お便り78 ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

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大動脈基部拡張症心臓手術のなかでも大きめの手術が必要です。

IMG_5500bなにしろ伸びきった大動脈の根っこ部分を人工血管で置き換え、左と右の冠動脈の入口部分をいったん切り離し、それを人工血管にぬいつけ、そして大動脈弁を形成または置換することが必要だからです。

下記の患者さんはまだ30台のお若い女性で、この大動脈基部再建を、小さい創のミックス手術で希望して山口県からお越し頂きました。

手術中は、弁が予想以上に肥厚し短縮しており、患者さん自身の弁を温存するデービッド手術は不適当であることが判明しました。

そこで生体弁をもちいたベントール手術を行いました。

将来、この生体弁がいつの日か壊れたときに、再手術を回避しやすいよう、TAVIつまり折りたたんだ生体弁をカテーテルで植え込む方法がつかえるよう、十分なサイズの生体弁を取り付けました。

創もかなり小さく、夏服でも見えないレベルにとどめました。手術中の安全性を損なわぬよう、さまざまな工夫を凝らしました。

術後経過も順調で、遠方のため余裕をもって帰宅いただけるよう、ややゆっくり入院して戴きましたが、手術後10日で元気に退院されました。

 

*************患者さんからのお便り***********

米田先生へ

先日土曜日に退院させていただくことができました。

傷も本当に小さく痛みもほとんどありませんし、帰ってすぐに軽い食事の用意が出来
ることに自分自身驚いてます。

術前は脈100ぐらいになると心臓あたりがドクンドクン暴れて脈が速くなるのが怖いぐら
いでしたが、

術後は常時脈100近くありますがドクすら感じないので楽でよくなったんだあと感じるのと

、昨日久しぶりに自宅の湯船でゆったり浸かり苦しさを感じることがなくスーと息が入る感じをうけ改めて手術してもらってよかったと思ってます。

 
家事がリハビリで日に日によくなってるのを感じ嬉しいです。ご縁を頂いて本当にあ
りがとうございました。

またハートセンターさん全スタッフさんの志の高さに感銘をうけたのと、各部署での
職人魂のようなものを感じることができ私も随分元気を戴きました。

徹底したお掃除・配膳の方々の優しいあいさつ、知識経験豊富な看護婦さんに相談し
て癒され、先生方からはパワーをもらいみなさんのお蔭で今日の元気な一日があると感謝してます。

米田先生は超ご多忙と思いますが、お身体だけはご自愛下さい。

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その後、上記のメールをホームページに掲載してもよろしいですかとお伺いしたところ、次のお返事をいただきました

********患者さんからのお返事メール*******

米田先生へ

大変ありがたいメールいただきまして、感謝で一杯です。

今朝も昨日より階段がスラスラなことに驚いています。

ホームページ掲載は同じ患者さんとして安心して手術を考慮し受けて戴ければ
幸いです。

実際に私もお便りのコーナーでどれほど勇気付けられ助けられたか
わかりませんので、どうぞご利用ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り60: ベントール手術後10年の患者さんから

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患者さんとの信頼関係、人間関係は時間が経っても、というより時間とともに深まるような気がします。

Bentall surgery京大病院にいたころに手術させて頂いた患者さんたちとの交流もそうした雰囲気のなかで大切にしています。(患者さんの会のページをご参照ください)

下記のお手紙は、10年まえに、ベントール手術(右図)というやや大きな心臓手術のために四国からお越し下さった患者さんのご家族からの礼状です。

当時としては比較的新しい、ステントレス弁という高性能の弁をもちいてミニルート法という方法で手術を行いました。そうしておけば、将来弁が壊れてもしもの再手術になったとしても、その手術がより簡単により安全になるという考えによるものです。

Hana_5その患者さんのご主人様も、その後、同じ病気のためベントール手術を受けられ、元気になられました。

後年、この患者さんが黄斑部病変という眼の難病にかかられたときにも、私に相談くださり、その道のエキスパートである京大病院眼科教授の吉村先生にご紹介し、視力を回復されました。お役に立ててうれしく思った次第です。

いつも思うことですが、心臓手術を受けられた患者さんが、身の上相談や、そのご家族を紹介して下さることはこのうえない喜びです。信用して下さったことを光栄に思うからです。

 

********患者さんのご家族からのお便り*******

 

謹啓 吹き抜ける風がなんとも心地良く感じるころとなりました。
 

米田先生にはご壮健にてお過ごしのこととお喜び申し上げます。

先日は、母がお世話になりまして誠にありがとうございました。
 

PtLetter60久しぶりに米田先生にお会いすることが出来母と共に本当に嬉しく思っております。

今回の検診はちょうど術後10年の節目だっただけに、米田先生にお会い出来た喜びはひとしおでした。

 

10年前、米田先生にお会いした時のことは今でもはっきりと覚えています。

突然の医師からの宣告で“母を失うかもしれない”というとめどなく押し寄せてくる不安に押しつぶされそうになりながら診察室のドアを開けました。

初めてお会いする米田先生は威圧感のようなものを全く感じさせることなく、家族にも実にわかりやすく説明して下さいました。

その時、患者とその家族にそっと寄りそって下さる先生だと直感いたしました。

そして、お話をして下さる時のまっすぐで誠実な米田先生の目を拝見した時「米田先生に母の命をゆだねよう」とその場で確信したことを今でもはっきりと覚えています。

また、不安がる術前の母に対しても何度も向き合ってお話しして下さり、最終的には母の意志を尊重して、最善の方法を選択して下さった米田先生のお医者様としてのお姿には、いつも本当に頭の下がる思いでした。

ありがとうございました。

さらに、患者の家族に対してもいつも温かく見守って下さる米田先生のお人柄にもどれだけ心が救われたかわかりません。

米田先生が新たな命を母に吹き込んで私どもの元へ戻して下さったこと、日々感謝致しております。

 

先生から渡された命のバトンを一日でも良い形でつなげていきたいとの思いでこの10年無我夢中で駆けぬけてきましたが、先日、先生に、「弁の状態が手術した時のままだ」と教えていただき、私もまた救われたような気持ちでした。

私にとっては最高に嬉しいお言葉でした。

少しずつ老いてきておりますのでこれからは今まで以上に私の課題も増えてくるかとは思いますが、これから先も引き続き良い状態のままでさらなる未来へとつなげていきたいと思っております。

 

本日は当地の初夏の味覚である小夏を一箱別送させていただきましたので、お召し上がりいただければ幸いです。

食べる前に少し冷蔵庫に入れると、さらにおいしくいただけると思います。

名古屋の方のご住所がわかりませんでしたので大変失礼かとは存じましたが、病院の方へお届けさせていただきました。

 

今後も何かとお世話になることと存じますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

両親からも米田先生にくれぐれもよろしくと申しております。

末筆ながら、米田先生のますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。

謹白

平成24年5月28日

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執筆:米田 正始
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⑥a ベントール手術―安全で確実な基本手術で難手術のセーフティネットにも【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月25日

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◆ベントール手術とは?

**ベントール手術(Bentall手術/ベンタール手術)**は、大動脈基部拡張症に対して行う大動脈基部置換術の標準手術です。

大動脈基部拡張症は、マルファン症候群、大動脈二尖弁、大動脈炎症候群などに合併しやすく、放置すると大動脈瘤破裂や重症の大動脈弁閉鎖不全症を引き起こす危険性があります。

ベントール手術は、このようなリスクを根治的に取り除くために行われます。

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◆ベントール手術で行う3つの操作

ベントール手術の3操作


  1. 大動脈弁置換術:人工弁を用いて大動脈弁を置換

  2. 上行大動脈置換術:人工血管で置き換える(人工弁と一体型の人工血管を使用)

  3. 冠動脈の再建:左右冠動脈の入口部を人工血管に縫い付ける

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つまり、大動脈基部にある構造をすべて人工物に置き換える包括的な手術(大動脈基部再建手術)です。
これにより、大動脈弁逆流・上行大動脈瘤・バルサルバ洞拡張を一度に解決できます。

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IMG_0723◆成績と位置づけ

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IMG_0726

ベントール手術は、心臓血管外科の中でも「大手術」とされてきました。
操作が多く、いずれも不完全だと重大な合併症につながるため、高度な技術が要求されます。

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しかし、確実に完遂すれば長期予後は非常に良好です。
特に機械弁を用いた場合、10年間の再手術率はきわめて低いことが知られています。

現在では、バルサルバ洞を再現できる人工血管の開発により、さらに自然な構造と良好な成績が期待されています。

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アメリカ・ジョンズホプキンス大学をはじめ、心臓外科の修練プログラムではかつて「ベントール手術を確実に行えること」が一人前の外科医の証とされるほど、代表的な手術です。

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◆人工弁の種類と選択

  • 機械弁:耐久性が高く、若年者に多く選ばれる。ただしワーファリン内服が必要。

  • 生体弁:60〜65歳以上で多用される。近年は若年者でも自然な生活を求めて選択する人が増加。将来的にカテーテル治療(TAVI)で再治療が可能な見込み。

  • 自己弁温存(David手術(右図)・Yacoub手術):大動脈弁がまだしっかりしている場合に可能。ワルファリン不要で長期耐久性も期待でき、特に若年患者さんに有利。IMG_0719

ただし、自己弁の強度が不十分な場合は、より安全で確実なベントール手術が適切とされます。その意味で、ベントール手術は難症例のセーフティネットとしても重要です。

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◆合併症対策と改良点

かつては出血や冠動脈吻合部の瘤形成などが問題でしたが、現在は以下の工夫により大幅に改善しています。

  • 完全止血と瘤再発防止の徹底

  • 冠動脈の入口部を「弱い大動脈壁に頼らない方法」で移植

  • 冠動脈のねじれや狭窄を防ぐ位置決めの工夫

  • 将来の再手術やTAVIに備えた安全な再アクセス設計

私たちのチームでは、生体弁を人工血管に組み込む工夫を行い、将来の再手術をより安全に行える設計を導入しています。

またMICSの良さ(創が見えにくいことと痛みが少ないこと)のうち痛みが少なく、早く仕事復帰、運転復帰ができる方法(もうひとつのMICS)を使っています。

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◆Q&A:よくある質問

弁の状態に加えて患者さんの年齢やライフスタイルその他を考慮し、相談して手術法を決めるのが安全安心です

Q1. マルファン症候群の大動脈基部拡張では必ずベントール手術が必要ですか?
→ 大動脈弁が壊れている場合はベントール手術が根治法です。
弁が保たれていれば、デービッド手術など自己弁温存術が可能な場合があります。

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Q2. ベントール手術は危険ですか?
→ 昔と比べて合併症は大幅に減少しています。止血技術や冠動脈再建の工夫により、安全性は大きく向上しました。

◆まとめ

  • ベントール手術は大動脈基部置換の基本かつ標準的な手術です。

  • 確実に行えば長期予後は良好で、心不全や大動脈破裂のリスクを根治的に解決できます。

  • 自己弁温存術(David手術等)とともに、大動脈基部再建の両輪をなしています。

  • 患者さん一人ひとりの年齢・生活スタイル・大動脈弁の状態に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。

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