事例: 腹部大動脈瘤に安全のため通常手術を行ったケース

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腹部大動脈瘤の治療では、ややご高齢で全身の体力もそれほどない患者さんではなるべくステントグラフト(EVAR)が低侵襲ゆえ望ましいものです。

もちろん瘤の形や状態がEVARに適していることが条件です。

もしEVARで無理をして瘤が治らず、そのまま破裂すると、外科手術で腹部大動脈瘤の成績がきわめて良好な今日、大きな悔いを残すことになってしまいます。

そこでEVARに無理があるとき、効果が不十分と思われるときには外科手術を前向きに考えることがあります。

 

術前CT患者さんは76歳女性で

6年前に狭心症に対してカテーテル治療PCIを受けておられます。

またCKD(慢性腎機能障害)があります。

 

以前から指摘されていた腹部大動脈瘤が直径5cmを 術前CT側面超え、

瘤の拡張速度も速いため、治療することになりました。

ただし狭心症が再発していたこと、そして冠動脈の状態がカテーテル治療PCIに不向きなことから、オフポンプバイパス手術を行いました。

3本のバイパスグラフトはすべて開存で、患者さんは元気になられました。

そこで腹部大動脈瘤の治療をということになりました。

できればステントグラフトEVARでと考えていましたが、

両側腸骨動脈の状態が悪く、蛇行と石灰化そして狭窄が見られます。

ステントグラフトを下肢の動脈から届けることができない所見でした。

術後CT側面 術後CT正面そこで開腹し、瘤の部分を人工血管で取り換えました。

術後経過は順調で、人工血管は良い状態で安定し、

患者さんはまもなくお元気に退院されました。

術後1年が経ちましたが経過はおおむね良好で安定しておられます。

開腹手術といえども、創はなるべく小さくして患者さんの苦痛が少なくなるようにしました。

こうした患者さん個々の状態を考えてベストの治療を選ぶことが大切と考えています。

 

メモ: 最近の医療界では、大動脈に限らず、どの治療でも、それが「やれるからやる」というレベルを脱却して「患者さんに良いからやる」というレベルが求められるようになりました。

さらに申し上げれば「患者さんにベストだからやる」と科学的データにもとづいて判断するのが正しいと言えましょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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6) ステントグラフト治療とは?―体にやさしい画期的な治療法【2025年最新版】

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更新日:2025年9月29日
執筆:福田総合病院 心臓血管外科専門医 米田正始

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これまでの手術にステントグラフトを追加した時の姿です。瘤が新たにできたときなどに、患者さんに負担が少ない治療ができます◆ステントグラフト治療とは?

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ステントグラフト治療(EVAR:Endovascular Aneurysm Repair)は、大動脈瘤を従来よりも小さな負担で治療できる画期的な方法です。

従来の手術では胸やお腹を大きく切開し、瘤の部分を人工血管で置き換える必要がありました。これに対しステントグラフトは、カテーテルを使って折りたたんだ人工血管を動脈の中で広げて固定します。

そのため、

  • 人工心肺装置が不要

  • 体温を下げる必要がない

  • 輸血がほとんど不要
    といったメリットがあり、高齢者や合併症を持つ患者さんに特に有効です。

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◆適している大動脈瘤の部位

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  • 下行大動脈瘤
    ステントグラフト治療が最も行いやすい部位です。大きな分枝が少ないため、人工血管を内側から張り付けやすく、術後の脊髄麻痺もほとんど起こりません。

  • 腹部大動脈瘤
    腹部大動脈でも広く用いられるようになり、開腹せずに治療できるケースが増えています。(手術事例1手術事例2をご参照ください)。

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一方で、上行大動脈や弓部大動脈は大切な枝が多いため、そのままではステントグラフト治療が難しい領域です。

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◆進化する治療法 ― ハイブリッド手術とデブランチ法

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最近は、ステントグラフト単独では治療が難しい症例に対して、外科手術と組み合わせた「ハイブリッド手術」が発展しています。

  • デブランチ法:大動脈の枝を先にバイパスでつなぎ直し、その後ステントグラフトで安全に瘤を覆う方法

  • 二期的手術:エレファントトランク手術後にステントグラフトを追加して補強

これにより、かつては困難だった弓部大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の治療にも成功例が増えています。

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◆ステントグラフト治療の課題と今後

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  • 長期耐久性はまだ研究途上で、特に若い患者さんへの適応には今後の検証が必要です。

  • 瘤の形や場所によっては、ステントグラフトだけでは治療できず、外科手術と組み合わせる必要があります。

それでも、体への負担が少ない大動脈瘤治療法として大きな成果を上げており、今後さらに改良と普及が期待されています。

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◆まとめ

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  • ステントグラフト(EVAR)は、大動脈瘤を体にやさしく治療できる革新的な方法です。

  • 特に高齢者や全身状態が弱い患者さんに大きなメリットがあります。

  • ハイブリッド手術やデブランチ法の進歩で、より広い症例に対応できるようになっています。

  • 将来的には、長期成績の安定とともに若い世代への応用も進むと考えられます。

👉 大動脈瘤の治療法について不安や疑問がある方は、早めに心臓血管外科専門医へご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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