3) 拡張型心筋症とは?―各治療法の限界を踏まえるとかなり治せます

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図 DCMと正常心筋症のなかでも左心室(左室と略します)が大きくなる状態が拡張型心筋症です。

なかでも原発性と呼ばれるタイプは心筋そのものの病気です。

原発性の拡張型心筋症の原因のなかで、特発性と呼ばれるタイプの場合は原因不明です。

まだ解明が十分にはなされていないわけです。

厚生労働省の難病にも指定され、解明への努力が続けられています。

 

続発性と呼ばれるタイプの拡張型心筋症ではもとの原因があります。

図 梗塞後リモデリングたとえば虚血性心筋症の場合は心筋梗塞や心筋虚血(血液が十分に行かない状態)が原因です。

また弁膜症やウィルス性心筋炎、アルコール摂取過多、サルコイド―シスその他が原因としてあります。

大動脈弁閉鎖不全症などの弁膜症が長期にわたって放置されておこる拡張型心筋症もあります。

左室緻密化障害という生まれた時から心筋がばらばらになったままの病気でも心不全が進んだ結果、拡張型心筋症になることがあります。

 

いずれにせよ拡張型心筋症では左室の壁は薄くなることが多いです。

 

A306_085なお肥大型心筋症が重症化して拡張型心筋症になる(肥大型心筋症の拡張相と呼びます)の初期では必ずしも壁がすべて薄いとは限りません。

左室が拡張する→ラプラスの法則という物理学の法則にしたがって左室壁への負担が増えて左室壁が伸びて薄くなる→左心室の力が落ちる→左室がさらに拡張する、という「悪循環」に陥り、次第に死に至る病気です。

いったん悪循環に陥ってしまいますと、時間とともにどんどん左心室は悪くなって行きますから、早目に対策を立てることが肝要です。

 

拡張型心筋症では二次的に弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症を合併しそれが重い負担になることもあります。

これは左室が拡張したり丸い形に変形して僧帽弁が引っ張られて閉じなくなったり、右室が拡張して三尖弁の付け根が広がりすぎて三尖弁が閉じなくなるためです。

僧帽弁の場合で言えば、弁そのものが壊れるのではなく、心室が壊れるために起こるという意味で、機能性僧帽弁閉鎖不全症と呼びます。

 

Zoki_02拡張型心筋症は筋肉の病気で、筋肉そのものは現代の医学では治せないのですが、心臓とくに左室の形や大きさが崩れたり、弁が壊れたりしたものを心臓手術で治すことはかなりできます。

拡張型心筋症がお薬つまり内科治療の病気ではあっても外科手術(たとえば左室形成術)ならではの貢献があり得るわけです。

また心室同期療法CRTあるいは両室ペーシングと呼ばれる方法で左室と右室の両方をペースメーカーでタイミングを合わせて動かすことで心臓のちからがある程度回復します。

いのちにかかわる悪性の不整脈たとえばある種の心室性期外収縮や心室粗動などに対する植え込み型除細動器(ICD)も役に立ちます。

 

Ilm09_ag04003-s続発性の拡張型心筋症ではおおもとの原因、たとえば弁膜症や冠動脈の閉塞などは弁形成や弁置換、あるいはバイパス手術で治すことで心筋症そのものもある程度改善することがあります。

原因を取り去っただけでは改善しないほど壊れてしまった左室には、その病変に応じて左室形成術を行うこともあります。

これを原因治療と組み合わせることで左室のパワーは上がり、患者さんは大変元気になられることがしばしばあります。

 

A316_004また手術のあと、余裕を活かしてお薬(ACE阻害剤、ARB、β遮断薬、抗アルドステロン剤など)をうまく使い、心臓の一層のパワーアップを図るようにしています。

拡張型心筋症は難病とはいえ、こうした手術や薬の組み合わせで意外なほど心機能が回復することがあります。

さらに近年の心臓リハビリテーションの進歩もめざましく、患者さんや心臓のパワーアップに貢献しています。

 

こうしたさまざまな工夫を凝らしても心臓がいよいよダメになり、もはや生きて行くだけのパワーが心臓にない、という状況になれば、補助循環つまりある種の人工心臓が威力を発揮します。

補助循環はかつては2年も使えば大半の患者さんが亡くなるほど治療成績が悪かったのですが、研究が進み、今では5年使っても65%の方が生存しているという、心移植に比肩するほどの成績を上げるに至っています。

かつて末期といわれた患者さんも活発に生きることができるようになりつつあるのです。

 

Bn148-1bこれらの治療努力の最後の砦として、心移植があります。

日本でも1998年から心移植が合法的に行えるようになり、その後の法改正でドナー心が集まりやすくなりました。

これから年々心移植の数が増えて、多くの拡張型心筋症の患者さんたちに恩恵が届くことを期待しています。

 

Csnu006-sさらに、これまでは治療が難しかった心臓の筋肉にも、再生医療で治療可能になりつつあり、今後の展開が期待されます。

とくにiPS細胞やES細胞から心筋細胞を誘導してこれを心臓に直接注射したり、細胞シートの形で心臓の表面に貼りつけることで誘導した心筋細胞を傷んだ心臓にパワーを与えることを期待して、さまざまな研究が続けられています。

 

このように、拡張型心筋症ではかつてとは違って、さまざまな治療ができるようになりつつあります。

厚生労働省の難病に指定されているほどの病気ですが、今後さらに治せる病気という方向に進んでいくかも知れません。

 

拡張型心筋症の患者さんたちにおかれましては、こうした日々の医学の成果を考え、むやみにこの病気を恐れすぎたり治療から逃げることのないように、お願いしたいものです。

 

A303_048メモ: このように拡張型心筋症の理解が進み、治せるタイプの患者さんが増えました。

もっとも難しいと言われた特発性拡張型心筋症でさせ、治せる部分が増え、長期間の生命と健康が維持しやすくなって来ています 

悩むより相談です。


◆患者さんの想い出:

拡張型心筋症にもさまざまな状態や段階があります。

中には回復が期待を下回ることもありますが、多くはある一定の成果を出します。中に劇的と言ってよいほど改善することがあります。

Aさんは40代男性で拡張型心筋症のため私の外来に来られました。そのとき、すでに左室のちからは正常の3分の1にまで低下し、左室の形がゆがむため僧帽弁までゆがみ、弁が逆流していました。いわゆる機能性僧帽弁閉鎖不全症とよばれる状態でした。

心不全も高度になり始めていました。つまりいのちの危険が徐々に迫っていたわけです。

十分に検討した結果、Aさんの場合はバチスタ手術などの左室形成術は不向きで、僧帽弁形成術が妥当、そしてその場合、術後にある程度良くなった状態を受けて十分に薬で磨く、という方針を立てました。

拡張型心筋症というだけで世間的には危険性が高いのですが、そこは慣れたチームですので手術はスムースに行き、患者さんはお元気に退院して行かれました。

それから外来で入念に薬で心臓を磨くという作業に入りました。近隣の開業医の先生の全面的ご支援もいただき、きめ細かい治療ができました。奥様の全面的な協力も大きく貢献しました。

2年後には術前とは別人のような心機能にまで改善しました。左室駆出率でいえば、手術前20%程度であったのが2年後には50%台にまで回復したのです。

拡張型心筋症はまだまだこれから治療法が進歩する領域と思います。決してあきらめず、できるところから着実に治していく、これがお勧めできる方針です。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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