9) サルコイドーシス心筋症―左室形成術が役立つことが【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月16日

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◆ サルコイドーシス心筋症とは?

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サルコイドーシス心筋症(心臓サルコイドーシス) とは、サルコイドーシスによる炎症で心筋が傷み、

  • 左室壁の一部が瘤のように膨らむ(心室瘤化)

  • 左心室が拡張して 拡張型心筋症(DCM) に似た状態になる

といった病態を示す病気です。

サルコイドーシスはもともと肺・眼・皮膚など全身の臓器に肉芽腫を形成する指定難病ですが、心臓に病変が及ぶと命に直結することがあります。

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主な症状

  • 労作時の息切れ・動悸

  • 進行すると安静時の呼吸困難や起座呼吸(横になると息苦しくなる)

  • 刺激伝導系が障害されると徐脈・めまい・失神発作

心不全・不整脈のリスクが高く、早期発見と治療が重要です。

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◆ サルコイドーシス心筋症の治療法

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内科的治療

  • 副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤

  • 心不全薬(β遮断薬、ACE阻害薬など)

  • 心臓リハビリテーション

脈が極端に遅くなる場合は ペースメーカーやICD(植込み型除細動器) の適応となります。

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外科的治療

薬で十分な効果が得られない場合、左室形成術(心臓の形を整える手術) が選択されることがあります。
壊れた心筋を切除・修復することで、心臓のポンプ機能を改善しQOLを高める効果が期待できます。

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◆ 私たちが行う左室形成術

私たちの手術法がアメリカのJTCVSジャーナルの表紙に掲載されました。皆さんのお役に立てばうれしいことです

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福田総合病院では、サルコイドーシス心筋症の病態に応じて個別化した左室形成術を行っています。(拡張型心筋症・事例5事例6。)

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私たちの術式は米国トップジャーナル JTCVS(Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery)2009年5月号の表紙 に掲載されました。世界的にも評価された手術法で、多くの患者さんの回復に貢献しています。

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部位別のアプローチ例

また、必要に応じて 僧帽弁形成術を併用 し、安全性と生活の質の向上を両立させています。

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◆ 外科治療の意義と予後改善

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サルコイドーシス心筋症では、障害が左室の局所に限られることが多く、手術による改善が期待できる疾患です。
豊富な経験を持つ外科チームによる左室形成術は、

  • 心不全症状の改善

  • 運動耐容能の回復

  • 社会復帰や長期予後の改善

につながる可能性があります。

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◆ 総合医療チームで支える治療

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多くの患者さんは長い病気の歴史を持ち、肺・眼・皮膚など他臓器のサルコイドーシスを経験されています。
私たちは 内科・他科の先生方、リハビリ、栄養サポート と連携し、全人的医療を実践しています。

「難病だから仕方ない」と諦めるのではなく、外科治療と総合ケアで新しい生活を取り戻す道があります。

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◆ まとめ

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  • サルコイドーシス心筋症は重症心不全や不整脈を引き起こす難病

  • 内科治療で効果が不十分な場合、左室形成術が有効

  • 部位ごとに最適な手術法(バチスタ手術、SAVE手術、新しい形成術)を選択Ilm09_aj06015-s

  • 僧帽弁形成術の併用やチーム医療で、予後改善とQOL向上が期待できる

心臓サルコイドーシスで「もう打つ手がない」と言われた方も、最新の外科治療で新しい選択肢が見つかるかもしれません。

→→ サルコイドーシス友の会

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左室緻密化障害とはへ行く

心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 サルコイドーシス心筋症に対するバチスタ手術 (変法)とセーブ手術

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患者さんは62歳女性。8年前から心不全出現し、精査にてサルコイドーシス心筋症(サルコイド心)の診断確定。以後内科治療にもかかわらず徐々に心拡大を来たしました。

来院時、心エコーにてLVDd左室拡張末期径72mm、左室駆出率23%、僧帽弁閉鎖不全症MR中等度、三尖弁閉鎖不全症TR中等度。左室には心室中隔基部・後側壁・前壁に病変あり、サルコイドーシスに特徴的な複雑な病気の状態でした。


61_21.体外循環下に心臓を右側へ脱転し、バチスタ手術 (変法、つまり心尖部温存)の方法で左室側壁を切開。

手前の心尖部は温存されています。

さらに僧帽弁が見えています(矢印)。

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622.バチスタ手術の左室切開口ごしに心室中隔最基部にある病変を

セーブ手術に準じた方法でパッチ(矢印)閉鎖しつつあるところです。

サルコイドーシスでは心臓の複数部位がやられることが少なくありません。心尖部側3分の2を縫合しました。

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633.セーブ手術のパッチの心基部側を

大動脈弁ごしに縫合しています。

大動脈基部再建のデービッド手術の技術を応用して

大動脈弁輪を活用しました。

両室ペーシングするため房室ブロックは問題ありません。

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644.左室の基本構造を守るための腱索転位 translocationの僧帽弁形成術を行っているところです。

僧帽弁形成用のゴアテックス糸を用いて

自然構造と同様に各乳頭筋先端と僧帽弁輪前中央部を結びます。

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655.僧帽弁輪形成MAPを施行しているところです。

リングの一部が見えています

(矢印)。

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666.左室側壁の切開部を縫合閉鎖し、

バチスタ手術 (変法)を仕上げています。

バチスタ手術の完成度も上がり、成功率は90%を超え、

他の左室形成術を併用したケースを除く、

バチスタ手術単独施行例では成功率100%を出しています。

 677.心拍動下に三尖弁輪形成TAPを施行しているところです。

リングの一部が見えています。

術後2年半経過して、患者さんはお元気に生活しておられます。

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688.術前の心エコー短軸像をカラーカイネシスで示しました。

左室の拡張と動きのわるい側壁や心室中隔がわかります。

サルコイドーシスでは心臓の複数の部位が侵されるのがわかります。

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699.術後の心エコー短軸像をカラーカイネシスで示しました。

左室が小さくなり、

動きも改善しています。

左室の大きさは

LVDdで術前72mm、術直後51mm、術後半年で57mmと改善・安定しました。

左室駆出率は術前23%、術直後30%、術後半年で33%と回復がつづいています。

図サルコイドーシス左室形成bこの患者さんの報告はアメリカのトップジャーナルに論文として掲載され、

その表紙を飾るという栄誉を得ました。

右図の右下のシェーマがこの手術事例の方法を示します。

入院中、前向きにがんばって下さった患者さんのお姿を想い出します。

メモ: このようにサルコイド心では左室のさまざまな部位がやられるケースが多々あります。

場合によってはその中でとくに悪い部分を重点的に治したり、この患者さんのように全部なおしたり、ケースバイケースで柔軟に対応することが大切と考えています。

患者さんの心臓だけでなく年齢や体力も考慮します。

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医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 サルコイド心に対する左室後壁セーブ手術

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患者さんは70歳女性。サルコイドーシスの診断確定から17年後にサルコイドーシス心筋症・心不全のため手術となりました。

サルコイドーシスの初発病巣は肺と眼(ぶどう膜)でした。

左室駆出率27%、僧帽弁閉鎖不全症MR 4度、BNP 912の術前状態でした。かなり強い心不全の状態です。

 

心臓を頭がわへひっくり返し、お腹側から見た写真です1.体外循環下に心臓を頭側へ脱転し、左室後壁を切開しました。

心拍動下に行おうとしましたが、大動脈弁の逆流が強いため方針を変更し、心停止下に行うことにしました。

サルコイド心でやられた左室壁は皮製品のような硬さがあります。.

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522.後壁と後壁中隔を形成するパッチを縫着したところです。(セーブ手術)

パッチの手前のスペース分だけ左室が小さくなります。

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533.左室後壁の切開部を縫合閉鎖したところです。

心臓はまだ半ば脱転された位置にあります

(写真で上が頭側、下がお腹側)。

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544.左房を開け、

僧帽弁輪形成術をリングを用いて行っているところです。

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555.軽度ー中等度の大動脈弁逆流があったため、

大動脈弁形成術を行っているところです。

3つの交連部の形成で大動脈弁尖が中心部へせり出すように形成し、中心逆流は軽減しました。

これでもしもIABP(大動脈バルーンパンプ)が必要な状況になっても十分に活用できます。

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6.術前後の左室造影像。

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56_2

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左:術前の拡張末期像と収縮末期像、右:術後の拡張末期像と収縮末期像です

セーブ手術術後は左室が細長く縮小し、動きも改善し、さらに僧帽弁閉鎖不全症MRもほぼ消失しました。

カテーテルで肺動脈圧は術前の55/17から術後は17/8まで改善、左室駆出率も術前の27%から術後は34%へと上昇しました。

患者さんはその後、遠隔期に、弁の器質変化が進行しMRを再発したため生体弁で弁置換MVRし、以後また元気に暮らしておられます。

 

サルコイドーシスそのものの丁寧なフォローも重要と考えています。

サルコイド心の左室はしばしば局在性があり、残存心機能が良好なこともあるため、早期の診断と精密検討が患者さんの予後改善に役立ちます。

 

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