さく、痛みも無く、米田先生にお願いして本当に良かったと主人と日々話しております。

また、心臓血管外科の先生方、看護師の皆様、リハビリを担当していただいた皆様などにも、心のこもったご対応をいただきました。

よろしくお伝えくださいませ。

 来月初めには受診で伺いますので、今後ともなにとぞよろしくお願い申し上げます。

 書面にて失礼いたしますが、取り急ぎご報告と御礼申し上げます。

平成二十六年*月*日

*******************

それから1か月あまり経ってからまた患者さんからご連絡があり、発熱してどうやら手術部位が感染したようだ、再手術が必要かもしれないと主治医に言われたとのことでした。

術後1か月半も経っ
てからの感染は稀であり、かつMICS手術の経験のないチームで再手術は危険なためかんさいハートセンターに再入院して頂きました。

幸い手術部位の感染ではなく、お薬でまもなく全快し、元気に退院されました。

患者さんを真に守ることができるのは熟練チームならではのこととあらためて思いました。

患者さんにはこれから元気で楽しく過ごしていただければ幸いです。また奈良のほうへお立ち寄りください。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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収縮性心膜炎のミックス手術

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収縮性心膜炎SSSHC141略称CP)は心膜の病気とは言え恐ろしいものです。

というのは心膜が鎧(よろい)あるいは卵の殻のように厚く硬く石灰化すると重症心不全になりますし、そのために肝臓その他の臓器がやられます。いのちにかかわることも少なくありません。

治療は軽症のあいだはお薬その他で水があまり貯まらないように、肺その他がなるべくうっ血しないように、二次的な肺炎その他の病気を予防するなどします。

しかし重症になるといのちの危険性から心臓手術が必要となります。

術式は心膜切除つまり厚く硬くなった肥厚心膜を丁寧に剥がして切除することです。

その場合、左心室や右心室を覆う心膜を完全に除去するとともに、できれば左心房や右心房にもなるべく負担がかからぬよう、しっかりと切除することが大切です。

私たちはこの収縮性心膜炎(CP)の外科治療をつぎの原則をもとにしてFotosearch_CCP01063組み立てています。

1.きちんと肥厚心膜を切除する。心臓の裏側や横隔膜面、横隔神経の背中側まで、必要に応じて対処できること。

2.原則として体外循環を使わないオフポンプで

3.なるべく創が小さいミックスMICSで。できれば侵襲が少ないポートアクセス法で

 

これまで標準アプローチは胸骨正中切開という、胸の前真ん中を縦に二分するような切り方でした。この方法の弱点があるとすれば心臓の裏側、左室後壁がやや盲点になりがちなことです(下図の左)。

CPのミックス皮膚切開左胸を開胸するMICS(ミックス法)(左図の右)では左室エリアの剥離は後壁も含めて比較的視野が良いです。しかし世間一般には右房までやや届きにくい傾向があり、右室などの心基部の剥離が不十分になる懸念があります。

いずれの場合でも体外循環を使えばやりやすくなりますが、出血が増え、それが将来の収縮性心内膜炎の再発原因になりかねないうえに、からだへの負担が増えて危険性が上がるためできるだけ体外循環を使わないオフポンプが望ましいと考えています。

またこれまでも他病院で心臓の裏側は心膜切除できないといわれて私のところへ逃げるようにしてこられた患者さんもおられます。裏側の処理ができない病院では不十分手術となり将来の再発が心配です。

私たちはオフポンプバイパス手術の技術を応用して、心臓を安全にひっくり返し、裏側の心膜を切除するようにしてきました。

しかし胸骨正中切開では骨を切るため術後の痛みもやや強く、仕事復帰も遅くなりがちです。そこでミックス手術を考慮するようになりました。

IMG_0361bそのなかでも一番傷跡(外科では創と書きます)が小さく体への負担が小さいポートアクセス法で収縮性心膜炎の手術を行うようにしています。この場合も右房右室がしっかりと剥離できるよう、ミックスの経験を活かして視野確保をしています。

写真右はその一例です。胸を持ち上げなければ創はほとんど見えません。

安全第一ですので、通常の心房中隔欠損症ASD僧帽弁形成術大動脈弁手術などの傷跡よりはやや大き目ですが、あまり目立たず、骨を切らないため痛みが少なく、あとの回復も良いという利点があります。

これから収縮性心膜炎の手術も進化していきます。高い質を維持しつつ、より安全により早い仕事復帰をめざします。

 

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執筆:米田 正始
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収縮性心膜炎―心臓「周囲」の病気ですが重くなると危険な状態に【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月16日

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◆ 収縮性心膜炎とは?

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Normal and CP収縮性心膜炎はあまり一般には知られていませんが、決して珍しい病気ではなく、重度の心不全を引き起こす危険な疾患です。

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心臓は「心膜」という薄い膜に包まれています。本来は柔らかく心臓を保護していますが、この心膜が厚く硬くなると、まるで鎧のように心臓を締め付け、血液を送り出す働きを妨げてしまいます。


この結果、心臓自体に異常がなくても外側から押さえ込まれる形で重い心不全が発生します。

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◆ 原因は?

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かつては結核が主要な原因でしたが、現代では以下のケースが増えています:

  • 特発性(原因不明)

  • ウイルス感染後

  • 心臓手術の後遺症(術後出血や心嚢液貯留後に発症することあり)

  • PCI(カテーテルによる冠動脈治療)やペースメーカー植込み時の出血後に発生することもあります

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◆ 主な症状

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収縮性心膜炎では、心臓の動きが制限されるため以下のような症状が現れます:Ilm19_cb01054-s

  • 足や顔のむくみ

  • 肝臓の腫大によるお腹の張り

  • 少し歩いただけで息切れ

  • 重症化すると うっ血性肝障害 → 肝硬変 → 致死的な状態 へ進行

  • 腎臓機能の悪化

早期に治療を開始しないと、多臓器不全へ進む危険があります。

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◆ 診断方法

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  • 心エコーやCTで心膜の肥厚や硬化を確認

  • 心臓カテーテル検査で房室圧の上昇や「dip and plateau(ディップ・アンド・プラトー)波形」を確認
    これらで正確に診断できます。

Ilm09_dd05001-s.

◆ 治療の流れ

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  • 軽症:利尿剤などの薬物療法で対応可能

  • 重症:薬では限界があり、**心膜切除術(心膜を外科的に取り除く手術)**が必要

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分厚くなった心膜を心臓の前側・側方・横隔膜側までしっかり剥離すると、圧迫が解除され心臓の動きが改善します。

しかし世界的には手術死亡率が10%を超えることもあり、長期成績の課題も残っているのが現状です。

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◆ 私たちの工夫と新しい展開

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当院では以下の工夫を行い、成績向上を目指しています:

さらに従来の「心膜切除術だけでは改善しない患者さん」に対して、新しい術式を開発しました。

この方法では、従来の限界を超えて心機能が改善し、手術直後から患者さんが劇的に元気を取り戻すケースを経験しています。

2025年には米国胸部外科学会(AATS)で発表し、高い評価をいただきました。

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◆ まとめ

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  • 収縮性心膜炎は放置すれば致命的になりうる病気

  • 早期診断と適切な手術が予後改善のカギ

  • 当院では最新の外科手術と低侵襲手技を駆使し、安全性と生活の質(QOL)の両立を目指しています

  • 他施設で「手術しても改善が難しい」と言われた方でも、新しい術式で改善の可能性があります

まずは諦めずに専門外来へご相談ください。

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執筆:米田 正始
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お便り27 収縮性心膜炎の患者さん

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患者さんは50歳男性で

難治性心不全のため大阪から名古屋ハートセンターまで来院されました。

 

ことの起こりは次のようなお手紙(①)を患者さんのお母様から頂いたことでした。

心筋炎後の心筋症のため心不全に陥っておられるものと拝察し

早速名古屋まで来て戴きました。

その段階では場合によって僧帽弁形成術左室形成術などが必要かも知れないと考えていました。

 

検査の結果、重度の収縮性心膜炎であることが判明し、

まもなく手術を行いました。 Ilm10_de01003-s

 

心膜は厚さが1cmにもなるほど肥厚しており、

それも心臓の前後左右ともで、収縮性心膜炎の中でもかなり重い状態でした。

患者さんはほとんど動けないほどになっておられました。

 

手術ではオフポンプ冠動脈バイパスの方法を用いて体外循環を使わず、

肥厚した心膜を徹底して剥離・切除しました。

横隔膜面の心膜も病変著明だっためこれも切除しました。

 

その結果、収縮性心膜炎はほぼ解消され、心臓の性能は大きく改善しほぼ正常レベルにまで回復しました。

患者さんの症状が軽快しお元気になられたのは言うまでもありません。

術前の硬いご表情が柔らかな笑顔に変わったのが印象的でした。

 

退院後に患者さんのお母さんからまたお手紙を頂いたのが②です。

簡潔なお手紙のなかに心のこもったものを感じ、うれしく思いました。

 

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お手紙①

 

前略 突然のお手紙お許し下さいませ。

昭和35年生まれの長男が平成20年1月、急性心筋障害の為3ヶ月の入院、その時心臓の働きは健常者の2分の1ですと云われ多量の薬を服用して現在に至って居ります。

ダラダラ歩きは良いのですが、普通の速度ですと5分もしないうちに胸が苦しくなり顔は黒くなります。又、目の前が暗くなり座り込む事も有ります。

米田先生の事を知りまして、すがる思いでペンを取りました。私母74歳、母ひとり子ひとりですので私の元気なうちになんとか手術をして軽い仕事にでもつかせたいと願うばかりです。本人も強く望んで居り、希望が見えてきたように明るくなっています。

どうぞよろしくお願い申し上げましてペンをおきます。

米田先生御手許へ

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お手紙②

お便り27の実物写真 前略 退院の日はオペ室に入られたとのこと仕方なく帰って参りました。
本当に有難うございました。

帰路桜散る名古屋城の桜並木を歩いておりまして、気がつけば長男が先を歩いて居りまして、声をかけると本人も後ろを歩いている親を見て驚き感激して植込みに散り積もった桜の花びらを両手いっぱいにして頭からふりかぶって居りました。

外見とのギャップがありすぎて苦笑やら泣き笑いでございました。

18日はお伺い致しますが、お忙しい先生のこと必ずお遭い出来るとは限りませんのでお手紙致しました。
くれぐれもご自愛下さいますように。

米田先生御手許へ

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