9) サルコイドーシス心筋症―左室形成術が役立つことが

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◾️サルコイドーシス心筋症とは?

心臓サルコイドーシスの一つで、左室壁の心筋がサルコイドーシスの炎症のために壊れて瘤化したり拡張型心筋症になったりする状態です。

サルコイドーシスは全身の様々な臓器に炎症やサルコイド(肉芽腫)を形成する難病ですが、心臓にも同じことが起こることがあるのです。心臓では刺激電動系という一種の神経や左室壁の心筋が壊れることがよくあります。

症状は心臓が壊れる部位によって異なりますが、サルコイドーシス心筋症の場合は心不全のために運動時の息切れや動悸、さらに進行すれば安静時や横になると息苦しくなって眠れない(起座呼吸)なども起こります。ちなみに上記の刺激伝導系が壊れると脈が極端に遅くなりふらつきや失神発作などが起こります。

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◾️サルコイド心筋症の治療は

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まずお薬や心臓リハビリなどの内科的治療が行われます。効果不十分の場合に外科手術が考慮されることがあります。脈が極端に遅くなる場合はペースメーカー植え込みが行われます。

外科手術では左室の壊れた部位を中心に形成することで左室のパワーアップが測れます。心筋梗塞の後の左室瘤と共通した一面がありますが、その一方、上記の刺激伝導系など、手術しづらい部位を治さねばならないこともあります。

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◾️私たちの手術では

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私たちはこの病気の特徴を考えてケースバイケースの心臓手術を施行し、改善を見ています(拡張型心筋症・事例5事例6)。

 

私たちの手術法がアメリカのJTCVSジャーナルの表紙に掲載されました。皆さんのお役に立てばうれしいことです

写真左はサルコイド心に対して私たちが行った新しい左室形成術(上記事例6です)の論文が米国のトップジャーナルの表紙(2009年5月号)に掲載された時のものです。

 

努力の積み重ねが評価され光栄に思っていますし、頑張って下さった患者さんやチーム諸君に感謝しています。

 

 

サルコイド心では左心室が局所的にやられるケースが多く、その他の部位は悪くないため、かなりの改善が期待できます。

 

たとえば左室側壁がやられている場合にはいわゆるバチスタ手術が役立ちますし、前や後ろ側の壁がやられているときにはセーブ手術で治せます。

 

逆に左心室の難しい部位が病変でやられる場合もあり、左室形成術の豊富な経験が求められます。

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たとえば心室中隔の起始部つまりいちばん根っこの部分で、ここには心臓の神経ともいえる刺激伝導系が走っていますので、それへの配慮が必要です。

 

その一方、僧帽弁形成術で当面の安全とQOL(生活の質)回復を図るなど柔軟な方針で臨むこともあります。

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◾️総じて

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 このようにサルコイドーシス心筋症の外科治療では技術や経験が必要なだけに治しがいがあるとも言えますし患者さんにとっては有効な治療手段の恩恵が届きやすいともいえるでしょう。

サルコイドーシス友の会の活動とあいまって患者さんの予後改善に役立てればと思います。

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Ilm09_aj06015-sメモ: サルコイド心で私たち心臓外科へ来られる患者さんの多くは長い病気の歴史をもっておられます。

たとえば眼や肺や皮膚その他の病変ですね。

 

それはご苦労の歴史ではありますが、病気に向き合って克服してこられた歴史でもあり、私たちなりに内科や他科の先生方と協力して心臓を治してまた元気な生活にもどって戴こうという力が湧いてきます。

そこではこれまで力を入れて来た総合内科的な視点や全人医療的な考え方が有効で、お役に立てることが多いかも知れません。

 

メモ2: 患者さんの想い出1:

サルコイドーシス心筋症( 211247569サルコイド心)の患者さんの経過はある意味劇的なことが多く、心に強く残っています。

50代で心不全のため私の外来に来られたAさんは左室後壁がやられて左室瘤となり、そのために僧帽弁閉鎖不全症も併発して心不全がどうにもならない状態でした。

サルコイドーシス心筋症SVR+MVP前後左室形成術で心室を修復し、さらに僧帽弁形成術を行ってきれいに治りました(写真左)。

 

心臓もうんと小さくなり元気になられました。サルコイドーシス心筋症に外科手術が役に立つことを実感しました。

 

その後、サルコイドーシスの進行で左心室ついで僧帽弁の形が歪み、僧帽弁閉鎖不全症が再発したため、またオペになりました。さすがに弁形成の限界を感じたため、僧帽弁置換術を行い、患者さんはまた元気になられました。

 

その都度、笑顔で頑張って下さった患者さんに頭が下がります。同時にサルコイドーシスそのものの進行を抑える根本的な治療法の確立を目指す必要性を痛感しました。それでこそ、心臓手術の意義が真に確立するものと思います

 

しかしまずは目の前の患者さんの状態をベストに保ちつつ、内科外科で協力して少しでも長持ちする心臓を確保することが急務と考え、努力を続けています。


◆患者さんの想い出2:

B 023さんは30代前半の女性です。サルコイドーシス心筋症(サルコイド心)のため心室中隔が瘤化し、かつ機能性僧帽弁閉鎖不全症が合併していました。

 

看護師という忙しいお仕事を以前のようにこなせなくなって来院されました。心不全が進行していたのです。

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左室機能も駆出率で正常の半分まで低下し逆流も高度になっていました。

これでは仕事はもちろん、健康もまもれない状態でしたので、心臓手術することになりました。近い将来の妊娠出産をも考えると、このままでは危険と言う判断ができたことも一因です。

 

オペといってもサルコイド心でよくやられる心室中隔(右下写真の矢印)の形成は心臓の神経があるところなので、それを傷つける恐れが高く、そうなると永久ペースメーカーが必要となります。患者さんのご希望でペースメーカーだけは絶対避けたいとのことでしたので、今回は僧帽弁だけを治すことにしました。

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僧帽弁輪形成術で弁輪をリングで小さくし、かつサルコイドーシス心筋症で起こる心室のゆがみのため、乳頭筋という弁を支える筋肉の位置がずれているための逆流なので、腱索という弁を支える糸を人工腱索をもちいて長さ調整(通常とは逆の方法で)することで弁逆流を止めました(右写真の下図)。

 

弁はきれいに作動するようになりました。まもなくお元気に退院され、仕事にも復帰されました。外来で定期健診をする中で、術後2年ほどの間に、左心室はかなり改善し、駆出率も50%台にまで回復しました。これなら心室中隔の瘤もほとんど気にならないというレベルまで持ち直したのです。

 

これは上記の心臓手術で僧帽弁閉鎖不全症が治り左室の負担が取れたことと、術後の粘り腰で使ったお薬の効果が出たことが役立ったと思います。

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手術から3年半経った昨年、患者さんから結婚しましたというご報告を、笑顔で戴きました。

 

現在の心臓なら妊娠出産も安心してできます、ぜひかわいい赤ちゃんを早く産んで下さいとお願いしました。

 

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